東海に挑む−どうやって?(12) [ シリーズ実況 Old..]
前の記事の続きです。
いつものことながら、乗船が始まると調査作業で手一杯になってしまうので、調査の目的
とか船の生活とかをレポートする余裕がなくなりますねぇ。せめて、どうやって東海地震
に挑むのか、その目的と方法だけ述べておきましょう。
「東海に挑む-はじめに(1)」で最初にお見せした地図には、「くっついている」地域と
「すべっている」地域を赤と青で示していました。
これは、日本列島の陸地側のプレートと、その下に沈みこんでいるフィリピン海プレート
(海洋プレート)の境界が「くっついてる」か、「すべってる」かを示しています。陸上でGPSを
使った調査からの推測です。断面図で書くと下の図のようです。
この「くっついてる」赤いところで巨大地震を起こすエネルギーが溜まっているのだと思
います。でもすぐ隣の「すべってる」ところにはエネルギーは溜まっていない。何がこの
ような違いを作っているのでしょう?くっついているところは、いま地下でどのような状
態なのでしょうか?またこれからどうなるのでしょうか?
仮説ですが、私は地下の水が大事な役割をしていると思います。水は断層にとっては潤滑
油のような役割をします。巨大地震の起きるところには地下の水が少ないので、プレート
の境界がくっついてしまうのではないでしょうか?(で、あるとき急に動く=巨大地震に
なるのでは?)
こうなってるんとちゃうかなあ?という妄想マンガ。
そこで…
1) 巨大地震が起きるような場所では地下の水の分布は今どうなっているかを調べて、
2) さらにそれがどう変化するかを追いかけようというわけです。
1)のために、電気や磁気を測定できる装置(OBEM)を今回の航海で海底に並べました。
この装置は地表から高さ100kmあたりにある電離層から降ってくる自然の電磁波を記録
するとともに、海底ケーブルから人工的に発生される電磁波も観測します。
そうすると(原理は違いますが)医療で使用されるMRIと同じように、地球の輪切りを
イメージすることができるのです。電磁波は岩石よりも電気をずっと通しやすい水によく
反応しますので、巨大地震の起きるところに水が多いかどうか分かるはずです。
さらに2)のために、豊橋沖海底ケーブルの先端(上の地図の海底観測点)には、
分岐装置(海底コンセント)が今年2月につながり、さらにその先に海底磁力計や圧力計
などがつながる予定です(今年4月)。もしも巨大地震が起きる前に海底が引きずり込まれ
て沈むようでしたら、その様子は圧力計で分かるはずです。また巨大地震の起きる場所の
水の分布が変化するようでしたら、その様子は磁力計などで捕らえられるはずです。
これで巨大地震の起きる前から間際、あるいは起きた直後に、深海底やさらにその下で
何が起きていたかが捕らえられるでしょう。
ともかくは海底への設置作業を順調に終わらせて、データをちゃんと記録して、陸上で得
られている他のデータともつき合わせることができれば、ナゾは徐々に明らかとなるでしょう。
はてさて、うまくいくでしょうか? ここまでくれば、時間との戦いでもあります。
巨大地震が起きるが先か、我々がナゾの解決の糸口を見つけるのが先か?
これで地震予知ができるとは思いませんが、やられっぱなしはもう御免。地震という「敵」
に海底ケーブルや海底装置を使って一歩でも近づいて、一矢報いてやりたいです。
つづく。
http://obem.jpn.org/field056.html
面白そうな研究の紹介ありがとうございます。ちょっと素朴な疑問なのですが、OBEMが海底で検知できるほどの電磁波というのは相当波長が長そうですが、どの程度なのでしょう?
#そこらの長波帯よりも波長が短い電磁波は海中には届かないと思うので。
by 竜 (2007-01-18 00:39)
- おお、するどいご指摘。さすがです > 竜さん
使用している電磁波はおっしゃるとおり超低周波です。
ULF帯(UHFではない)といいまして、周波数は0.1Hz以下、周期で
いえば10秒よりも長周期です。記事中では電磁波と書きましたが、
実は電磁波として空中を飛ぶことはもはやできないくらい、低周波です。
解像度があまり高くないところが弱点ではあります。
この辺はわかりやすい図が必要ですね。また近いうちに解説してみます。
by MANTA (2007-01-21 23:50)
ほー、ULFですか。波長が数10万〜100万kmくらいになりますよね。確かに分解能は低そう。そうか、逆にそれくらいの極低周波しか海底には伝わらないから、より高い周波数の余計なノイズの影響を受けないわけですね。
むかーし、VLFとかELFのMT法探査を手伝ったことがあり、あちらは地下構造を求めるのが目的でしたが、OBEMはむしろ広域の比抵抗の時間変化を調べるようなイメージと考えて良いのでしょうか?
by 竜 (2007-01-23 22:18)
- 地中は電気を通しますので、真空中とは違って波長はぐっと短くなります。それでも数km~数10kmの波長になります。そのため海底より下の地下の様子をULF帯の電磁波で調査できますが、解像度もかげないという諸刃の剣になっております、はい。
VLF・ELF-MTですか?もろに私の専門です。本当にどこかでお会いしているかも?ですね > 竜さん
OBEMも陸上と同様、MT(マグネトテルリク)法を用いて地下構造を求めています。あるときの地下構造のスナップショットを求めることができます。ただ自然の電磁波は不安定ですので、これを利用するMT法では地下構造の微小な時間的変化の検出は難しいでしょう。
人工的な電磁波を用いる電磁探査法(電気探査、CSMT、TDEMなど)のほうが高精度なので時間変化の検出に向いています。ただ、たくさんの観測点を長期間維持するのは大変なので、自然と人工の両方の電磁波を組み合わせて使ってみようと考えています。
ちょっと専門的ですが、お答えになってるかいな?
by MANTA (2007-01-24 23:48)
詳しい解説をありがとうございます>MANTAさん
は、よーく理解できました。普段お空を飛んでくる電波(遠いやつは数億光年彼方)ばっかりいじっているので、地中での波長の変化についてすーっかり頭から抜けていました。いや、お恥ずかしい。でも基本的にはMT法と言うことで了解です。私はせいぜい学生時代にカブトムシ(VLFの機械)を持たされて火山地域を歩いたくらいです。でも確かにお会いしているかも?
カブトムシは確か潜水艦通信に使われた愛知県依佐美送信所からの電波を使っていた記憶があります。依佐美局は1993年に廃止になったので、その後はVLFもやり方が変わったのでしょうね。
by 竜 (2007-01-26 00:44)
- おお、遠いですねぇ > 数億光年
恐竜が地上を支配しているころかな?それより前かも。
ロマンありますね。
カブトムシは最近はあまり使われないようですが、まだ健在です。
いまは海上自衛隊えびの送信所から発信されてます。
アンテナでかいよ。
http://blogs.yahoo.co.jp/ja6jcl/archive/2005/12/11
by MANTA (2007-01-26 08:27)