NHK「MEGAQUAKE III」に物申す [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]
9月1日の防災の日に合わせて、NHKは土日と2日間に渡り、地震防災科学最前線
についての特集番組「MEGAQUAKE III」を放送した(日曜のはさっき終わったとこ)。
しかしかなり変な番組だった。以下は当方Twitterでのつぶやき。
一番気になったのは、この「スロークエイク」という言葉。初めて聞く。番組内でも
専門家達は「スロースリップ」や「スロー地震」「ゆっくり地震」といっているのに、
NHKだけ、なんでわざわざ「スロークエイク」と言い直すのか。
(たしかにゆっくり地震を理解することは、巨大地震を知る際に重要だ。詳しくは下記)
→ http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-09
→ http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-11
おそらく「スロークエイク」は、NHKがこの番組のために創った造語。要するに、NHKは
視聴者を脅しにかかっているのだ。「ゆっくり地震」だと、「え、それってなんか怖くない」
ってなるよね。 しかし地震科学の番組で、「怖い」→「防災」となるのだろうか?
その「スロークエイク」も扱われ方がおかしい。番組をみた多くの方は、スロークエイクさえ
捕まえることができれば地震予知ができると誤解されたのでは?上記の通り、全然違います。
これもちょっとおかしかった。従来は南海トラフの地震は高知沖~和歌山・三重沖~浜松沖
そして駿河湾(静岡市沖)のプレート境界が一気に破壊して、M9クラスの地震になると考え
られている。しかし駿河湾ではなく、伊豆半島南部の銭洲海嶺と呼ばれる場所が破壊する
可能性も以前から指摘されている。プレート境界の破壊は相模湾(神奈川沖)にも入りこみ、
関東地方の被害は拡大するかもしれない。しかしである。この場合は、西相模断裂(断層)
が活動するようだが、この断層は横ずれ運動が卓越しているらしい(※)。プレート運動も
断層の走行と概ね並行であり、逆断層運動をしづらいはずである。しかしNHKの津波の
シミュレーションでは、まるで「東京湾で大きな津波を起こすために」、大きな逆断層運動を
西相模湾断裂に与えていた。
いま、地震の専門家達はいわゆる「想定外をなくす病」にかかっている。すなわち、可能性が
ゼロでないかぎり、すべてのありうる地震・津波現象に対して「あなどってはいけない」と警鐘
を鳴らし続けている。しかし、有名な「オオカミ少年」の話も忘れてはいけない。
今回のNHKはその専門家の言葉をたくみに利用して、視聴者をテレビに引きこむことに一生
懸命だったようにみえるが、少し違うのではないか? と私は思った次第であります。はい。
しかし今日は関東大震災から90年後だそうな。こうして地震関係の番組を見て思うのだが、
いまのテクノロジーでこのままあと100年間ほど観測を続けたら、地震は予知できるように
なってるんじゃあ、ないかな。うん。
(※)西相模湾断裂の運動が横ずれか逆断層かは不明。
それどころか存在すらちゃんとは確認されていない。詳しくは下記。
小山, 西相模湾断裂の再検討と相模湾北西部の地震テクトニクス, 地学雑誌, 1995.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/104/1/104_1_45/_pdf
についての特集番組「MEGAQUAKE III」を放送した(日曜のはさっき終わったとこ)。
NHKスペシャル MEGAQUAKE巨大地震 第1回 次の巨大地震をつかめ 人類の果てしなき闘い [DVD]
- 出版社/メーカー: NHKエンタープライズ
- 発売日: 2010/06/24
- メディア: DVD
しかしかなり変な番組だった。以下は当方Twitterでのつぶやき。
manta33blog勝手な言葉をどんどん作るのはやめて下さい、NHKさん。「ゆっくり地震」や「スロースリップ」でいいではないか。「スロークエイク」のほうが恐ろしげに聞こえるので採用したのだろうか? #nhk09/01 21:19 manta33blogあれだな、スロークエイクという言葉を思いついて「これで予知できる」という筋立てを考えたな。期待するのは良いが、それで予知できるかどうかは専門家には甚だ自信がないことも添えておこう。 #nhk09/01 21:29 manta33blogあと専門家は「スロー地震」「スロースリップ」と言っている。やっぱり「スロークエイク」という言葉に強い違和感を覚える。もう一度聞くけど、なんの意図でそんな単語創りだしたの? #nhk09/01 21:32
一番気になったのは、この「スロークエイク」という言葉。初めて聞く。番組内でも
専門家達は「スロースリップ」や「スロー地震」「ゆっくり地震」といっているのに、
NHKだけ、なんでわざわざ「スロークエイク」と言い直すのか。
(たしかにゆっくり地震を理解することは、巨大地震を知る際に重要だ。詳しくは下記)
→ http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-09
→ http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-11
スロー地震とは何か―巨大地震予知の可能性を探る (NHKブックス)
- 作者: 川崎 一朗
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2006/03
- メディア: 単行本
おそらく「スロークエイク」は、NHKがこの番組のために創った造語。要するに、NHKは
視聴者を脅しにかかっているのだ。「ゆっくり地震」だと、「え、それってなんか怖くない」
ってなるよね。 しかし地震科学の番組で、「怖い」→「防災」となるのだろうか?
manta33blogスロークエイクでもスロースリップでもよいが、いまNHKが言っているほど、理解できているわけではない。そもそも東北日本では西南日本で見られるような深部でのスロースリップは見られない。この1点をもってしても、スロースリップが巨大地震に伴う普遍的現象とは限らない。09/01 21:25 manta33blogそもそも小原さんご自身、スロースリップで地震が予知できるとはおそらく一度も言っていない(はず)。 #nhk09/01 21:32 manta33blog小さい地震を観測して、地殻変動をモニターし、大きい地震を知るというのは地震予知の王道。そして失敗連続のイバラ道でもある。スロースリップは実は最後の期待とも言える。 #nhk09/01 21:38
その「スロークエイク」も扱われ方がおかしい。番組をみた多くの方は、スロークエイクさえ
捕まえることができれば地震予知ができると誤解されたのでは?上記の通り、全然違います。
manta33blog銭洲の向こう側まで破壊が伝播するとしても、相模湾沖で逆断層ができるとは限らん。この津波シミュレーションも被害を最大化するセンスに特化してて、実際にはありえないのではないか? もう脅かしショウと化しているな。 #nhk09/01 21:44
これもちょっとおかしかった。従来は南海トラフの地震は高知沖~和歌山・三重沖~浜松沖
そして駿河湾(静岡市沖)のプレート境界が一気に破壊して、M9クラスの地震になると考え
られている。しかし駿河湾ではなく、伊豆半島南部の銭洲海嶺と呼ばれる場所が破壊する
可能性も以前から指摘されている。プレート境界の破壊は相模湾(神奈川沖)にも入りこみ、
関東地方の被害は拡大するかもしれない。しかしである。この場合は、西相模断裂(断層)
が活動するようだが、この断層は横ずれ運動が卓越しているらしい(※)。プレート運動も
断層の走行と概ね並行であり、逆断層運動をしづらいはずである。しかしNHKの津波の
シミュレーションでは、まるで「東京湾で大きな津波を起こすために」、大きな逆断層運動を
西相模湾断裂に与えていた。
manta33blog昨日の関東大震災の話もそう。事実を元に未来の災害を最大限誇張して民衆に伝えることが、想定外をなくすことと思ってはいけない。それは研究者も同じ。 #nhk09/01 21:21 manta33blogちなみに今回のMegaquakeで度肝を抜かれたのは、エアガンを打ってるところの水中映像。あれ、すごい衝撃だぜ。どうやって撮ったんだろ? カメラの容器、ぶっ壊れるの覚悟だったのかな? #nhk09/01 21:54 manta33blogそれ以外は、番組名にかけたかのような「スロークエイク」っていう新造語と、それが分かれば予知がすぐできるようなミスリーディングが目立つだけ。もう少し、落ち着いて番組を作ってほしい。 #nhk09/01 21:55
いま、地震の専門家達はいわゆる「想定外をなくす病」にかかっている。すなわち、可能性が
ゼロでないかぎり、すべてのありうる地震・津波現象に対して「あなどってはいけない」と警鐘
を鳴らし続けている。しかし、有名な「オオカミ少年」の話も忘れてはいけない。
今回のNHKはその専門家の言葉をたくみに利用して、視聴者をテレビに引きこむことに一生
懸命だったようにみえるが、少し違うのではないか? と私は思った次第であります。はい。
しかし今日は関東大震災から90年後だそうな。こうして地震関係の番組を見て思うのだが、
いまのテクノロジーでこのままあと100年間ほど観測を続けたら、地震は予知できるように
なってるんじゃあ、ないかな。うん。
(※)西相模湾断裂の運動が横ずれか逆断層かは不明。
それどころか存在すらちゃんとは確認されていない。詳しくは下記。
小山, 西相模湾断裂の再検討と相模湾北西部の地震テクトニクス, 地学雑誌, 1995.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/104/1/104_1_45/_pdf
仕事はやっw
NHKもいい番組とおかしな番組と玉石混交ですね。
ちゃんと取材すれば面白いものが作れるのに、
取材不足のものが目立ちます。
先日のダイオウイカのゲストトークや、ロボットの特集もひどかったです。
by みきぱぱ (2013-09-01 23:00)
>取材不足のものが目立ちます
みきぱぱさん、コメントありがとうございます。研究者でもそうですが、
「はじめにストーリーありき」で進めると、こうなってしまうという典型例だと
思います。たぶん。せめて「スロースリップだけで予知できない可能性もある」
とちゃんと報じて欲しかった。
地震防災の啓蒙って難しいですね。「危ない、危ない」言い過ぎると怖がらせる
だけだし、逆に明るく話すとおかしな感じになるし。おそらくはこれまでに
分かった事実をちゃんと伝えることが大事なんでしょうね。その点で、1月
のダイオウイカのNHKスペシャルは事実を淡々と報じていてよかったなぁ。
そう、それでいいのだ。と思う。
by MANTA (2013-09-02 07:26)