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電磁気で地震予知 ~前兆現象の罠(3) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

久々の連載記事です。
前回の記事で「地震に先立つ現象の観測のみに傾倒してはいけない」ということを書き
ました。今回は実際にうまくいかなかった例を紹介してみましょう。たとえばラドン濃度。
地震の前に異常な値を示すことが知られていますが、地震前の異常が観測されなかった
例もあるようです。

●コラム:放射線と地震予知原子力広報ページ(資源エネルギー庁)
 http://www.enecho.meti.go.jp/e-ene/index.html
 もっと知りたい原子力>放射線・その多様な世界>2003>8月号

こういう観測は正直言って心から応援したい。しかし同時に、闇雲に測っていても駄目
ではないか、と私は思います。上記のコラムでは、今後観測機械を高精度にする予定で
あることが述べられています。このような場合、異常が出ないから精度をあげる、異常
が出ないから観測点を増やす、という「観測スパイラル」に陥ることがあります。苦労
すればするほど成果が上がらないことになりかねません。

やはりラドン発生のメカニズムと地震との関係を明らかにすることが、大気ラドン濃度
異常データを生かす一番の近道だと思います。そうすることで、たとえば全国にどの程
度の大気観測ネットワークを組めばよいか、といった定量的な検討が可能になることで
しょう。

別の例を挙げましょう。最近のニュースです。
●中国の動物園、カエルやヘビの地震予知能力を調査
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070522-00000776-reu-int

中国では昔から動物を用いた地震予知の研究をしています。
「海城地震」の例が有名ですね。
●【地震予知】 地震の予知は成功していた!(Allabout)
 http://allabout.co.jp/living/bosai/closeup/CU20031009A/index.htm
しかしこの違和感。いまから30年以上前に1度とはいえ地震予知に成功しておきながら、
なぜまだ動物園での予知能力観察がニュースとして取り上げられるのか?中国の動物を
使った地震予知については、まったく進歩がないように思えます。
動物は地震で騒ぐかもしれませんが、それ以外でも騒ぐでしょう。どう区別するのか、
そもそもなぜ騒ぐのか、それらを考えずに、次の地震の情報をえられるでしょうか?

ここでおもしろい例を紹介しましょう。地震が起きた「曜日」に着目しています。
●なゐふる:vol.55:なぜ,地震予知の為に仕組の理解が必要か?(日本地震学会)
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/ssj/publications/NAIFURU/vol55/index.html
地震学会の広報誌です。ここにあるPDFファイルの5ページ目に「なぜ,地震予知の為に
仕組の理解が必要か?」という解説が載ってます。短いのでちょっと読んでみてくださ
い。結論はなんと、「地震研究者などに悪意を持つものが"地震兵器"を使った」ですが、
もちろん筆者による反例です。ある現象と地震発生に関係があるからといって、メカニズム
を考えずに結果だけから因果関係を推測することは荒唐無稽なのことです。大事な事は
地震の仕組みを明らかにする事と、シミュレートする事、前兆現象のメカニズムを考える事、
これらが筆者の主張です。私も同意します。

「メカニズムの解明?そんな悠長なこと言ってる場合か!」
「仕組みの研究などまだるっこしい。色々な現象と地震との関連を調べるほうが早道だ」
という人も確かにいます。一方で、ここ10年の地球観測科学の進歩はめざましく、陸で
も海でもかなりのことが野外観測からわかりつつあります。
天気予報を考えてみましょう。人工衛星にレーダーに数値予報にとツールのある現代と
「月が傘をかぶったら雨」「夕日は晴れ」で予報していた時代は違いますよね。
地中だってイメージできる時代が来つつあるのです。"地震前兆学者"は「まず国家レベ
ルで観測網を整備して、前兆現象を捉えることが大事だ」と主張されますが、観測網を
闇雲に広げる前に、やれることがあると思うのです。それが前兆現象なるものを、もっと
効率よく確実に捕らえる道にもつながります。

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つづく。
次回は「アマチュアによる地震予知」を考えます。
その後、いよいよ、電磁気観測による地震情報取得の最新事情をお話ししましょう。


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ジニヘン

先日、地震予知装置を開発中ということで書込みさせていただいたものです。
大変興味深く、かつ分かりやすいので楽しく(おかしくという意味ではなく)拝見させて頂きました。民間で地震予知装置を作ろうとしている身にとっては考えさせられました。
「地震の仕組みを明らかにすること」これは個人レベルでは到底出来ないことですが、もっとも重要な事ですね。
日本地震学会の記事の中に大阪大学の池谷教授の記載がありましたが、
池谷教授の地震前兆検証器「eqsign」については、どう思われますか?
私の感想としては、考え方(岩石崩壊の電磁波キャッチ)はよいと思います。
装置の仕組みはあまりのも原始的なので、果たして地震電磁波なのか人口電磁波なのかの見極めが可能かという疑問は持っています。
よろしければ、ご意見を伺いたいと思います。
by ジニヘン (2007-05-31 15:38) 

MANTA

- ご意見ありがとうございます。
地震前兆検証器「eqsign」はこちらですね?→ http://e-sign.tv/
原理はシンプルですね。それは大事なことです。

>果たして地震電磁波なのか人工電磁波なのかの見極めが可能か
その通りだと思います。解決方法の一つは、地道ではありますが、
地震・地殻変動・地下水などの観測地点にその装置を一緒に置かせて
もらうことだと思います。個人的には「そうやって検証実験もやっている」
ということが、信に足る装置への道だと思います。

もう一つは、、、「アマチュア」研究家ならではの方法です。
本連載の次回でこのあたりに触れさせていただきます。
by MANTA (2007-06-01 08:08) 

MANTA

- 追記です。EQsignの仕組みは分かりませんが、商品説明では、
「半径50kmのエリア内で起こる大地震の前兆をキャッチします」「震度6
以上の地震の前兆を地震の数時間以上前にキャッチします」と明記されて
います。しかし、上記条件内で必ず捕らえられる地震前兆信号自体が
現時点では見つかっていないこと、従っていかなる装置でも条件内の地震
を必ず予知できるわけではないことをここに明示しておきます。
また、本ブログはEQsignの購入を推奨するものではありません。
by MANTA (2008-02-10 13:12) 

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