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ディベート力は大事。だけど… [▼科学ニュース New!]

こんな本を読むこともあります。科学者たるやディベートの達人たれ!

「ディベート力」の鍛え方―詭弁を見破り、論破する技術

「ディベート力」の鍛え方―詭弁を見破り、論破する技術

  • 作者: 北岡 俊明
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 単行本

でもなあ… いつもお薦め本の感想を書いてますが、これはあんまりお薦めしません。
いやいや、誤解なく、私には勉強になる本でしたよ。
たとえばあなたは「ディスカッション」と「ディベート」の違いを説明できますか? 

ディスカッションは日本語では「議論」と訳されますが、ちょっと広義すぎ。実際は「話し合いや意見交換」です。したがってディスカッションの結果、まったく新しいある結論が生まれることもあれば、複数の結論が並列してしまうこともあるでしょう。それに対してディベートとは、ある問題に対して論理的な観点で武装し、ひとつの主張を貫くことです。待つのは白か黒か。灰色の決着はありません。例えれば「知の格闘技」です …と、この本には何度も書いてあります。

本書によれば「ディベート」=ある問題に関する公の場での議論、には留意すべき点がいくつかあります(例は私が追記)。これらは科学的議論にも役立つ要素ではあります。

・白黒はっきりしている点に立脚してディベートする
 例:「そういえば~かも」というような灰色の部分への言及は不要
・相手の意見に納得する必要なし
 例:「確かにおっしゃることはわかりますが…」って枕詞は不要
・何について議論しているか明確にする。ディベート途中で論点を摩り替えない。
 例:地震の予知は将来可能か?=「事実」に対するディベート
 例:地震の予知は国民にとって大事なことか?=「価値」に対するディベート
 前者はいくらお金がかかるかなんて関係ない、後者は限られた国家予算を考慮しないといけない。
・議論している言葉の定義をはっきりさせる。
 例:戦争をやってはいけないか? ← 戦争の定義とは?
・判定は第三者が行うこと。たとえ灰色の部分が残ったとしても第三者が白黒を判断。
 例:裁判なら陪審員や裁判長
・主張を貫く勇気と信念(あたりまえ)

まあ裁判や外交でよく見られる光景ですね。科学的議論でもよく使われるディベートですが、こうしてディベートの要点をまとめることはなかったので勉強になります。

普通の生活にはディベートそのものは役立ちそうにないですが、ディスカッションとディベートの違いを意識しておくことは、役に立ちそうです。たとえば会議。議論が白熱してくると、自分自身、ディスカッションモードで意見交換しているのか、ディベートモードで自分の意見を主張しようとしているのか、わからなくなってることないですか? 冷静になって、例えば相手がいまディスカッションをしてきているのか、ディベートをしかけているのか考えると、退屈な会議も案外面白くなるものです。お試しあれ。

ちなみに会議にもいろいろ種類があります。大きく分けて4種類。
(高橋誠著「入門 企画会議のすすめ方」になんとなく基づく ←以前読んだ記憶から引用…)
1) 情報交換や報告のための会議 ←「月曜の朝の会議」ってのはたいていこれですね。
2) アイデアを持ち寄る会議 (ブレインストーミングともいいます)
3) 互いのアイデアに対して意見交換する会議
4) 議論に決着をつけて方針を決定する会議(採決したりもします)
ディベートを使うなら、4ですね。実際、読書直後にあったある会議で自ら意見を述べる際にディベートの意識は役に立ちました。

…しかし本書中で役に立ったのは2割程度、タイトルと内容が合致しない書でした。本書中では、東京裁判や日中関係などいくつかの歴史的・政治的事件に対する思い入れが冗長すぎます。ディベート論よりも歴史・政治論の押し売りと感じる人もいるかもしれません。読む人によっては不快のレベルでしょう。これらの事件をディベートの題材として取り上げられているようですが、その背景の説明もあまりに少ない。正直いって「ディベートとは発表者の独断により、物事のある一段面のみから結論を断定する、はなはだ荒っぽい議論のやり方である」という印象すらもちました。単著の本なので、議論する相手がおらず、非常に独善的に見えるのでしょう。これがディベートの欠点かもしれませんね。相手がいてこそのディベート。また著者主催の「ディベート大学」なるもののすばらしさが繰り返し自賛されているのにも辟易。まあ実用書ってこういう宣伝ちっくな本が多いですね。ディベートの要点だけまとめてもらって、事例研究も簡潔だったらよかったんだけど。ディベートに興味お持ちの方は本書でも勉強になりますが、別の著者の本をお薦めします。

なお本記事は単なる感想であり、本著の意義をディベートしたいわけではないことを付記しておきます(苦笑)。

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コメント 3

by3u

こんにちは、by3uです。
私のブログにお越し下さいましてありがとうございました。
会議についてですが、うちの会社では2)~4)は論外、1)すらも満足に出来ていない状態です。お恥ずかしい。
ディベートの定義はとても参考になりました。枕詞やクッション言葉が不要というのはかなりすがすがしいですね。潔いといいましょうか。以前TVでやっていた「ここがヘンだよ日本人」という番組をちょっと思い出してしまいました。
by by3u (2006-07-19 10:25) 

ちゃめ

 面白かったね、この投稿。

>普通の生活にはディベートそのものは役立ちそうにない…、
 個vs個の対話や、仕事上の打ち合わせの際には、ディベートのテクが役に立つと思うよ。
 方向性のない話に流されないようにして、自分の言いたいところは伝える、ってところに、応用できそう。
 しかし、
> 例:「確かにおっしゃることはわかりますが…」って枕詞は不要
 これは、「ディベートをしている」という認識を、双方が明確に持っていないと、逆効果を招くかもね。
 日常生活レヴェルや、仕事の打ち合わせレヴェルで、双方が「ディベートしている」と意識するケースは少ないだろう。
 というより、99%には、そんな意識はないだろう。
 そんな環境では、相手を持ち上げる(と見せかける)枕詞は、日本人同士のコミュニケーションには、欠かせないだろうね。

 と、議論の論点を、「ディベート」から「日常の対話」に摩り替えてみました(笑)。

 日常レヴェルの交渉術に関して、私のお勧めは『詭弁論理学』ですね。
by ちゃめ (2006-07-19 11:48) 

MANTA

- コメントありがとうございます > by3uさま
科学議論に役に立つかと思って本書を読みましたが、案外普通の会議で役に立ちそうです。こういう議論の訓練は日本でも子供のときにもっとやってええんちゃうかな?とおもいました。
あと、うちの会議もグダグダですよ(苦笑)

こんちわ!>ちゃめさま
おっしゃるとおりだとおもいます。相手がディベートの意識がないのに、こっちがディベートモードバリバリだとおもいっきりすれ違いますからね。なのでディベートをちょっと意識する、たとえば上記のディベートの項目のうち、1つ2つをおりまぜてディスカッションする、ってかんじでどうでしょう?
by MANTA (2006-07-21 08:52) 

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