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科学者と記者との間には [ 科学コミュニケーション]

先日の記事「新聞記者にはガッカリだ」はえらい古い(しかもわざわざ取り上げなくても良い些細な)新聞記事を紹介したにもかかわらず、たくさんのコメントをいただきました。ありがとうございます。

中にはマスコミ関係者の方のコメントや、サイエンス誌のポリシー原文を掲載頂いた方もおられました。あかさたな様のコメントを読むと、JAXAの人たちはサイエンス誌との契約ルールに従っただけで、攻められるべき点はなにもありません。これは科学者の立場を代表したコメントといえるでしょう。一方で、ありゃ様のコメントでは、サイエンス誌とのルールを守るという事情も含めて、科学者がもっと説明をすべきだったのではないか?という主張です。これは報道側の代表的意見でしょう。

あらためて皆さんのコメントを見ても、件の記者は先走りすぎ。そんなにサイエンス誌の制約やそれに従う科学者に不満があるならば、M社が立派な科学雑誌を作って、そこに掲載される論文を独占スクープすればいいのに、とすら思います(苦笑)。ただ、それでも科学者に出来ることがあったとすれば、「論文誌には抵触しない範囲で、最新成果を報道向けに提供する」ということでしょうか?

例えば…
●科学者は実験が終わった時点や学会発表時に報道向けに速報を発表する。
 内容は掲載前の論文に抵触しない程度。中間発表的か?
 記者は途中成果であっても取り上げる価値があれば記事として新聞などに掲載
 例:探査機はやぶさの軌道のずれから小惑星イトカワの重力測定に成功
   軌道のわずか数mのずれも地表から測定できた

●その後の解析結果が出て論文として纏め上げた成果については、科学者は
 記者からの取材に応じても、記者は論文掲載日までは記事にはしない。
 記者は掲載までの間に、読者により分かりやすくメリットのある記事に昇華させる。
 例:重力測定の解析の結果、イトカワ内部がスカスカであることが分かった。
   同様の小惑星だと地球にぶつかっても安全安心

論文って内容チェックに時間がかかります。査読って言います。詳しくはサイドバーの「連載」を見てね。サイエンス誌でも原稿の投稿から掲載まで数ヶ月。つまり雑誌には(その内容がある程度保証されているとはいえ)数ヶ月遅れの成果が掲載されているわけです。サイエンス誌は速いほうで、雑誌によっては1年とか2年遅れということも。科学者はこの間、情報をまったく開示しないというのは国民に対してはいい印象はあたえません。

重要な事は、科学者と記者との間には「科学成果を国民に知らせる」という共通利益があるということです。科学者は、論文を書くだけでなく新聞報道などにもどう対応するか、いやはっきりいいましょう、新聞報道をどう利用するか、もっと考えていいと思います。利用といっても悪い意味ではありません。国民に科学成果を伝える一番いい方法は新聞やニュースなのです。新聞記者などともっと積極的に意見交換をして協力しあうべきでしょう。

といいつつも、例えば私はどこにいけば新聞記者と懇談できるのかいな?
大先生はともかくとして、これが一研究者の偽らざる現状なのですよ。

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ありゃ

こんばんは。
>重要な事は、科学者と記者との間には「科学成果を国民に知らせる」という共通利益があるということです。…新聞報道をどう利用するか、もっと考えていいと思います。

同感です。10年以上前の日本の研究者には無かったスタンスだと思います。「どう利用するか」という点、本当に考えて欲しいし、ぶんやを使い倒すくらいの意識(したたかさ)を持ってもよろしいと思います。
JAMSTECさんやJAXAは、1この研究費につぎ込むお金おっきいでしょ?お財布握ってる人々からすれば、そこを1つ削れば楽に圧縮できる。だから、18年度予算もねらわれたわけです、ご承知の通り。だから、「税金をいかに有効に使うかを考えるのが私のミッション」なんて言ってるお財布さんに、ぐうのねもでないよう、研究を確保するには、「一般社会へアピールしてます」のスタンスが戦略として必要なんです。(私は、Scienceは資金を投入し続けないと発展はない分野だと思っているので、10年、15年かかる研究をどう守るのか、記者は考えないといけないと思っていますが)。
>科学者がもっと説明をすべきだったのではないか?という主張です。これは報道側の代表的意見でしょう。
「JAXAに対する代表意見」というのが正確です。もう少し、内情を説明します。JAMSTECさんとJAXAでは、記者は対応の仕方が違います。繰り返しになるかもしれませんが、JAXAと記者との関係、よくないというのがベースにあります。(3機関統合前から続いていて解消されていません)
「たとえば」の後者は、Science誌の掲載日が決まってから、会見がありましたから、実施されていることなんですよね。JAMSTECさん、大学さんも同様です。会見を設定したり、個別で取材に応じたり、皆さまには頭下がります。
で、問題は前者。はやぶさプロジェクトの場合は有効だったでしょう。なぜなら、「着陸した」とか「してなかったかも」とか、「試料採取用の弾丸、撃ち込めたかも」…なんて、逐一、記者の取材に応じてる(というか、現場脇に入れて取材させてる)。この間、JAXAと記者の間で、もめごとが多発しました(JAXAが肝心な所でリリースを遅らせたため)。おかげで、記事も二転三転してます。
なので、「これまで実況中継ちっくにリリースしてたのに、学術的なこと、隠してたのか!!」という怒りが、学会で炸裂した。話を聞こうとしたら「Scienceに載るから」と取材を「拒絶された」。多かれ少なかれ記者が感じても仕方ないかなぁ…と。現場にいれば私もそう思う。でもScience誌には勝てませんけど。

感情がもつれている二者間だったから、「もうちょっと説明すればいいのになぁ」と思ったんです。JAXAに対しては。それに乗じて一気に怨み節を書いたのがM。
他機関の研究者相手だったら(たとえばJAMSTECさん)こんな事態にはならなかったと考えています。ただし、あの記事を書いた事に関して、記者として最低だと今も思います。
M紙さんはけんかを売った以上、立派な科学誌を作って頂かないといけませんね。本当に。
「論文誌には抵触しない範囲で、最新成果を報道向けに提供する」というのは、現状では学会発表を記事化するのが限度でしょう?ご提案の部分、論文誌をそっちのけにして新聞に掲載されたことをもってして、●●省が評価して、その後の研究費を担保することが無いのですから、そこまでの要求は、(科学の現場を離れていますが)記者がしてよいのか?と思うのです。(こんな内容の研究をしている人がいますという紹介はできますが)。

研究者は、ご自身の研究に専念しつつ、周辺環境がこれまでと変わってきているのはご承知でしょうから、つらいかもしれませんがそれに合わせて研究費をきっちり取って頂いて(記者は応援しかできません)、ご自身の知的欲求を満たせるよう、研究に邁進して頂きたい。それが、「新しい知」に結びついた喜びを共有できればいいなぁ。
科学記者だった間、私は常にそう考えてきました。一時期、研究者になりたかったからかもしれません。ただ、私のように考える記者は少数でもないです。そこは分かって頂きたいのです。
ですから、「新しい知」かどうか、研究コミュニティの中で検討する査読の期間にギャンブルしなくても、これまで通りでもいいような気がします。だって、前倒しして出して記者に出してしまって、コミュニティに「間違い」とか結果「捏造」とか言われたら、研究者生命、終わってしまうでしょう?JAMSTECの皆さまや、大学で研究をされてる方々には、M紙の記事で振り回されたくないです。JAXAとは違います。

JAMSTECさんは、A・Tさん以外の『広報マン』がいらっしゃらないのが弱点かもしれませんね。記者はカミツキ亀ではありません。人間ですから...
by ありゃ (2006-06-28 01:53) 

MANTA

- コメント、ありがとうございます。記者さんから内情を伺うと、JAXAさんにも(いろいろあるのでしょうけれども)なんとかがんばってほしいですねー。松浦晋也氏著「恐るべき旅路」http://blog.so-net.ne.jp/goto33/2006-04-12 の頃よりはオープンな方向にいっているようですし。老若男女が見守る宇宙分野です、JAXAの活躍に期待してます。

「論文誌には抵触しない範囲で、最新成果を報道向けに提供する」ためには、論文を書く前から「これは速報発表向き、これは論文向き」とネタを作っておくことが必要でしょう。はじめに意識さえしておけば、科学者はプロです、適切なネタの切り分けくらいできます。たぶん。

報道発表は、そうですねえ、論文執筆の10分の1以下の作業量でできるとおもいます。論文書くのはそれくらい大変ですし、逆に言えば新聞記事の効用は科学者にとってはそれだけ大きいのです。予算獲得、とかそういった新聞活用もあるでしょうが、私自身はお世話になった船員さんとか、陸上勤務の支援スタッフの方とかに「あんときの航海はこんな成果になってますよー」って見せたいために新聞報道をしましたね。自分のやってることを専門家じゃない人たちにも見てもらい喜んでもらう、それは科学者にとっても大きな喜びです(よね?)
by MANTA (2006-06-28 08:07) 

ちゃめ

 研究者ってのは、大変だねぇ。
 で、素直な疑問を感じたのだが、JAMSTECやJAXAには広報部はないのか?
 あるいはスポークスパーソン(流行を追って無性語にしてみました)はいないのか?
 研究者が、マスコミの操縦方法まで悩むのは、何でも背負い込みすぎじゃないのか?
 もちろん、考えるのは有意義な行為だけどね。

 そういうのを一括して引き受け、対外情報を選別整理する窓口、公的研究機関ならあるんじゃないのか?
 研究者とマスコミが直接対話するのも良いかも知れないが、広報専門の部署や人間に任せられるのも、組織で動く人間の強みだろう。
 広報専門の人間が、研究者と話した上で、公表する内容を決める。
 研究者はマスコミ対応などに悩まずに、研究や論文作成に打ち込める。
 忙しい研究者に、マスコミ対応のための細かい説明や、気を配った対応を求めるのは、酷だろう。
 皆が皆、Mantaさんのような人じゃないだろうし。

 マスコミと研究者の交流は良い事だけど、それは余裕を持っている時にしたほうが良いのでは?
 学会発表や論文投稿などの煮詰まったフェーズでする必要はないんじゃないかな?

 極論で詭弁なのを判っていながら、あえて引き合いに出そう。
 米軍の最前線指揮官がいちいちマスコミに作戦の状況を報告するかな?
 彼らは広報担当官を通すはずだ。
 V'namでマスコミに手ひどくやられた米軍は、マスコミを利用する方法を知り尽くしている(V'namでアメリカが負けたのは、マスコミ報道のせいだ、と言う説がある)。
 そして、流すべき情報を把握し、整理した上でマスコミに流している。
 最前線指揮官は作戦指揮に集中し、広報官が情報を流す。
 同じような仕組が、研究機関にもあるはずだから、もっとそれを積極活用するべきではないかな?
 僕のような一匹狼は全部自分でやらなあかんけどな(営業力欲しい~!)。

 なーんて、偉そうな事を書いてみました。
by ちゃめ (2006-06-28 20:25) 

kagaku

JAMSTECさんも広報を担当する人を充てたほうがいいのでしょうね.こういうところにこそ,科学技術コミュニケーターの能力を活かせる場所があると思います.

科学技術ジャーナリスト養成プログラムでしっかりしたジャーナリストを育てるというのもやっていますが,広報をしっかりするほうが大事なのではないかと思います.

MiraikanとJAMSTECはボランティアでの交流がありますので,Miraikanボランティアが広報ぼらをするというのもありなのかも.
by kagaku (2006-06-28 20:43) 

MANTA

- 説明が足りませんでした。うちには報道室があります。JAXAにもたぶんあります。報道室はマスコミ各社への連絡とか、記者会見の設定とか、ホームページ作成とかをやってくださいます(大感謝!大学には未整備の場合が多い)。でもそれだけではダメなのです。> ちゃめさん

報道の材料は科学者が出すのです。科学者が「論文掲載までまって」といえば→報道室は同じ言葉を記者に告げ→記者はイライラ→M新聞の記事、というわけです。私の主張は、情報の生産者である科学者が、国民へのサービス(還元)まである程度考えるべき、ということです。意識の問題なのです。

軍の例は適切ではないでしょう。あれは情報操作…
by MANTA (2006-06-29 06:44) 

MANTA

- すぐれた科学コミュニケータが研究所内にいるといいですねぇ > K_Tachibanaさん
うちのホームページをみても、一般公開を見ても、船とかロボットはバンバン宣伝されているのに、それを使った科学成果の宣伝は少ない。「これじゃ箱物行政やで… あー科学に詳しい広報の人がもっといればなぁ」といつも思っております。

ただ科学コミュニケータがいれば、科学報道はどんどん進むのでしょうか?ちょっと疑問… この辺、いちど科学者と記者と科学コミュニケータで議論してみたいですね。
by MANTA (2006-06-29 07:46) 

ちゃめ

>軍の例は適切ではないでしょう。あれは情報操作…
 爆笑!
 予想通りの突っ込み感謝。

 でも、米軍のマスコミ利用法は参考になるよ、きっと。
 マスコミを使う事を、志されるなら、だけど。

 Mantaさんの意図はよく理解しているけど、上記の図式に従って、私見を述べると、記者をイライラさせない対応をするのが広報担当部署の仕事。
 科学者がつっけんどんな姿勢でも、外部には柔らかい対応をするのが、広報の仕事だろうね。
 伝書鳩みたいに科学者の言う事をそのまま伝えるという、「純役所的対応」をされたら、記者も怒るわな。
 あくまで、現場を見ていないから、想像の上でのお話だけどね。

 トラブルの多くは、実はスゴク低レベルなところで生じていると思うよ。
 つまり、対応とか、言葉とか、言い方とか…。
 科学者に人当たりの良い対応を求めるのは、ブッシュ大統領にラブ&ピースを求めるようなものだから、期待できないね(偏見効き過ぎだね?笑うところだからね、ココ)。
 でも広報担当は、人への対応とか、言葉遣いとか、そういうヒューマンインターフェイスの部分に注意を払う「職業上の義務」があると思うよ。
 ヒューマンな対応をするのも、広報の仕事。
 というか、それが広報の仕事、じゃないかな。
 あくまで、現場を見ていないから、想像上のお話だけどね。

 なーんて、またしても偉そうな事を書いてしまったぁ=)。
by ちゃめ (2006-06-29 16:14) 

MANTA

- 私が気になるのは「記者にも科学者にも気配りができて、科学的な知識も詳しい広報担当者さえいれば、研究所は積極的かつ効果的な科学広報ができるのか」ということです。私の答えはNo、理由は簡単です。私は科学者ですが隣の席の科学者が何をしているかは、本人から丁寧に説明をうけないとわからないこと場合がしばしばです。非常に細分化された現代科学の世界では、やっている本人がその意義を伝える努力をしないと、ほとんどの人は理解できないのでは? 科学者の広報に対する意識が向上しなければ、結局はきれいな映像あるいは化石などのモノに頼った「お手軽」な科学広報や科学報道しかなされないのではないか、と危惧します。優秀な広報担当者と、(しゃべりベタであっても)説明義務を怠らない科学者が科学広報には必須と考えます。
by MANTA (2006-06-30 18:56) 

ちゃめ

 なるほど。
 で、僕がイメージした(理想とする)広報担当者というのは、「記者にも科学者にも気配りができて、科学的な知識も詳しい広報担当者」 + 自分から積極的に科学者から情報を集めるタイプの人間です。

>本人から丁寧に説明をうけないとわからないこと場合がしばしばです。
 本人から丁寧な説明を受ける前に、説明を聞きにいく行動力と、説明に科学者が時間を割きたくなるような人間関係が必要ですね、私の理想とする担当者さんには。

 ウェブベースのテキスト媒介ではなかなか伝わりませんね。
 会って話したら、そんなに難しい話じゃないのですが。
 お互いよく知る間柄でも、ウェブ上の議論は難しいですね。
 やっぱ、ウェブ上ではブレインストーミングに限りますね。
by ちゃめ (2006-06-30 19:33) 

MANTA

- 「自分から積極的に科学者から情報を集める」広報がいれば話は別ですね。科学者も身内から請われれば嫌とはいいませんよ。ただ広報が独自に情報収集できるかどうかは、研究所内の広報に対する方針がしっかりできてるかどうかによるでしょうね。

ウェブ上での議論は、文章によるためか、論点が明確なので私はきらいではありません。ただ誤解されない文章を短い時間ではなかなかかけないことが悩みです。これからもよろしくね(苦笑)
by MANTA (2006-07-01 15:46) 

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