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博士になるには [ 科学コミュニケーション]

連載「科学コミュニケーション」の趣旨とはちょっと違うんですが、
今日は「博士になる方法」について少し書いてみます。

さて、受験シーズン到来。大学だけではなく、大学院の入試の時期でもあります。
教員もその準備に向けて、あわただしい毎日です。当大学の工学部の場合、大学院
修士課程(2年間)への進学希望者はとても多いです。所属学部生のほとんどは大学を
卒業後、修士課程に進学します。一方で、大学院博士課程(修士を終えてからさらに3年間:
修了後にはあこがれ(?)の「博士号」を貰える)に進学しようという学生は少ないです。
なんで少ないのかなぁ? お茶を飲みながら、ちょっと考えてみました。

まずは私の育った理学部の場合。修士が終わると、二者択一が待っています。
fig1.jpg
ようするに大学などで基礎的研究を続けたいのであれば、青矢印のように
「修士修了→博士課程へ→大学・研究所などで研究」という道を行くのが一般的です。
修士課程を終える時に、企業で研究するか、大学で研究するかの分かれ道を迎えます。

ところが工学部の場合は違います。
fig2.jpg
たぶんこんな感じ。特に重要なのが赤矢印で「企業に就職→博士課程へ→企業で研究」
という道筋があること。特に所属企業に籍を置いたまま、社会人大学院生として学ぶケース
が多いです。これだと学生はみんな、修士課程が終わったら、とりあえず就職しますよね。
で、チャンスや余裕ができたら、博士号を取りに大学院へ戻ると。逆にずっと大学にいると、
修士課程2年+博士課程3年=博士号を取る頃には27歳位になってしまいます。

こういった赤矢印・青矢印を一般に「キャリア・パス」と言います。工学部系はキャリア・パスが
充実していると思います(まじで)。企業に籍をおくにせよ、大学に籍をおくにせよ、一人前の
研究者には豊富な知識と経験が必要です。大学院で知識を学び、企業で経験を身につける
とすれば、赤矢印は理想的なキャリア・パスかもしれません。

でもね、「修士課程→博士課程へ進学→企業へ就職・研究」というキャリア・パスもあるのです。
実際、工学部系で博士課程を修了し博士号を取って、就職先がないというケースは稀です。
なので青矢印も悪くないのですが、実際には多くの修士の学生は博士課程に進学しない。
もちろん給料のことなどもあると思うのですが(生活しないといけません)、私が思うに、
修士課程の大学院生さんたちはあまりこういうキャリア・パスを意識していないのではない
でしょうか? なーんとなく、「企業に就職しても大学院に行きたくなったらまた行けるから
企業でいいや」的な。それでもいいですが、企業に就職しても「30歳までにはコレコレの研究
で博士号を取って、一人前の研究者になる!」という人生設計を持っていてほしいですなぁ。

ってことでようするに、当研究室にも「博士号を取るぞ」って大学院生が来ないかなぁ…
というお話しでした。最近は大学院の修学期間も短縮可能ですから、25歳くらいには博士号
が取れるかもしれないし、そんな例が増えてくるとまた変わるかなぁ?
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素風

中学生の愚息が記事を拝読し、「へええ、そうなんだー。なるほどーなるほどー。いいなあ、25歳かあ」と呟きながら去って行きました。
中学生くらいの子どもにとってははるか未来のようであっても、今後高校に入学したら少なくとも理系/文系の選択がでてくるだけに他人事ではいられないという気持ちであるようです。こういうキャリアパスのお話もうかがえてほんとにありがたいですー。
by 素風 (2010-01-22 18:53) 

MANTA

>いいなあ、25歳かあ
おお、それはPositiveに捕えてよいのかしら?? > 素風さん
こういう話って、分かっているようでも、なかなか世の中には情報として
出回っていないのかもしれませんね。私自身、上の2つの図を描いてみて、
「あれ?おや?ほう」と思いましたもん。こちらのほうが勉強になってます。
ということで、いかがでしょう? 「地下探査博士」への道は(笑)?

あと、もっともっと研究の話をこのブログでも書かんといかんですね。
楽しいんですよ、ほんと、研究って。
by MANTA (2010-01-22 21:08) 

MANTA

あ、書き忘れましたが、当工学研究科では、修士課程の試験(メイン)は
8月です。2月は外国人のみ受験可能です。
by MANTA (2010-01-22 21:12) 

アヨアン・イゴカー

数年前に新聞でも話題になった、ポスドクの就職難は、工学部系ではないのですね。
by アヨアン・イゴカー (2010-01-24 22:45) 

さささ

これから大学院を目指す若い人間ではないので申し訳ないのですが、質問させていただきます。
30代の社会人がスキルアップのため博士後期過程に進学することも工学系の社会では寛容なのでしょうか(社会人大学院生ではなくです)?また、そういう進学者はどのくらいいらっしゃるものなのでしょうか?

by さささ (2010-01-25 14:11) 

MANTA

>数年前に新聞でも話題になった、ポスドクの就職難は、工学部系では
>ないのですね
アヨアン・イゴカーさん、「工学部系では就職難がない」というよりも、「就職
に困らぬよう先生たちが目配り気配りをしている」と考えて頂くとよいと思い
ます。
ちょうど良い機会です。オーバードクターの問題について、少し考えてみたい
と思います。記事にしたいと思いますので、少々お待ちを。

ささささん、コメントありがとうございます。
>30代の社会人がスキルアップのため博士後期過程に進学することも
>工学系の社会では寛容なのでしょうか
寛容だと思います。実際、上記記事に書きましたように、社会人ドクターは
たくさんおられます。ただし、どのような「スキルアップ」を目指すかによって、
研究室の受け入れ状況は変わると思ってください。教員の側にも、十分な教育を行うための準備と、学生と共に達成すべき目標がありますので。
by MANTA (2010-01-27 18:37) 

ノマド

東洋経済という雑誌に日本は先進国で一番科学研究費につぎ込んでいるのだそうな。ほんとかね。文部科学省の天下りがピンハネしとるんやなかとね。
by ノマド (2010-01-29 23:12) 

MANTA

>東洋経済という雑誌に日本は先進国で一番科学研究費につぎ込んでい
>るのだそうな。ほんとかね。
ノマドさん、ほんとです。下記サイトの2006-2007の対GDP比をご覧ください。
http://www.stat.go.jp/data/kagaku/pamphlet/s-01.htm
その実感がないのは、科学技術が社会の役に立っていないのか、基礎研究
なので人目に付きにくいけど大変役に立っているのか?どちらでしょうね。


by MANTA (2010-01-30 04:45) 

素風

> おお、それはPositiveに捕えてよいのかしら??

うちのあほ息子を覚えていてくださって光栄です(本人が大喜びしておりました)。今は興味の範囲を広げて本人なりに手探りしているらしい、と親は見ておりますが、どうなることやら。愚息の日常を見るに、どうも鼻息の荒さと努力がつりあっていないような気が…。
記事を拝読して、そういえば研究者さんのキャリアパスってよく知らないなー、と思いました。お手すきの折にまたこういったことも教えていただけるとうれしいです。
by 素風 (2010-02-02 14:33) 

MANTA

>うちのあほ息子を覚えていてくださって光栄です(本人が大喜びしており
>ました)。
もちろん覚えておりますよ。興味の範囲を広げることはよいことですね。
いまはネットがあるので、ほんと、いい時代ですね。インターネットでまず情報
を仕入れて、詳しくは図書館で本を借りる、ってのがお奨めです(やっぱし本は
ためになります。売り物ですもん)。図書館も最近ではネット予約できますしね。

研究者のキャリアパスですか。これは人によってずいぶん違いますが、私
自身のでよろしければ、また紹介してみたいと思います。まあ、単なる自伝
になるんですけどね(笑)。
by MANTA (2010-02-04 08:31) 

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