噴火でも津波は起きる(2) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]
前回の続きです。
火山が噴火すると、なぜ津波が起きるのでしょうか?
よく言われる原因は下記です。
1)陸上の火山の一部が、噴火の際に吹き飛ぶ(山体崩落)
→ 崩れた山の一部(どでかい岩の塊や大量の土砂)が海へ流れ込む
→ 津波
2)海底にある火山が噴火 → 噴出物が海底に湧き出てくる
→ 噴出物に押しやられた海水が、周りへ広がっていく
→ 津波
3)陸上や海底にある火山が噴火して、陥没(カルデラの形成)
→ 海の水が陥没部分に流れ込む → 海水はその後、周りに広がっていく
→ 津波
衛星写真からは「3」の陥没によって津波が起きたように思われます。
ただしそれだけでは説明はつかないようです。以下に解説します。
まずは、下記をご覧ください。
https://twitter.com/Hydrology_IRPI/status/1482483800613527553 より
衛星画像でよく見ると、トンガの火山島の形が大きく変わっているようです。
前回の記事に、火山島の地図を載せました。下記に再掲します。
2つの小島の間に噴火口がみえていましたが、今回の大噴火によって、
噴火口周辺が吹き飛んでなくなった(陥没した)ように見えます。
ちなみに、上記の1のタイプの津波は、日本(九州、北海道)でも起きています。
●日本の歴史上最大の火山災害島原大変
http://www.qsr.mlit.go.jp/unzen/wlib/pdf/010101a.pdf
※下図は本資料の表紙
●寛永17年(1640年)駒ヶ岳噴火津波
https://www.city.date.hokkaido.jp/kouhou3/pdf/31_99862046.pdf
また1と同種としては、火山活動によって海底に巨大地すべりが起きて、
津波が発生するパターンも考えられます。
----
では、今回の津波の予測に気象庁が失敗した理由はなんでしょうか?
考えられるものとしては、、、
A)火山噴火による津波発生を想定していなかった。
B)火山噴火での津波のシミュレーションをしていなかった。
C)噴火に伴う津波は想定していたし、シミュレーションもできたけど、
いままで知られていなかった津波発生メカニズムだった。
まずAはナイです。だって、日本の火山でも津波は起きるのですから。
Bはどうでしょう。どこで地震・火山噴火が起きるかはまあまあ分かってますので
その時にどれくらい規模の津波が、どこに・いつ来るかは事前に数値計算で求めて
おきます。こうすることで迅速に警報を出せるのです。今回は南半球での火山噴火
だったので、事前にシミュレーションはしていなかったかもしれませんが、
津波発生から到達まで10時間程度はありますから、新たに数値計算を行う時間は
あったと思います(たぶんやっています)。
気象庁の失敗の原因はおそらくC=未知の現象による津波発生です。
まず気象庁の資料によれば、トンガ周辺の津波はとても小さいかったようです。
●令和4年1月15日13時頃のトンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ
火山の大規模噴火に伴う潮位変化について
https://www.jma.go.jp/jma/press/2201/16a/202201160200.html
噴火に伴う津波発生メカニズム(上記の1~3)だと、トンガ周辺で津波は大きく、
周囲に行くほど小さくなるはずです。無論、津波は複雑に反射・屈折をするので
こんなに単純ではありません。その点は気象庁も数値シミュレーションをして精査
しているはずで、トンガでこの規模の津波であれば、日本には大きな津波は来ないと
判断したのでしょう。ところが、予想より大きな津波が、予測到達時刻よりも
ずっと早くに日本に届いたわけです。
●気象庁「潮位の上昇は長く続く可能性が高い」
…津波の要因は「正確には分かっていない」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220116-OYT1T50066/?r=1
すでにNHKなどで報じられ始めていますが、ウェザーニュース社(WNN)は、独自の
見解として「火山噴火の衝撃波が、津波の原因ではないか?」と報じています。
●津波の原因はトンガでの火山噴火による衝撃波 気圧変化でも捉える(WNN)
https://www.youtube.com/watch?v=7G8AvhX7Zag
※上記のWNN社のYoutubeより。黄色い円は当方が加筆。
衛星画像による噴火時の様子ですが、噴煙の周りに同心円状に広がる
衝撃波が見られます(黄色い点線、Youtube映像だとより見やすい)。
※上記のWNN社のYoutubeより。
この衝撃波は、トンガから2000km以上離れたニュージーランドにも爆発音として
届いたようですが、日本にも気圧変動として届きました(1%以下の気圧変化)。
火山爆発によって空気が圧縮されたわけですから、火山島周辺に突如として
高気圧が誕生したようなものです。高気圧からは外に向けて猛烈な風が吹きます。
しかも、この高気圧は波打ちながら太平洋の周辺諸国へと届くわけです。
このような特殊な気圧変化が、今回の予想外の津波被害につながったものと
思われます。東北大学などでは具体的な解析が進んでいるようです。
●トンガ噴火に伴う衝撃波で津波発生か、「日本付近で波が集積」…今村文彦教授が分析
https://news.yahoo.co.jp/articles/2ed4834299eb0b0cd3f84ecd206e05ff1115a3d5
ということで今回の津波は、いままで知られていなかったプロセスで発生した
(あるいは上記3の現象に、未知の現象が加わって津波が大きくなった)
のだと思われます。世の中、まだまだ分かっていないことが多いのです。
災害に対して、私達が最新科学技術で解き明かしていない現象がたくさんある
ことを改めて思い知らされました。
火山が噴火すると、なぜ津波が起きるのでしょうか?
よく言われる原因は下記です。
1)陸上の火山の一部が、噴火の際に吹き飛ぶ(山体崩落)
→ 崩れた山の一部(どでかい岩の塊や大量の土砂)が海へ流れ込む
→ 津波
2)海底にある火山が噴火 → 噴出物が海底に湧き出てくる
→ 噴出物に押しやられた海水が、周りへ広がっていく
→ 津波
3)陸上や海底にある火山が噴火して、陥没(カルデラの形成)
→ 海の水が陥没部分に流れ込む → 海水はその後、周りに広がっていく
→ 津波
衛星写真からは「3」の陥没によって津波が起きたように思われます。
ただしそれだけでは説明はつかないようです。以下に解説します。
まずは、下記をご覧ください。
https://twitter.com/Hydrology_IRPI/status/1482483800613527553 より
衛星画像でよく見ると、トンガの火山島の形が大きく変わっているようです。
前回の記事に、火山島の地図を載せました。下記に再掲します。
2つの小島の間に噴火口がみえていましたが、今回の大噴火によって、
噴火口周辺が吹き飛んでなくなった(陥没した)ように見えます。
ちなみに、上記の1のタイプの津波は、日本(九州、北海道)でも起きています。
●日本の歴史上最大の火山災害島原大変
http://www.qsr.mlit.go.jp/unzen/wlib/pdf/010101a.pdf
※下図は本資料の表紙
●寛永17年(1640年)駒ヶ岳噴火津波
https://www.city.date.hokkaido.jp/kouhou3/pdf/31_99862046.pdf
また1と同種としては、火山活動によって海底に巨大地すべりが起きて、
津波が発生するパターンも考えられます。
----
では、今回の津波の予測に気象庁が失敗した理由はなんでしょうか?
考えられるものとしては、、、
A)火山噴火による津波発生を想定していなかった。
B)火山噴火での津波のシミュレーションをしていなかった。
C)噴火に伴う津波は想定していたし、シミュレーションもできたけど、
いままで知られていなかった津波発生メカニズムだった。
まずAはナイです。だって、日本の火山でも津波は起きるのですから。
Bはどうでしょう。どこで地震・火山噴火が起きるかはまあまあ分かってますので
その時にどれくらい規模の津波が、どこに・いつ来るかは事前に数値計算で求めて
おきます。こうすることで迅速に警報を出せるのです。今回は南半球での火山噴火
だったので、事前にシミュレーションはしていなかったかもしれませんが、
津波発生から到達まで10時間程度はありますから、新たに数値計算を行う時間は
あったと思います(たぶんやっています)。
気象庁の失敗の原因はおそらくC=未知の現象による津波発生です。
まず気象庁の資料によれば、トンガ周辺の津波はとても小さいかったようです。
●令和4年1月15日13時頃のトンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ
火山の大規模噴火に伴う潮位変化について
https://www.jma.go.jp/jma/press/2201/16a/202201160200.html
噴火に伴う津波発生メカニズム(上記の1~3)だと、トンガ周辺で津波は大きく、
周囲に行くほど小さくなるはずです。無論、津波は複雑に反射・屈折をするので
こんなに単純ではありません。その点は気象庁も数値シミュレーションをして精査
しているはずで、トンガでこの規模の津波であれば、日本には大きな津波は来ないと
判断したのでしょう。ところが、予想より大きな津波が、予測到達時刻よりも
ずっと早くに日本に届いたわけです。
●気象庁「潮位の上昇は長く続く可能性が高い」
…津波の要因は「正確には分かっていない」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220116-OYT1T50066/?r=1
すでにNHKなどで報じられ始めていますが、ウェザーニュース社(WNN)は、独自の
見解として「火山噴火の衝撃波が、津波の原因ではないか?」と報じています。
●津波の原因はトンガでの火山噴火による衝撃波 気圧変化でも捉える(WNN)
https://www.youtube.com/watch?v=7G8AvhX7Zag
※上記のWNN社のYoutubeより。黄色い円は当方が加筆。
衛星画像による噴火時の様子ですが、噴煙の周りに同心円状に広がる
衝撃波が見られます(黄色い点線、Youtube映像だとより見やすい)。
※上記のWNN社のYoutubeより。
この衝撃波は、トンガから2000km以上離れたニュージーランドにも爆発音として
届いたようですが、日本にも気圧変動として届きました(1%以下の気圧変化)。
火山爆発によって空気が圧縮されたわけですから、火山島周辺に突如として
高気圧が誕生したようなものです。高気圧からは外に向けて猛烈な風が吹きます。
しかも、この高気圧は波打ちながら太平洋の周辺諸国へと届くわけです。
このような特殊な気圧変化が、今回の予想外の津波被害につながったものと
思われます。東北大学などでは具体的な解析が進んでいるようです。
●トンガ噴火に伴う衝撃波で津波発生か、「日本付近で波が集積」…今村文彦教授が分析
https://news.yahoo.co.jp/articles/2ed4834299eb0b0cd3f84ecd206e05ff1115a3d5
ということで今回の津波は、いままで知られていなかったプロセスで発生した
(あるいは上記3の現象に、未知の現象が加わって津波が大きくなった)
のだと思われます。世の中、まだまだ分かっていないことが多いのです。
災害に対して、私達が最新科学技術で解き明かしていない現象がたくさんある
ことを改めて思い知らされました。
補足:
上記では、気象庁の資料に基づいて「トンガでは津波が小さかった」と書きましたが、それはあくまで得られたデータについてのお話です。今回は、カルデラ形成(陥没)が起きたようなので、トンガの地域によってはもっと大きな津波が起きている可能性があります。下記記事では2.5mの津波が襲った場所があるらしい、とのこと。もっと大きくても不思議ではないです。トンガ周辺を襲った津波と、日本にやってきた津波は発生過程が違うかもしれません(たぶん違う)。
●「1000年に1度」の大噴火か トンガで通信寸断、被害把握難航
https://news.yahoo.co.jp/articles/c144c926a495e2ae15546f944b168f8b76c74847
by MANTA (2022-01-16 14:59)