SSブログ

無用の警報装置 [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

前の記事「緊急地震速報(動画)」のコメントで、以下のサイトをご紹介いただいた。
(竜さん、ありがとうございます。)

●無用の警報装置 (航空の現代)
 http://www2g.biglobe.ne.jp/~aviation/kogoto070723.html

(以下、引用)

『予知ができないからというので、今度は地震が起こった後の警報装置だなどと、つまらぬことに金と時間をかけるのはどういう了見か。そんなシステムづくりの金があるのなら、それを被災地に送り、たとえば被災者の中でも身体の弱った老人をホテルに泊めたり入院したりする費用に充てる方がよほど役に立つ。』
『つまり、このシステムがあろうとなかろうと、被害を受けるところは受けるし、受けないところは受けないのだ。このシステムによって震源地付近の被災程度がいくらかでも減らせるのなら役に立つわけだが、実際は何の役にも立たない。要するに役人と学者のお遊びに過ぎないのである。』


10/1の緊急地震速報開始に向けて(あるいは開始後も)、このような批判が増えるであろう。
しかし上記記事にはいくつもの「誤解」がある。ちょうどよい機会なので、簡単に解説したい。
なおはじめに断っておくが、私は地震予知や地震調査の予算から多大なる恩恵を受けて
いるわけではない。なので「航空の現代」さんの意見に反論する必然性はないし、むしろ
同意する部分もある。しかし誤解は解かねばならない。

※以下オレンジ色が上記ページでの緊急地震速報への意見。
 読みやすいように原文から多少編集している。

【その1】
震源地から遠い地域ではあまり揺れない。震源地では速報は間に合わない。
そんなものがどれほど役に立つのか?

M6クラスの地震であれば震源地から遠ければさほど揺れない。しかしM8クラスの
地震の揺れは大きい。例えば中越沖地震(M6.8)では震度6弱以上の揺れの地域は
震源から約100kmの範囲。一方、東南海・南海地震が同時に発生する場合(想定M8.5)
では震度6弱以上の地域は差し渡し約500km。つまり震源地から遠い地域でも大きく
揺れうる。一方で地震の波の伝わる速さはそう変わらない。従ってこのような大きな地震
については速報は有効である。(前の記事で竜さんがコメントされたとおりである。)

M8クラスの地震でも震源地付近では速報が間に合わないことは変わらない。
ただし速報によって、機械を自動停止させることはできる。いや逆だ。そもそもこの速報は
機械を自動停止させるのがむしろ第1目的で、人への警告はそのついでと考えるべきかも
しれない。0.1秒でも、機械にとっては十分な場合は多く、震源地付近でもある程度の
効果はあるだろう。

【その2】 
このシステムがあろうとなかろうと、被害を受けるところは受けるし、
受けないところは受けない。

確かに建物の被害は緊急地震速報があろうとなかろうと変わらない。
(将来的には速報を受けてから起動するタイプの防振装置も開発されるかもしれない)
しかし揺れが小さければ人的な被害がないと考えるのは早計だ。都市はかつてないほどの
超過密状態であり、さらに超効率化が進んでいる。余裕がないため、ちょっとした揺れで
多大な影響を受けうる。例えば阪神淡路大震災の場合は4万人を超える負傷者が出たが
主な原因は家屋や転倒した家具によるはさまれ、室内の落下物などである。

●神戸市消防局 > 阪神・淡路大震災 > 被害の状況(総論)
 http://www.city.kobe.jp/cityoffice/48/quake/higai.html

家屋は別として、家具や落下物などちょっとしたことで怪我をしている。なぜだろうか?
人は「揺れる」ということを普段想像することができない。船上を例に取ろう。
初めて船に乗る学生は(自ら揺れる船に乗ってるのに)、船が大きく揺れたときに
部屋に置いていた飲み物をぶちまけたり、パソコンを床に落としてしまうことがある。
なぜだろうか?どうやら揺れるという経験が乏しいので、揺れたときどうなるかを想像
できないようだ。阪神淡路大震災以降、家具の固定率は多少あがったが3割を切っている。
家具を固定しない理由の1番目は「特に理由はない」であることも、想像力や経験の欠如
から来ているのではないか?

●平成19年版防災白書(内閣府)
 第1部 > 序章 >3 災害に対する意識の現状
 http://www.bousai.go.jp/hakusho/h19/index.htm

これではちょっと揺れるだけで落下物でケガをするのも当然であり、「家具の固定率
をもっとあげるべきだ」と理想論をかざしても被害は減らすことはできないだろう。
しかし「揺れるまでの10秒に部屋の中で一番安全な場所に行く」というのは誰しも容易に
想像できる。緊急地震速報によって、負傷者は少なくなるのではないか?地震の際、
震源地の周辺とはいえ軽傷者の救急要請が減れば、重傷者の命を救える確率も高くなる
のではないか?

一方で、上記の神戸市のまとめによれば、家屋倒壊による圧迫や窒息死が死亡原因の
過半数を占める。家屋倒壊は緊急地震速報では防げない。しかしコタツでうたた寝していた
ために、家屋倒壊時にコタツがガードとなって助かった人もいるようだ。ならば揺れる前に
壁に寄り添う時間が2秒でもあれば?外であればブロック塀から離れる時間が5秒あれば
どうだろうか?

これらの点は近年の地震の被災者の方々の意見をぜひ伺ってみたい。

さらに緊急地震速報によって、地震そのものへの関心が高まるのではないかと私は期待
する。例えば被害を起こさないような揺れがやってくる場合を考えよう。
(緊急地震速報が始まっても、ほとんどはこういう被害のない揺れだろう←のぞく震源地)
以前は「あ、揺れた」くらいの関心しかなく、ときおりテレビで巨大地震の被災地が映し
出されて「コワイねえ」と他人事のようにしか想像できなかったものが、緊急地震速報の
開始後には「どこでどれくらいの地震だった、これくらい揺れたねぇ。もっと近いと揺れまでの
時間も短くなるし、揺れも大きくなるんだねぇ」といったことが具体的にしっかりと意識されるので
自宅内や屋外、オフィスなどでの防災対策も進むのではないだろうか?

 こんなふうに地震の揺れが伝わる様子を端末でみちゃうと、
 地震学をかじった私でも改めて自宅の防災のこととかいろいろ考えちゃうね。

ただ普段から揺れる前の5秒、10秒でなにができるかを考えておかなければ、
緊急地震速報は生かせないだろう。自宅内はよいとして、屋外ではどうすればよいだろう?
たとえばデパートの入り口で緊急地震速報。
・デパートの中に入るのがよいのか→棚が倒れてくる?
・デパートの外に出るのがよいのか→割れたガラスが降ってくる?
私にはわからない。
例えば緊急地震速報時にそこに行けば比較的安心という「セーフティーゾーン」を
町やビルのあちこちに作って、共通のマークで知らせてみてはどうだろうか?
このあたりも被災者の意見やアイデアが重要だ。

人気ブログランキングへ

長くなってしまったので、続く()。


nice!(1)  コメント(8)  トラックバック(3) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 8

HMS

 個人攻撃をするつもりはないのですが、この方と別件で国産ヘリの是非について論争したことがあります。

 軍用と商用の採算基準を同列に論じておられたので、欧米の軍用機が日本製に比べて安いのは先般「なぜ質問にこたえるのか?」に書かせていただいた拙文の逆説で、

 「技術移転を受けた場合の逆のようなボッタクリをしているから、初期の導入(応札)価格を下げても長期的には問題にならない(=中東の産油国やアフリカの独裁国が自力開発するのは困難。稼働率を見れば一目瞭然)」

 と指摘しても「日本製が高価格なのは兵器を輸出できないからだ」と主張するばかりで上記の理由が判らないようなのです。頭にきて「それほど言うなら、安価に製造可能でかつ満足な性能を有するEMSヘリを提示せよ」と詰問したら不機嫌な顔をしてどこかへ行ってしまいました。

 たぶん、これと同じで防災と減災を同一の基準で論じようとするから「実際は何の役にも立たない。」と言えるのでしょう。どこぞの文系某委員と同じロジックです。

 もっともメールもコメントも受け付けないで一方的に批評しているセンセイに何を言っても無駄なのかも知れませんが。
by HMS (2007-09-04 22:55) 

MANTA

- コメントありがとうございます。> HMSさん
私も個人攻撃をするつもりはありません。ただ、いま国民の中で
「緊急地震速報ってなに?」「それって必要なの?役に立つの?」
という疑問が出始めているようですので、その一例として取り上げさせて
いただき、私なりに解説させていただいています。

昨日も、私の研究所では防災訓練があり、その道々、事務職員の方に
「緊急地震速報ってあるといいですよね?」と伺ったら、速報自体のことを
全然ご存じありませんでした…宣伝そのものが足りないようです

ヘリのお話はよく分かりませんが、科学計測装置などについても、
「規制緩和すれば」「たくさん作れば」 国産製品は海外よりも必ず安くなると思いこんでいる方は多いようです。商売はそんなに単純ではないと
私は思います。商売、やったことないですけど(苦笑)
by MANTA (2007-09-05 06:26) 

すうちい

この警報システムが一般に知られるようになった(マスコミに載るようになった)のは私の記憶では中越地震で新幹線が脱線したときからだと思います。運が悪ければ大惨事になっていた。そういったことをこのシステムは防ぐ可能性がある、ゆれが来る数秒前でもそれが分かればスピードを落とすことができる、ということですよね。何で今までそういうシステムがなかったのか、と私は逆に考えますけどね。
by すうちい (2007-09-05 21:50) 

MANTA

- 2004年の中越地震のときは緊急地震速報ではなく、JR独自の
「ユレダス」が機能したのだとおもいます > すうちいさん
緊急地震速報が一般に知られるのは2005年の宮城県沖の地震以降
だとおもいます。いままでこのようなシステムがなかったのは、地震観測
ネットワークが不十分だったからです。1995年以降、画一的な観測網
が整備されました。
by MANTA (2007-09-06 04:53) 

HMS

MANTAさん、こんにちは。長くてすみません(汗)。

>疑問が出始めている

 震源直上(震央)で最初に地震を検知した上、情報を送信するまでに機器が壊れないという二重の幸運に恵まれたとしても、大きく揺れる兆しを伝えるS波より早く緊急地震速報が伝えられるのは最初に検知した地点より30km以上(実際は次の検知点が検知するでしょうからさらに+10~20km程度?)離れたところとなりますから、その圏内で揺れの前に緊急地震速報が伝わるのは絶望的でしょう。誤解を招かないように、はっきりと「震央から少なくとも30kmまでの地域ではほとんどの場合、間に合いません」と言った方が後々のために良いでしょう。

 私は逆に発生後の減災用として活用すべきだと考えています。少なくとも震源情報(速報の震度情報なんかどうだって良いんです)は得られるでしょうから、これに衛星写真や航空写真、当該地域の防災図や地質図を重畳表示して被害状況を評価し防災ヘリコプターの運用や近隣市町村の消防車・救急車の緊急集中投入および活動拠点の確保に充てられるのではないでしょうか?

>宣伝そのものが足りないようです

 先日の調査でやっと地デジの認知度が100%になったようですが、宣伝開始が2003年であることを考えると4年かかっていることになります。自宅のテレビが見られなくなるという生活に根ざしたものでもこれだけかかることを思えば、(地震が発生しない限り)生活に直接関与しない緊急地震速報の認知度を上げるのは至難の業かと・・・

 消防庁の「地震だ!火を消せ!」というような短いフレーズでも作りますかねぇ・・・

>「ユレダス」が機能したのだとおもいます 

 おそらくもう少し精度の良いコンパクトユレダスだと思います。

ttp://www.sdr.co.jp/

 ただこれ、設置場所決めるのに最低半年間の事前観測と調整が必要なんですよねぇ・・・地盤の悪い場所はどうしてるんでしょう?仕様がいま一つつまびらかではないので・・・

@ヘリ&科学計測装置

 同じですよ。どこぞの人食いエレベータ含めて(悲)。MANTAさんもご経験がおありだと思いますけど、公募入札にかけたときに外資の「他所での導入実績あり、カタログ・データ&スペック最高、見栄えキレイ、価格は国産類似品の1.5~2割減」で攻めてこられたらよほどのことがない限り、連中が落札してしまいます。

 ところが実際に入れてみたら前出の通り(失笑)。単品製品の軍用や特機製品はもっと酷い(爆)。不具合対応やメンテに尋常じゃない金額が支出されている(=これ全て国民の税金)事実を皆さんはご存知なんですかね?

@国産製品は海外よりも必ず安くなる

 ないない(笑)。そうですねぇ・・・たとえばマグネトロン。上見て数万程度の電子レンジにあれだけ使われていてしかも技術としては20世紀初頭にすでに確立してしまったいわゆる「枯れた技術」。ところがほぼ同じ動作原理の舶用レーダになると途端に数十万~数百万のレーダ本体価格。なぜか?理由は電子レンジは暖かい家の中で使う家電。舶用レーダは潮風&荒天風雨の最中でも確実に動作しなければならない製品。環境試験やるだけでもケタが違ってきてしまいます。

 おまけに初期の電子レンジに、「電子レンジ-この奇妙にして愚劣なる商品」などと酷評したのは、サービス業の業態をまるで理解してない『暮しの手帖』。でも現実には売れている(失笑)。

 「量産効果だけじゃ済まない」っていくら説明しても「民業圧迫」と壊れたレコードのようにがなる連中はどうしたら良いものか(苦笑)。

>何で今までそういうシステムがなかったのか

 現行システムは90年代半ばの光ケーブルの著しい技術革新(高速化&大容量)がもたらされたことにより可能になっています(MANTAさんは首まで浸かっていると思いますが(笑)、現在の海底ステーションも某通信会社の余剰海底ケーブルを用いたりしています。)。80年代に構想はされていたと思うのですが、いかんせん当時は同軸ケーブル&初期の280kbpsなどという今では「家庭用?」というような光ケーブルしか存在しなかったため、「全国的に作れない」というのが理由だったように記憶しています。
by HMS (2007-09-06 19:52) 

MANTA

- 長いながらも的確なコメントありがとうございます!>HMSさん
以下、簡潔にお返事させてもらいます。ご了承を。

>誤解を招かないように、はっきりと「震央から少なくとも30kmまでの
地域ではほとんどの場合、間に合いません」

同意します。気象庁は中越沖地震の時の詳しい資料を下記で公開して
います。今回は30kmまでの地域で間に合ってません。がんばれば、
20km弱には縮められたかもしれませんが、それ以上は難しそうです。
→ 平成18年8月以降の緊急地震速報の発信状況(気象庁)
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/EEW/kaisetsu/200608/joho.html

>地震だ!火を消せ!
最近は自動消火装置がちゃんと働くようなので「無理して消すな」という
意見もあるようですね。

>ただこれ、設置場所決めるのに最低半年間の事前観測と調整が必要なんですよ
たしかにHi-net並の地震計を自前で整備するのは大変だ…

>初期の電子レンジ
実家にありました。家電というより「実験装置」の風貌でした。
by MANTA (2007-09-07 04:44) 

さなえ

くだらないもので申し訳ないですがTBさせていただきました。いざとなったら、何も考えつかないものですね。
by さなえ (2007-09-07 14:23) 

MANTA

TBありがとうございました。そうですか、「株を売る」ですか?
なるほどー それも「地震から身を守ること」ですね。
by MANTA (2007-09-08 09:48) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 3

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。