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津波はなぜ日本に押し寄せるのか? [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

前回の記事で「アメリカの対応と比較しても、(日本の対応は)やや慎重にすぎる」
というコメントを頂いていました。確かに下記を見ると、米国西海岸には50cm程度
の津波しか来ていないようです。
●Tsunami Event - February 27, 2010 Chile(NOAA:米国海洋大気庁)
 Model and Data Comparison Plots
 http://nctr.pmel.noaa.gov/chile20100227/chile20100227-modeldata.html

日本にはこれを上回る1.2mの津波が来ているのです。対応に違いがあるのは、
このあたりにも要因があります。ところで、チリからみれば、アメリカよりも遠い日本へ、
なぜ大きな津波が押し寄せるのでしょうか? その理由は2つほどあります。

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と、解説の前に、、、同じくNOAAによる今回と前回のチリ地震の時の津波の最大波高の
分布を見ておきましょう。これらは数値計算による予測値ですが、観測値と概ね合うようです。
2010ChiliEq.jpg
  こちらが今回(2010年)。原図はこちら。黒~赤が高い津波の海域。
  赤い帯が炎のように日本方面に伸びている。赤=波高40cm位です。

1960ChiliEq.jpg
  こちらが前回(1960年)。原図はこちら
  炎の勢いが増した!黒=2m以上、紫=1m位。

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まず津波は四方八方へ等しく広がるわけじゃありません。下図を見てください。
tsunami.jpg
海底=水面が半球状に盛り上がる(左)とそうなりますが、チリ地震の場合は海岸線と
並行な海底逆断層に沿って、細長く海底が隆起します(右)。すると盛り上がった水の塊は、
その両端以外では隣り合う水柱同士がぶつかるので、隆起に垂直方向にしか広がれません
(太い赤矢印)。つまり津波には指向性があって、チリ地震の場合は津波が向かう
方向は日本なのです。先の「炎」はこうして形成されます。

シミュレーションもやってみました。下記のサイトを活用させて頂きました。
●波のシミュレーション(中川のビジュアル物理教室)
 http://www.ne.jp/asahi/tokyo/nkgw/gakusyu/hadou/Wave_simulation/wave-2.html

t2.jpg
津波が伝わる様子を上空から見ていると思ってください。
上の漫画と同様、左が小さな波源、右側は縦に伸びた波源です。右の方が
遠くまで強い波が届いていることが分かります(シマシマが濃いほど波高が高い)
以上は、下記サイトでも解説されています。
●チリ地震津波について(石垣島地方気象台)
 http://www.jma-net.go.jp/ishigaki/school/200402/tiritunami.htm

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日本に高い津波がやってくるもう一つの理由は、海岸線での津波の反射です。
今度も上記サイトでシミュレーションをやってみました。
新規作成_1.jpg
正方形型の壁を置いて、その内側に波源を置きました。壁は太平洋沿岸で、
右壁がチリ、左壁がアジア。上壁が米国、下壁が南極・豪州に相当します。
発生した津波は右から左へと伝わって行きますが(左の図)、上や下の壁で反射した
波(白い点線)が最初の第1波を追いかけていきます(真ん中)。やがて反射波も左壁に
到達し、第1波の反射波と一体となって高い波を作り上げます(右の図)。
津波の第2波、第3波の方が高くなるのは、このような反射波も影響しています。

以上、米国西海岸よりも高い津波が日本へやってくる理由、いかがでしたでしょうか?
実際の津波の伝播はもっと複雑な現象ですけれども、簡単とは言え、自分の手で
数値シミュレーションをやってみると、とても勉強になりました。
興味のある方は、ぜひお試しください。ご自身でも簡単にできますよ~

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その他、今回の津波に関する情報はネット上に公開されています。興味がある方はご覧ください。
・米国海洋大気庁津波サイト(海岸や海底での津波観測データも公開中)
 http://www.tsunami.noaa.gov/
 こちらでは今回の津波の伝わり方をアニメーションで見ることができます。
 http://nctr.pmel.noaa.gov/chile20100227/
・チリ地震の時の断層のすべり量は最大15m!(JAMSTEC 地震・津波観測監視システム)
 http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/maritec/donet/chile1002/index.html
 横ずれ成分も大きいですね。だから津波が予測よりも小さかったのかな?
 ※ちなみに同部署は、紀伊半島沖合に海底ケーブル観測網を展開中です。
 ●紀伊半島沖に地震・津波計=「東南海」対策に期待-無人機で海底に設置へ・海洋機構
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100303-00000110-jij-soci
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おおくぼ

チリでは、逆に注意報や警報を出さなかったことで非難されていますね。

http://www.cnn.co.jp/world/CNN201003010029.html
by おおくぼ (2010-03-07 22:39) 

アヨアン・イゴカー

>津波の最大波高の分布
このような分かりやすいものが現在はあるのですね。
昔、子供向けの科学の本に載っている津波の絵やら文章を見て、理由の分からない恐ろしいものだという、漠然とした恐怖感を持っていました。仕組みが分かれば、その恐怖は、用心に変換されます。
by アヨアン・イゴカー (2010-03-07 23:20) 

MANTA

おおくぼさん、聞いた話ですが最初は震源が深く求まったので日本側も
警報を出さないつもりだったと聞きました。CNNがいうほど簡単な事態でも
なかったかも。しかし最近は災害への対応をしくじると政権に影響が及ぶ
ようになりましたね。昨年も台風被害への対応を誤ったため、台湾内閣が
総辞職しましたし。
http://www.asahi.com/international/update/0907/TKY200909070251.html

アヨアン・イゴカーさん、コメントありがとうございます。
>昔、子供向けの科学の本に載っている津波の絵やら文章を見て、理由
>の分からない恐ろしいものだという、漠然とした恐怖感を持っていました。
まったくその通りで、科学情報はもっともっとネット上にでていくことでしょう。
それらの生データを正しく翻訳できる人材が重要になりつつあるように
感じています。
by MANTA (2010-03-07 23:53) 

竜

おお、そんなサイトがあるのですねぇ。今度小学校とかで話す機会あったら使わせてもらおう(^_^)。

先日ちょっと書いた、コンセプシオンの観測所の方からの続報が測地関係者にありました。その観測所、GPSやパラボラアンテナ(VLBI)、あるいはレーザ測距衛星(SLR)を使っての地殻変動計測、超伝導重力計、絶対重力計、広帯域地震計となんでもござれの万能ステーションなのですが、やはりダメージを受けているそうです。ただ、GPSと超伝導重力計は地震後もUPSと自家発電機で観測を続けているそうで、極めて貴重なデータになりそう。

詳細な状況の記載はリンク先をご覧ください(英語です)。(軍隊来てかなりまともにはなったものの)略奪がまだあるので棒を準備して自警しているとか、コンセプシオン大学もビルが壊れたり、化学教室が爆発したりなど大変な状況が書かれています。ここで出てくる「TIGO(Transportable Integrated Geodetic Observatory/機動型統合測地観測所)」というのがその観測所の名前で、文章を書かれているHayo Haseさんが所長さん(ドイツ人)。最後の方で、全世界の関係者に観測所の復旧支援を呼びかけているのがなかなか感動的です。
by (2010-03-08 02:34) 

おおくぼ

全貌が掴めず考える時間が短い状況で、適切な判断をするのは難しいですけど、多くの人命がかかっていたので、今回のチリ政府の対応は、今後大きな問題になると思います。

それに対して日本政府の対応は、迅速で良かったと思います。
また予測精度も、あの状況では的確な予測の範囲内だと思います。

でも、この前のハイチ救済活動の決定が遅いという非難はあったりします。
例えば、翻訳家の山形浩生さんのWEB日記とか・・・・。

http://cruel.org/other/rumors2010_1.html#item2010012501



by おおくぼ (2010-03-08 15:52) 

MANTA

>なんでもござれの万能ステーションなのですが、やはりダメージを受けて
>いるそうです。ただ、GPSと超伝導重力計は地震後もUPSと自家発電機
>で観測を続けているそうで、極めて貴重なデータになりそう。
竜さん、まず南米でなんでもござれの測地ステーションを構築するご努力に
敬服するとともに、阪神大震災の時を思わせる熱い観測者魂を感じました。
寄付、私でよければしたいくらいです。人類史に資する貴重なデータが取れる
ことを願ってます。

>全貌が掴めず考える時間が短い状況で、適切な判断をするのは難しい
おおくぼさん、防災・温暖化・環境問題、いずれも同じことが言えそうですね。
学問はどこまで有益な情報を出せるのか、これも難しい問題です。
by MANTA (2010-03-09 08:23) 

Working Dad Oversea

ビジュアルで面白くて判りやすい説明だね~。
ナイス。

僕は当時はアディス・アベバにいて、CNNとBBCしかリアルタイム情報がなくて、それを見た上で「日本は慎重だな~」と思っていたけど、チリの地震は津波のターゲットを日本に合わせている訳ね~(←:理解できているのか?、笑)。
by Working Dad Oversea (2010-03-09 13:04) 

MANTA

ナイス、さんきゅーです。 > Working Dad Overseaさん
喜んでいただけて幸いです。
by MANTA (2010-03-09 18:36) 

おおくぼ

津波じゃないんですが、よく読んでいる天気予報ニュースblogの記事に似たような内容がありました。

http://blogs.yahoo.co.jp/wth_map/59193966.html

以下引用

これに合わせて昨日は、
昼過ぎの段階で気象庁から
群馬県や山梨県には大雪に関する情報が出されましたが、
その他の関東地方で、
大雪情報や注意報が発表になったのは、
多くの所で積雪が発生していた午後7時〜午後9時頃にかけて。

いつ雨に変わるか分からない非常に困難な場であったとは言え、
降雪に関する情報がかなり遅くなった感は否めません。

わずかな積雪でも大きな災害が発生しかねない地域ですから。

ちなみに、
筑波ステーションや箱根峠、富士五湖周辺の気温変化などから
夕方の段階では、
関東地方の平地でも積雪の可能性あり、
というなんらかの情報が発表できたのではないか?
と考えます。


天気予報の精度は日進月歩で進歩していると思うんですが、この意見は酷だと思いました。
by おおくぼ (2010-03-11 16:39) 

MANTA

>関東地方の平地でも積雪の可能性あり、というなんらかの情報が発表
>できたのではないか?と考えます。
おおくぼさん、こちらはプロの天気予報士さんのコメントですね?
気象庁と天気予報会社は、いろいろあるようですので(ほら、昨年もWNI社
が気象庁に先んじて台風上陸を報道したとかしないとか)、そのあたりの
ご事情も含んだ上でのコメントかもしれませんね。

by MANTA (2010-03-16 18:17) 

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