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本気!? 電離層で地震を予知する(1) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

「本気」と書いて「マジ」と読む。皆さんお久しぶりです、「電磁気で地震予知」の
お時間です。今回は、電離層を観測すれば地震予知ができるのではないか?
というお話です。それって本当かなぁ? ご紹介いたしましょう。

この話題、地震直後の4月頃から最近まで、ちょくちょく新聞で取り上げられています。
●大震災40分前上空の電子急増 チリ地震と類似「前兆か」
 www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/281622.html
 ※すでに削除されています。
●電離層の変化、東日本大震災でも…予知に有望?
 www.yomiuri.co.jp/science/news/20110715-OYT1T00203.htm

新規作成_0.jpg
図は読売新聞の記事より。原理を簡単に説明すると、、、
・GPSアンテナは複数の衛星から電波を受けている。何秒前に送られた電波かもわかる。
・電波が届くのにかかる時間 X 電波の速度(約30万km/秒)=衛星とGPSアンテナの
 距離が分かる。(これがGPSカーナビの原理
・ところが地上と衛星の間にある電離層内では、電波の速度が遅くなる。カーナビ程度
 なら問題ないけど、地殻変動のような微小な移動をキャッチする場合は大きな誤差だ。
・そこで複数の電波を使って、電離層内の電波の”遅れ”を補正している
・電離層での電波の速度はそこを漂う電子の数に比例する。なので補正が目的
 なんだけど、ついでに電離層内の電子の数(GPS-TECという)が分かっちゃう。
・じゃあ、これを測ってたらなにか分かるかな?例えば地震予知とか?

ってことで北海道大学の先生が解析した結果がこちら。
新規作成_2.jpg
(第191回地震予知連絡会資料より:名古屋大学取りまとめ分)
http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/activity/191/image191/007-016.pdf

赤い所が3月11日に電離層の電子の数が増えた)=電波が遅く伝わる)ところ。
時刻は05:45とあるけど、日本時間は14:45。つまり東北地方太平洋沖地震の
発生直前には電離層の電子の数がなぜか増えていたというわけです。
電離層のこの異常は地震の1時間前には見られなかったそうです。

今度は幾つかの観測点に限って、時間を追ってみてみましょう。
新規作成_1.jpg
(同、第191回地震予知連絡会より)
横軸は時間で、日本時間の正午頃から16:30頃まで。縦線の場所が地震の起きた
14:46です。縦軸は電子密度で、(理由は端折りますが)普通はなだらかに変化する
そうですが、地震発生の40分くらい前から電子が増える方向にずれていく様です。
なので、これで地震予知ができるのでは?と話題になっているんですね。

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さてこれは本当に地震の前触れなのでしょうか?まず最初に、この電離層の異常が
本当に地震に関係する現象かどうかについて考えてみましょう。ポイントは3つです。
 1:時間=その現象の起きるタイミングは、地震発生のタイミングと相関があるか?
 2:規模=その現象の大きさは、地震の大きさと相関があるか?
 3:空間=その現象の広がりは、地震の震源域や余震域の広がりと相関があるか?

新手(?)の前兆現象は、たいていこの3つの検証のいずれもパスしません。
今回の電離層の電子数異常はどうでしょうか?まず1番目の「時間」ですが、
電離層異常は地震に先立って起きてますが、本震時にピークを迎えていません。
地震発生後も異常が継続し急に終わっているように見えます。
次に2番目の「規模」ですが、余震活動でも同じような異常が見られたという話は
聞きません。M9.0の本震でだけ、見られたとするとちょっと不思議ですね。
…と、ここまではよくある「怪しげな前兆現象」とあまり変わりませんが、
今回注目すべきは、3番目の「空間的広がり」です。
上の2番目の図をよく見てください。赤い点一つ一つは陸上ではなく「電離層」の
異常を示しています(その下の灰色が日本列島)。日本列島と同じ形をしている
のは、日本中を覆い尽くすGPSネットワークで電離層の観測を行ったからで、
あたかも日本列島の「陰」が電離層に「写っている」ような格好になっています。
こういう凄い数の観測をおこなっていたので、地震の震源域(四角い枠)と、
赤い地域の一致が一目瞭然なわけです。

地震の前兆現象の観測はお金も時間もかかるので、たいてい限られた数の観測点で
行います。なので上記の3番目の検証もパスしないことが多いのですが、今回は
阪神淡路大震災以降に国土地理院が全国展開したGPSネットワークのおかげです。
数は力なり。

ということで電離層異常は、今回の地震に関連する現象と考えてよさそうです。
では、電離層を観測すれば、地震予知は出来るのでしょうか?
次回に続きます。

※ちなみにこのGPSネットワーク、津波のリアルタイム監視にも活用されています。
 過去に紹介しています。 →  http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2010-03-01
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乾物屋

>たぶん地震によって(地震発生前に)引き起こされた現象と考えて
>よさそうです。では、電離層を観測すれば、地震予知は出来るの?
次回にすごく期待しています!
by 乾物屋 (2011-08-19 10:46) 

MANTA

乾物屋さん、ひっぱるようですみません。今回は早めにUPします!
(もう下書きは済んでます)
by MANTA (2011-08-19 12:54) 

納豆菌コール

「地震前兆が電離層の自由電子の乱れや増加に関係ありそう」記事、大地が(+)で電離層が(-)の原理は大変明快な説明で、地下の電流測定の研究と
一致するので期待を持てそうですがいかがですか。電離層の乱れは太陽の黒点が多い時に電離層の自由電子密度が高くなりHF通信(特に50MHz,21MHz)通信が容易に遠方まで届くこと、特に春から夏にかけて季節的変動があることは知られています。(アマ無線家)
地震の広がりとGPSの利用は地震国日本とその技術力で早々に答えがでそうですね。MANTAさんの次回のup期待しています。いづれにせよ地球規模のマクロ電磁気学が今後新しい分野になりそうだと思います。
by 納豆菌コール (2013-05-11 10:44) 

MANTA

>MANTAさんの次回のup期待しています
納豆菌コールさん、コメントありがとうございます。
すでにUpさせていただいています。御覧ください。
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2011-08-21
by MANTA (2013-05-12 10:03) 

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