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事業仕分けと科学コミュニケーション(1) [ 科学コミュニケーション]

ちょっと前だが、事業仕分けの第2弾が行われた。
以前の第1弾のときにも書いたが(その1その2その3)、これらはどうやら財務省の
シナリオに従った与党によるパフォーマンスに過ぎないと思っている。思ってはいるが、
しかし、こうした議論を定期的に公開環境で行うことはよいことである。実際、下記の
様に競争入札状況や研究アシスタントの採用基準に対するチェックが行われている。

新規作成_1.jpg
●事業仕分け第2弾「意味不明だ」理研の不透明体質にメス
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100426-00000544-san-pol

こういった経営や契約に関する仕分けについては大いにメスを入れて頂きたいが、
専門知識、それも科学技術的なものになると仕分け人の能力に疑問が生じる。
例えば下記である。
●[事業仕分け]50km/hじゃダメなんですか?
 http://news.livedoor.com/article/detail/4743270/
●[事業仕分け]公然と嘘つき呼ばわり
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100428-00000005-rps-soci

つまり、似たような2つの独立行政法人でちょっと違う自動車衝突試験を行っているので、
一部事業の統合を目指したわけだ。それぞれ時速50kmと55kmで試験しており、あまり
違わないから、仕分け人は統合できると直感したのだろう。しかし運動エネルギーは
速度の二乗に比例する(※1)。従って時速55kmで走る自動車は時速50kmで走る
自動車の約20%増しの運動エネルギーを持つ。20%の違いは大きいのではないか?
仮に自動車に与える加速度が同じとすれば、実験用滑走路は20%長くないといけない。
仕分け人が「嘘だ」と切り捨てるには、知識も議論も足りない気がする。
新規作成_1.jpg

なぜこのようなことになるのか?それは仕分け人の内訳をみると少しわかる。
●事業仕分け対象47独立行政法人151事業(サイエンスポータル)
 http://scienceportal.jp/news/daily/1004/1004211.html
●行政刷新会議ワーキンググループ(WG)評価者名簿(行政刷新会議)
 http://www.shiwake.go.jp/data/files/63dec4ad-2deb-3b38-2902-4bd128117723.pdf

民間人のうち、大学教授など大学からの人選に注目してみる。半分弱を占めるこれらの
知識層は、弁護士や監査法人社員とは違い、学術面から評価を下すべく選定されている
と思ってよいだろう。大学からの仕分け人は13名。このうち、科学技術関係はたった2人
(伊永氏と松井氏)である。2名ともワーキンググループBで仕分けを行った。で、前述の
「50km/hじゃダメなんですか?」という仕分け人の発言はワーキンググループAの側で
出た。そういうことである。

ちなみに私が見たところ、事業仕分け第2段(前半)の対象47機関中、
24機関は科学技術研究に関係していると思われる(※2)。
●事業仕分け(前半)の対象となる事業(行政刷新会議)
 http://www.shiwake.go.jp/data/files/cffae87b-bf39-e758-820d-4bd440754968.pdf
確かに伊永氏・松井氏の座るワーキンググループBのほうに科学技術関係が多めに
振り分けられてはいるが、それでも科学技術に詳しくないと思われる評価者の数が
多すぎないだろうか? これでは上記のような直感に頼る評価になってないだろうか?

----
例えば宇宙航空研究開発機構の「航空科学技術事業」と「宇宙航空技術基盤の強化」
については、仕分け結果は「ガバナンスの一層の強化、民間資金のより一層の活用」
http://www.shiwake.go.jp/shiwake/detail/2010-04-26.html
であった。しかし先日の記事にも書いたように、宇宙開発は民間資金で簡単になんとか
なるものではない。国家ビジョンこそが必要である。ところが呆れることに評価の中には
「科学技術政策と同様に国家戦略が不明な段階では、事業予算を継続するのは問題が
ある」との一文もある。本末転倒だ。ならば一刻も早く国家戦略を立てるべきである。
むしろ国のビジョン欠落を民間に押し付ける形になる方を危惧する。私見だがこれらは
宇宙開発研究の必要性を「民間活用」という点でしか理解できない仕分け人の能力の
限界から来るものではないか。今後定期的に実施されるとも言われている事業仕分け
では、経営・契約の専門家だけでなく、科学技術の専門家をもう少し加えるべきである。

…と言ってみたが、それも実は対処療法に過ぎないように思う。
より根本的な問題とは何で、どうすればよいのだろうか?
長くなったので次回に続く。

※1:ところで運動エネルギーはなぜ速度の二乗に比例するのか?公式の暗記じゃなく
  その理由を考えてみたことはありますか?改めて今考えると面白いですね。

※2:科学技術研究に関連すると思われる、事業仕分け対象機関(24機関)
沖縄科学技術研究基盤整備機構, 国立科学博物館, 農林水産消費安全技術センター, 家畜改良センター, 水産大学校, 製品評価技術基盤機構, 航空大学校, 水資源機構, 自動車事故対策機構, 海上災害防止センター, 環境再生保全機構, 情報通信研究機構, 物質・材料研究機構, 科学技術振興機構, 日本学術振興会, 理化学研究所, 宇宙航空研究開発機構, 日本学生支援機構, 日本原子力研究開発機構, 医薬品医療機器総合機構, 医薬基盤研究所, 農業・食品産業技術総合研究機構, 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 建築研究所
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Working Dad Oversea

まぁ、奥様を秘書に雇ってしびれる給与を払っていた件が明らかになったのはいいけど、科学技術の研究やら開発に「費用対効果という物差し」ってのはどうかな?
すぐに結果が出ない(「効果」を定量化できない)研究開発もあるわけだし、日本の勝ち目は、というよりも生き残りの切り札はすでに(科学)技術力とアニメ・ゲームしかないんだから、そこはケチらない方がいいんじゃないかな?

理解力も想像力もなく因縁をつける気満々の仕訳人に、時間と労力を割いて説明しなくてはならない科学者・技術者がかわいそうになってくるなぁ。

ところで、説明者を「嘘つき」呼ばわりした仕訳人は謝罪したんだろうか?
名誉棄損で訴えられて当たり前のところだが。
by Working Dad Oversea (2010-05-06 21:59) 

SERG

> ※1:ところで運動エネルギーはなぜ速度の二乗に比例するのか?
> 公式の暗記じゃなく、その理由を考えてみたことはありますか?
> 改めて今考えると面白いですね。

#おっ、ちゃんとできるかなぁ…(笑)
dT = Fdx, dp = Fdt, dx = (p/m)dt
※T:運動エネルギー、F:力、p:運動量、m:質量、x:位置、t:時間

dT = Fdx = (dp/dt)・(p/m)dt = (p/m)dp
となるから、両辺積分して
T = (1/2m)p^2 (i.e. = 1/2 mv^2 )
#これじゃ、まるで答えになってないですねぇ…

運動量p(速度v)の物体が静止するまでに為し得る作用が
∫(p/m)dp ( = ∫mv dv )
と書けるから、という説明になるのでしょうかね?

*****
はじめまして、いつも楽しく拝見させて頂いております。
特に温暖化絡みのアイテムでは「なかなか凄いコメント」が多く来て
たいへんでしたね。MANTAさんは説明がお上手なので感心しています。
by SERG (2010-05-06 22:07) 

MANTA

Working Dad Overseaさん、コメントありがとうございます。
>生き残りの切り札はすでに(科学)技術力とアニメ・ゲームしかないん
>だから、そこはケチらない方がいいんじゃないかな?
資源のないこの国では、アイデアやコンテンツあるいは人材そのものが、
この国の資源ですね。なるほど。

>科学技術の研究やら開発に「費用対効果という物差し」ってのはどうかな?
例えば、どのタイムスケールで費用対効果を算出するかという問題が考え
られますね。長期的な視野でペイする研究もあるでしょう。あるいはペイする
見込みがなくても、世界に冠たる研究成果は間接的にペイする(より生活に
直結した科学技術面でも成果をあげられる)でしょう。F1は一般道を走れない
けど、普通自動車にはそのテクノロジが生かされる、というようなものかな?
このあたりをちゃんと説明できるのは、専門家でなければ難しいと思います。
by MANTA (2010-05-08 11:04) 

MANTA

SERGさん、ご説明ありがとうございます!問題ないように思います。
ニュートンの第2法則(運動量の時間変化は物体に作用する外力に等しい)
は、一般の方への説明としてはちょっと分かりにくいかもしれません。
運動量を用いない下記のような説明も考えてみました。どうでしょう?
加速度を一定とおいた分少し簡単になっただけですが。
------------
静止している物体(質量m)に一定の力Fをかけて、位置0→xまで移動させ
ます。力をかけた時間tのとき、物体の速度v、加速度a(=一定)は、
 v = a・t (速度=加速度×時間)
 x = ∫v dt(位置=速度の時間積分)= (1/2) a・t^2
ここで必要となる仕事(E)=力(F=m・a) × 距離(x)なので、
 E = (m・a) x = (m・a) (1/2) a・t^2 = (1/2) m・(a・t)^2 
すなわち仕事は力を掛けた時間の2乗に比例します。ここがちょっと意外な
気がしますが、力を一定に掛け続けると物体の速度はどんどん上がって
行くので、力をかける時間が倍になると移動距離は4倍に伸びるのです。
さて、Eを速度vで書きなおすと次のようです。
 E = (1/2) m・v^2
従って、仕事のすべてが運動エネルギーになるとすれば、
運動エネルギーは速度の2乗に比例します。
by MANTA (2010-05-08 11:55) 

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