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科学:わかりやすいと信じやすい [ 科学コミュニケーション]

どうも世の中には、「わかりやすい」ことを信じてしまう傾向があるようです。
例えばこちら。昨日のニュースですが、少し前から話題になってました。

●「水質浄化」EM菌効果 検証せぬまま授業 青森 (asahi.com)
 http://www.asahi.com/national/intro/TKY201207030458.html
以下は記事からの抜粋です。
 ”「EM菌」という微生物を川の水質浄化に用いる環境教育が、青森県内の学校に
 広がっている。普及団体は独自理論に基づく効果を主張するが、科学的には
 効果を疑問視する報告が多い。県は、効果を十分検証しないまま、学校に無償
 提供して利用を後押ししている。あいまいな効果を「事実」と教える教育に、
 批判の声も上がっている。”


青森県だけでなく、大阪や三重、広島でも同様の取り組みがあるようです。
●河川浄化 主婦の目線で(大阪日日新聞)
 http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/genkiroku/120613/20120613035.html

「科学ではまだ解き明かされてないかもしれませんが、効果があればよいのでは?」
という声もあるかもしれませんが、次の開発者らの話を読むと甚だ疑問です。
”比嘉照夫・琉球大名誉教授は「重力波と想定される波動によるもの」と主張する。”
 (asahi.comより)
”「地球上で最初に生まれた生物が光合成細菌。2000度でも死にません」”
 (大阪日日新聞より)

甦る未来―EM技術が21世紀を変える

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  • 作者: 比嘉 照夫
  • 出版社/メーカー: サンマーク出版
  • 発売日: 2000/08
  • メディア: 単行本

??重力波?? Wikipediaによれば下記のようですが?
  ・時空の歪みが伝わる波動は、重力波 (相対論)(gravitational wave)
  ・地球の重力による液体の波動は、重力波 (流体力学)(gravity wave)
??2000度??鉄さえ溶けますが…(スラッシュドットでも議論されています
このようなオカルト科学が世に広まるのは珍しくなく、適当な地震予知しかり(こちら)、
かつては「水からの伝言」というのもありました(紹介しません、オカルトですから)。

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ただasahi.comの次の記述が気になります。
 ”県はEM菌による浄化活動が…だが、顕著な改善は確認されなかったという。
 にもかかわらず継続している理由を「学校が水質浄化に関心を持ち、活動してくれる
 こと自体が有り難いことだから」と担当課長は話す。”

EM菌をまく→水質がすぐに改善される という図式はわかりやすい。これがもしも、
複雑な装置を川に沈めて、5年後に改善がみられる、なんて話だと子供にはわかりづらい。

なんとなく直感的にわかりやすい=教育現場に活用しやすい、という図式は結構頻繁に
みられます。例えば、とある高校の先生の話です。「うちの学校には太陽光発電システム
があるんですが、本当は風力発電のほうがいいんです。回ってると発電してるという感じが
しますが、太陽光だと屋上にあって動かないので、発電しているのを実感しづらいようです」

自分で作る風力発電 (大人の週末工作)

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  • 作者: 中村昌広
  • 出版社/メーカー: 総合科学出版
  • 発売日: 2011/10/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


なるほど一理あります。この「わかりやすさ」に「期待感」が加わると拍車がかかります。
・EM菌をまいて川が綺麗になってほしい→まいた→環境保全に貢献した!
・風力発電で少しでも省エネしたい→回った→省エネに貢献!

ところで、世の中には目では見えず、耳に聞こえず、触れることもできないけれど
我々の生活に深く関わっているものもたくさんあります。電波とか、放射線とかは
「わかりにくいけど、生活に深く関わっている」ものの典型例です。もしもわかりやすい
とか、わかりにくいだけで教育が進むとすると…それは少し問題があるように思います。
あやまった科学知識を教えているとすればなおさらです。

問題の根っこには「教育の現場」と「科学の現場」のコミュニケーションの少なさもあげられ
ます。小中高校で教科書に載っていないような教材を使うのであれば、安易なものに
飛びつかないこと、大学は小中高校と協力してわかりやすい教材作成に努力すること、
この2つの要素が「わかりにくい科学をわかりやすく理解する」点で重要だと思います。

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近年は、高大連携なども進んでいて、実は私も来年から本格的にある高校と共同で
教育・研究を行います(実はそれが、上記に出てきた高校です)。いまいろいろと
考え中です(だって私の専門が、わかりにくい代表例の電磁波ですからねぇ)。
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みきぱぱ

「学校が水質浄化に関心を持ち、活動してくれる こと自体が有り難いことだから」

無償ならまだいいとしても、インチキなものに税金とか、身銭を切らされるのが問題です。しかもそう言うのに限って高い品が多い。
by みきぱぱ (2012-07-04 12:44) 

MANTA

>無償ならまだいいとしても、
無償でもダメだと思いますよ。
「タダより高いものはない!」いろんな罠がということです(笑)
by MANTA (2012-07-05 12:28) 

MANTA

追記:あと上記では「わかりやすさ」と表現しましたが、「原理の理解のしやすさ」
だけでなく 「道具の扱いの簡便さ、わかりやすさ」もそこには含まれていますね。
なので教育の現場に馴染みやすいのでしょう。以上、読み返しての補足です。


by MANTA (2012-07-05 12:30) 

MANTA

Twitter経由で下記のコメントを頂きました。
>@manta33blog その先生、なんか変ですね。そんな「感じ」、私はしないけどな。
(素風さん、コメントありがとうございます)
「風力発電の方がいい」とおっしゃった高校の先生の話についてですね。
屋上に太陽電池パネルを置くと、生徒は(もしかしたら先生も)普段は見に
行かないので、仮に「本日の発電量」が電光掲示板で表示されていたとしても
多くの人は気に留めないでしょうね。

別の高校では、太陽電池パネルを校舎の北側の自転車置き場の上に設置
したそうです。理由は「生徒が校舎内を移動する時に見える場所に設置した
かった」ためだとか。でもその場所だと日光がちょっと当たりづらいそうです。
なかなか難しいですね。
by MANTA (2012-07-06 12:19) 

素風

あんな言いっぱなしのコメントにご返信をくださいましてありがとうございます。
風力発電が悪いというわけでなく、校舎の屋上に太陽電池パネルを置くことにどういう意味を持たせるかがぽや~んとどこかいっちゃってる感じがしますね。

「疑問を抱く余地なく○○だよね」
と言い切れることというのは案外少ないのではないかと私は個人的に考えています。「分かりやすさ」というのは、その「疑問を抱く余地なく○○だよね」を安易に求めることじゃないかと。

短絡的に結論に飛びつくのではなく、順序立てて論理的に思考して結論にたどり着く、学校が恒常的にそういう体験ができる場であるとよいなと思います。とても難しいことですが。

風力発電にしろ、太陽光発電にしろ、学校内に小さな発電装置があって、発電しているという事実を用いればいろんな切り口で教育のきっかけが作れると思います。光がエネルギーになる現象なんて、理屈が分からなければただの不思議現象なわけで、ううう、もったいないなー。
by 素風 (2012-07-06 21:23) 

MANTA

>「疑問を抱く余地なく○○だよね」
>と言い切れることというのは案外少ないのではないか
素風さん、コメントありがとうございます。おっしゃるとおりかと思います。
お返事をここに書こうと思いましたが、すこし長くなりましたので記事をひとつ
立てて見ることにします。お楽しみに(?)
by MANTA (2012-07-16 14:08) 

素風

楽しみにしてまーす。
by 素風 (2012-07-17 14:15) 

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