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立てこもり事件を解決する秘密道具 [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

先週末、さいたま市は以下の事件で大騒ぎだったようだ。
●ネットカフェ30時間立てこもり、鍵壊して突入し男逮捕…人質の女性従業員保護
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20210618-OYT1T50284/
●「物壊れた」と店員呼ぶ、埼玉 ネットカフェ立てこもり、男送検
 https://nordot.app/779148138771529728?c=39546741839462401

この事件では、解決まで30時間以上を要したらしいが、その主要因は、
今回のネットカフェのブースが「閉鎖型」であったためだと言われている。
●ネットカフェの快適構造がアダ? 密室32時間の恐怖
https://news.yahoo.co.jp/articles/9e651e666c6b058446ceda7d53dc057b9e07d5af

manga.JPG
 Manga Kissa 2 by Steve Nagata (CC commons 2.0)
 https://www.flickr.com/photos/stevenagata/6020913381

上の写真は一般的なネットカフェのブースである。天井と壁の間は開いていて
密室ではない。だが、今回の事件のものは下図のように完全なボックス型だった。
狭い密室中の犯人の様子を、外部からうかがい知ることが困難だったため、
解決まで時間がかかったらしい。

manga2.JPG
 「FNNプライムオンライン」より
 (ネットカフェ立てこもり 犯行前後の詳細明らかに)
 https://www.youtube.com/watch?v=7E2FG3bT7LU

上の図では警察官がドアを開けて犯人と対峙しているが、これは逮捕時の
様子である。立てこもり中はドアは閉ざされたままであり、警察からの
軽食などの差し入れは、個室のドアにあけた小さな穴を介して行われた。
この穴も差し入れ時以外は塞がれていたらしいから、警察としては差し入れの
一瞬、中をチラリと覗く以外に密室内部を見る方法がなかったのだろう。

しかし科学的な捜査方法は日々進化している。
30時間以上もあったのだから、ハイテク捜査もなされたのではないだろうか?
まず、すぐに思いいつくのは密室内部の盗聴だろう。
調べてみると、「コンクリートマイク」というものがあって、コンクリートの
ような硬い壁ならば、壁を通して音を聞くことができるらしい。ただし、
クッション材などで防音性が高まると盗聴しづらくなる。漫画喫茶のブースの
壁は、防音材を挟んだパネル製が多い。しかも小声で話されると盗聴は難しい。

次に、壁の向こうのどこに人がいるかを探知することは可能だろうか?
可能だ。以下のような商品がすでに売り出されている。
●レスキュー・スキャンTRx
 https://www.oyo.co.jp/products_lists/rescue-scan-trx/
●電波の目でがれきの下の生存者を見つけ出せ!、人体探索レーダーが秘める可能性
 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1106/22/news033.html
いわゆる「人命探査装置」とか「人命探査レーダ」と言われるものである。

radar.JPG
 人命探査レーダの概念図(書籍「地底の科学」より)

ほぼSFの世界、あるいはドラえもんのひみつ道具のようであるが、
原理は簡単だ(※)。まず震災や事故などで、人が瓦礫に埋もれた状態を
考える。まずアンテナを1箇所に固定し、しばらくの間、電波を送り続ける。
上図の瓦礫・人体表面・人体内部などのアチコチから電波が跳ね返ってくるが、
人体の表面や内部は動くので、電波の跳ね返りの様子が時々刻々変化する。
つまり、電波の跳ね返りの様子が時間を経ても全く変化しなければ
そこに人はおらず、変化するようであれば人がいるとが分かるわけだ。
電波の方向、往復時間から、人の位置は概ね把握できる。
(なお人命探査レーダが秀逸なのは、瓦礫に埋もれた人が気絶していても
生きていれば探知できる点だ。生きている限り肺は動く。この大きな臓器の
動きは電波で検出できるのだ。なので「人命」探査レーダと呼ばれている)

以上は震災などの使用例だが、漫画喫茶のブース内部の人間の位置を探ることは
当然可能である。探査深度は10mもある。また電波を用いているので、分厚い
防音材の壁であっても、ブース内を探査できる。ブースの壁が金属製であれば、
壁で電波が反射されるので内部を知ることはできないが、そんな壁材は使っては
いないだろう。ただし、SFや漫画でみるような、壁越しに人の姿や顔が透視できる
ほどの能力は人命探査レーダにはない。どのあたり人がいるかが大雑把に(10cm
程度の精度で)わかるのみである。また、男女の違いも分かるかどうか怪しい。
うろ覚えであるが、この装置はたしか呼吸回数を測れる(回/分; 機器に表示される)
はずなので、警察があけた小穴から室内をたまに覗き見た情報とあわせると、
どちらが犯人で、どちらが人質か分かるかも知れない。

今回の事件では、人質の命は無事だったそうだ。よかった。
東京消防庁はレスキュースキャンを持っているはずなので、この秘密道具が
ひょっとしたら今回の事件解決の一助となっていたかも知れない。

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※注:
なお、人命探査レーダはWikipediaでも紹介されているが
https://ja.wikipedia.org/wiki/電磁波人命探査装置
原理の説明は間違っている。ドップラー効果を用いている例もある
ようだが、そこまで複雑なシステムにする必要はない。
上記のITmediaなどにも原理は説明されている。
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