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科学は社会に「正解」を与えうるか? [▼連載【新型コロナウイルスと社会】]

前回の続きです。
アマビエの例を見ると、人々は科学よりも妖怪を信じる(?)みたいです。
まあ多くの人は、自粛ムード中の明るいニュースと捉えていると思いますが、
本当に妖怪の効力を信じている人もそれなりに多いようにも思います。

そんな世の中に警鐘(?)を鳴らしたいわけではないでしょうけれど、
連休中にある番組を見ていまして、とある哲学者が、新型コロナウイルス
への対策を含む、今後の世界の経済情勢についてこういってました。
「人々はもっと科学を信頼して、感染防止と経済発展に務めるべきだ」
果たしてそうでしょうか? 人々はもっと科学に頼るべきなのか?

Science.JPG
 WFIRST at the American Astronomical Society Conference - 2020
 by NASA Goddard Space Flight Center
 (protected by CC License)
 https://www.flickr.com/photos/gsfc/49385615278/

私はあえて、「科学は”役には立たない”」と述べたいと思います。

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私は地球を研究する学者です。その知見は、自然災害への防災や地球環境の
保全に役立つはず。そう思って、教壇に立ってきました。その一方で、
新型コロナウイルス蔓延よりもずっと前から、以下のような悩みがありました。
(深刻な悩みというよりも、ボンヤリ…と考えてました)。
「地球科学や地震学を勉強すれば、巨大地震や自然災害のときに
 生き延びやすくなるのだろうか?」

確かに「災害への知識があったので、生き延びられた」という経験談を聞きます。
一方で「知識はなかったが、たまたま生き延びられた」という話も多く聞きます。

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「仮に防災教育を頑張ったとして、災害で亡くなる人は少なくなるのだろうか?」
1年と少し前に、ある研究者と2時間ばかり、そんな議論をしました。
その時の結論は「大学をみれば、答えが分かるよね」でした。
もしも、学問で得た知識や経験が、直接的に人間の人生に作用するのであれば
大学や大学院で勉強をした人は皆、幸せで、良い人生を送っていなければ
なりません。しかし現実は違う。
学ばないよりも学ぶほうがよいけれど、災害等の現実的な社会問題に対しては
学びは「ちょっと安心」な人生を与えてくれる程度ではないか?
当時、そんな結論に至った気がします。

ならば学問とはなにか? 大学とはなんだろうか?

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その疑問への私なりの回答は、意外なところで見つかりました。
つい先日、私は(ぼへーーっと)NHKの日曜美術館を見ていました。
先々週の日曜日でしょうか? 芸術家"オラファー・エリアソン"が特集されて
いました。私は不勉強で全く存じませんでしたが、途中から食い入るように
見てしまいました。エリアソン氏が得意とするのは、環境問題や自然をテーマ
としたインスタレーション(オブジェなどを用いた現代美術)です。

art.JPG
 左:ビューティー(虹は見る人にとって同じようには見えない)
 右:ときに川は橋となる 2020年
   (円形の部屋の壁に揺らぐ月のようなイメージが映し出される)
 https://casabrutus.com/art/134495 より

その番組で流れていた、エリアソン氏へのインタビューにハッとしました。
実は、エリアソンさんの言葉をメモしそびれたのですが、家内が録画してくれて
いたので、巻き戻しつつ、メモすることができました(感謝!)。

アートはただ鑑賞する対象ではなく、プラットフォームのような場所なんです。 アート単体では解決策にはなりません。でも、アートという場所で私達が対話を交わすことで、いま何が重要なのかを考えることができるのだと思います。
                   オラファー・エリアソン(独アーティスト)

なるほど。。。。上記の「アート」はそのまま「科学」に置き換えられる
ように私は感じました。科学も、よりよい議論のための、プラットフォーム。
悩みが少し晴れた気がしました。

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科学は万能ではありませんが、無駄でも有りません。例えば新型コロナ
ウイルス感染拡大については早くから科学的な予測がされていました
例えば本シリーズ連載では下記のように解説していました。
(3)https://goto33.blog.ss-blog.jp/2020-04-02 ※災害は長期化する
(4)https://goto33.blog.ss-blog.jp/2020-04-03 ※予測は可能(?)
(5)https://goto33.blog.ss-blog.jp/2020-04-18 ※規制の効果あり
また台湾の研究者も発表されていますね。こちらでは4月中頃~GWに感染者増
のピークを迎えることと、ハッピーケースだと5月上旬に終息するが、そうで
ない場合は5月末以降に終息が伸びることが予測されていました。
 model.JPG
 2020年4月19日
 台湾の研究者が日本の新型コロナ感染拡大を試算、
 5万人感染で「第二の湖北省になる」と警告
 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19371 より

緊急地震速報の発出当初から、5月末までは感染拡大が続く可能性が十分に
あることは、科学的に予想されていたのです。私達がこういう情報をベース
に、どのように生活すべきかを議論できる素地がちゃんとあれば、
「緊急地震速報が伸びた!! 誰のせいだ! ワシのせいではない!」
などという批判はでてこなかったと思います。
●国民の痛みをわかっていない…小籔千豊 政府への怒り止まらず
「安倍さん、何考えているのかな」
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200505-00000208-spnannex-ent

感情的になる気持ちは分かります。
一方で、感情でなんとかならないものもあります(例:物理や化学の法則)。
科学と感情の両方を並べてみて、物事を考えるにはどうすればよいか?
いま、この国に大きく欠けているものは、、、
・科学を土台とした議論の能力の育成
・科学を土台とした議論の場の創出
であることが、災害のたびにあぶり出されているように思います。

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MANTA

参考:
ユヴァル・ノア・ハラリ氏(『サピエンス全史』ほか)が予見する「新型コロナウイルス後の世界」とは?
https://www.asahi.com/and_M/pressrelease/pre_11307494/

NHK「緊急対談 パンデミックが変える世界」内容まとめ
https://note.com/sala_mimura/n/nb7e4ee4713dd

教育が大事なことには同意します。
by MANTA (2020-05-07 10:03) 

MANTA

いまあらためて思うと、上記の台湾の研究者による「第1波」の予測は「楽観的シナリオ」に近かったですね。緊急事態宣言の効果だと思います。

緊急事態宣言は効果がない!という人もいますが、その後の緊急事態宣言でも新規感染者数は確実に減っていますので、まだ効果はあるのだと思います。しかしこれは、社会とか政治への信用の上でなりたちますから、今後も必ず効果があるとは限りません。
by MANTA (2021-06-27 12:23) 

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