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緊急地震速報、惜しかった [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

茨城県沖でマグニチュード6.7の地震が発生し、最大で震度5弱の揺れが観測された。
関東地方の方々は、先日の深夜、地震に起こされてしまったので、昨日は寝不足だった
のではなかろうか?私の住む神奈川県は震度3程度であったが、えらくゆっくりと長く揺れた。

●<茨城県沖地震>5人がけが 茨城、栃木で震度5弱
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080508-00000033-mai-soci

実はその日の昼間から、茨城県沖でもっと小さい地震が繰り返し起きていて
「あら~?」とは思っていた。こういう普段の地震活動の変化から
地震予報とか予測とかができればよいのだが。

---
ところでこの地震では緊急地震速報が発されたが
震度5弱を記録した水戸市には緊急地震速報は間に合わなかった。

●<茨城県沖地震>緊急速報また間に合わず 到達40秒後発表
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080508-00000034-mai-soci
●緊急速報また“後出し” 揺れから水戸40秒後、東京30秒後
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080508-00000140-san-soci

「また」間に合わずとある。先月28日に宮古島近海で起きた地震の時にも緊急地震速報が
間に合わなかったので「また」なのである。

●気象庁、初の緊急地震速報 
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080428-00000903-san-soci

…なんだ、役に立たないじゃないか」という雰囲気である。
しかしそうではない。
確かにこの2つの地震ではどちらも緊急地震速報は間に合わなかったのだが
その原因は大幅に異なる。そして今回の茨城県沖の地震については、非常に
惜しかったのである。以下簡単に解説しよう。

【緊急地震速報の原理】
地震の揺れには、先に伝わる弱い揺れ(P波)と、後から伝わる強い揺れ(S波)がある。
緊急地震速報は、まずP波を検出して、S波が到着する前に揺れの到来を知らせてくれる
地震警報システムである。 (Wikipediaに分かりやすい図が載っている → こちら

P波とS波の伝わる速度の差を利用している警報システムなので、震源から離れれば
離れるほど緊急地震速報から揺れの到来までの時間には余裕が生まれる。
P波は秒速5~7km、S波は秒速3~4km程度なので、その差は秒速2~3km。なので、
震源からの距離がLキロメートル、緊急地震速報を出すのに必要な計算時間がT秒であれば
(L/2-T) 秒~(L/3-T)秒程度が、速報から揺れ到来までのおよその時間的余裕である。

【宮古島近海の地震の場合】
この地震は宮古島から近いところで起きた。宮古島から震源までの距離は約20km。
新規作成_1.JPG
震源から近いと言うことは、緊急地震速報から揺れ到達までの余裕も元々少ない。
緊急地震速報の計算に10秒かかるとすると、L/2-T= 0秒、L/3-T= -3.3秒。
少ないというか、間に合わない。実際、宮古島に緊急地震速報が出されたのは揺れの
到着から5秒後。おおむね計算はあう。つまり直下型地震のような場合は、震源域直上の
激震地域には緊急地震速報は間に合わない可能性が高い

【茨城県沖の地震の場合】
宮古島の場合と同じように考えてみよう。
茨城県沖の地震は、海岸線から大体80kmくらい沖合で発生した。
新規作成_2.JPG

緊急地震速報の計算に10秒かかるとすればL/2-T= 30秒、L/3-T=16.7秒。
緊急地震速報は揺れよりも17~30秒程度早く発されるはずであった。
しかし、残念ながら緊急地震速報システムは、P波検出当初には震度を小さめに予測
してしまった。緊急地震速報は震度4以下の場合は発表されない。その後より多くの
地震観測点の情報が集まって初めて震度5弱と予測できたのだか、それに要した
数十秒間、緊急地震速報の発表が遅くなってしまったわけだ。

結果としては「失敗速報」なのだが、宮古島のケースとは違って、震度予測が正しければ
(もう少し大きく予測できていれば)緊急地震速報は間に合ったのだ。惜しい。

いや失敗しているのだからほめられたものではないが、しかしこれも経験である。
震度予測の方法を改良すれば間に合う可能性は十分ある。
この失敗は克服可能であると私は思う。
またもう一つ重要な要素として、緊急地震速報の計算にかかる時間(T)を短くする努力も
重要だ。宮古島近海の地震についても、速報をだせる可能性もあるわけである。

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今回の茨城県沖の地震では落ちてきた花瓶や額縁でケガをする人が多かった
緊急地震速報が間にあっていれば、そんなケガも避けられたかもしれない。
次回の(おそらくもっと大きな)地震が日本近海で起きるとき、そのときこそ
緊急地震速報は真価を発揮すると私は信じている。

ちなみに緊急地震速報については過去にも記事を書いている。
こちらもなにかの参考になれば幸いである。
・無用の警報装置: http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2007-09-03
・続 無用の警報装置: http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2007-09-11
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コメント 7

乾物屋

>次回の(おそらくもっと大きな)地震が日本近海で起きるとき、
>そのときこそ緊急地震速報は真価を発揮すると私は信じている。
本当にその通りだと思います・・・・・いや、自分も信じますよ!

by 乾物屋 (2008-05-09 21:58) 

MANTA

>本当にその通りだと思います・・・・・いや、自分も信じますよ!
乾物屋さん、コメントありがとうございます。ネット上の意見を見ていると
「もう少し待ってみよう」という評価が大半のようですね。
気象庁、がんばれ!
by MANTA (2008-05-10 02:31) 

SAKANAKANE

試行錯誤は仕方ないでしょうね。
2・3年後には、かなり活躍しているのでは?
by SAKANAKANE (2008-05-10 12:27) 

LH2

>震度予測の方法を改良すれば間に合う可能性は十分ある。
私もそう思います。
マージンを見込んで一般向け緊急地震速報を震度4でも出せばいいような気もしますが・・・。

>実はその日の昼間から、茨城県沖でもっと小さい地震が繰り返し起きていて「あら~?」とは思っていた。
気象庁のログを見ると、後出し的に「事前にあったこれは・・・。」ということは多そうな気がしますが、小さい地震だけで終わってしまうことも多いですよね。逆にいきなり来ることもありますし・・・。やはりこれまでの記事のように、予知をするのは難しいんですね。
by LH2 (2008-05-11 16:44) 

LH2

PS:書いてから調べてみましたが、震度4は頻繁に起こっているんですね。
4月18日の阪神大震災の余震(震度4:明石)や今日の3時24分の震度4(北海道根室)、4時19分(宮崎県小林)の震度4など、1月1日から合計11回・・・。
震度4で発表しない理由もなんとなく納得です。
by LH2 (2008-05-11 17:12) 

おおくぼ

私のブログにコメントいただき、ありがとうございます。

地震や海洋には詳しくないのですが、身近な感じがする内容ですね。

地震に関しては、地震大国である日本は、慣れているので他の国と比較すると二次災害は少ない気がします。大陸などにある地震の少ない国は、地震に弱い建物が多かったりするので、同じ震度でも日本以上の被害になるのではないでしょうか。だから、地震の少ない国で予報が役立つといいのですが。
by おおくぼ (2008-05-11 22:33) 

MANTA

>2~3年後には、かなり活躍しているのでは?
SAKANAKANEさん、そうですね。それくらいかかるかもしれません。
一方でここのところ毎年、大きな地震がおきてます。1年のうちにまたどこかで
大きな地震がおきますから、そのときにうまく速報を出せればよいのですが…

>やはりこれまでの記事のように、予知をするのは難しいんですね。
LH2さん、そうですね。それでも「ちゃんと予知できた地震」というのも
あるにはあるんですよ。また連載記事で取り上げる予定です。
あとお書きのように震度4はたくさん起きています。

>だから、地震の少ない国で予報が役立つといいのですが。
おおくぼさん、現在の緊急地震速報はすごい地震観測インフラのうえに
できています。地震の少ない国ではそこまで地震観測にお金を使わない
でしょう。ところが緊急地震速報だけならば、もっと安い地震観測ネットワーク
でも出来るかもしれません。海外に輸出するにはこのあたりの技術開発
も必要でしょう。おそらく。
by MANTA (2008-05-22 06:39) 

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