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データ捏造、何が悪いのか? [▼科学ニュース New!]

先日の記事「捏造データによる特許は是か非か?」には、たくさんコメントをいただきました。ありがとうございます。とてもコメント欄には書ききれないので、タイトルのような内容でひとつ記事を書いてみます。

ちなみに私は神戸大学教授を糾弾するためにこれらの記事を書いているわけではありません。むしろ同情的です。趣旨は、大学や研究所などの公的機関に属する研究者に対する(自戒の念も込めた)注意喚起であり、同時にこれらの機関での特許に対する正しい認識とルール作りのお願いです。なお企業の研究者は法律と企業倫理に従っていただければ問題ないとおもいます。

 … … …

さてそもそも、なぜ大学側は論文捏造を行った研究者を処分をするのでしょうか?「それってあたりまえやん。モラルの問題やん」まあそうですが、処分する大学側にとっては何が問題になるんでしょう?これがわかると、特許申請で未実験データを実験例として掲載した件を、神戸大学が調査する理由が分かるかも。そこでちょっと(嫌ですけど)大学や研究所の運営側の立場で考えて見ましょう。

論文捏造の場合、"大学の名誉を傷つけたこと"が大学側の処分の一般的な理由のようです(例えば大阪大学での捏造論文問題の場合:阪大、学生の論文捏造で処分・監督責任で2教授停職に)。多くの大学の職員就業規定では、懲戒処分の原因として「大学の名誉又は信用を傷つけた場合」や「故意又は重大な過失によって大学に損害を与えた場合」が挙げられています。ただし論文の捏造行為そのものは懲戒処分の対象ではありません。捏造データを大学外の第3者に公表する行為が大学教員の専門知識に対する社会的信頼へのうらぎりであり、ひいては大学の名誉を傷つける行為である、と大学側は考えているのです。第3者への公表とはなにを指すのでしょう?極論すれば媒体・手法を問わず、大学教員が職務において実施したすべての発表の場が第3者への公表と見なされる可能性があります。査読論文だけでなく、査読なし論文・報告書・ホームページといった文章から、学会発表・講演会・委員会といった口述まで、全部です(というのは私の推測であって、真実は個別に大学側に問い合わせたり裁判したりして下さいね)。特許もです。ですので大学は今回の特許中のデータ捏造も論文捏造と同様に扱うのだと思うのです。

では特許申請はどうでしょうか?神戸大学教授の場合、この特許は申請だけでまだ利用も公開もされていないのですから、大学の名誉も傷つけてないし、損害も与えてないですよ。申請だけだとセーフ?いやいや、本件が特許として承認され→月日がたち→いずれ一般に公開されて→それを使った一般企業が不利益をこうむり→データ捏造がばれ→大学の名誉が損なわれる可能性があるではないですか。"えーそんなーこじつけだー"と私も思います。同教授も「後で検証することもあり得ると考えていた」(毎日新聞→先日の記事)そうですが、このまま特許を得ていても未実験項目を追加実験するという証拠はどこにもないのです。就業規定にはたいてい「(懲戒処分対象の)各項目に準じる不都合な行為」も懲戒処分になるとあります。将来的に大学の名誉を傷つける可能性が具体的にあるとすれば、未実験データを実験例として特許申請する行為は「準じる不都合な行為」といえなくもない。従って、神戸大学は本件を調査せざるおえないのです。さらに大事な事が一つ。大学教職員は全員、この就業規定および懲戒処分の対象を十分に認識しているはずです。なぜならこの規定は大学が独法化する際に大学内外でうなるほど議論されたはずだからです。(ただ教職員が大学の名誉や信用がなにかを理解していなければダメですけど…)ですからどんな事情であれ神戸大教授の認識は「甘かった」といわざるを得ないと思うのです(新聞各紙への同教授のコメントをあらためてみても、改めて"甘いなあ…"という感想を抱いています)。

さて神戸大学教授のまずかった点はここまでとして、神戸大学側にも落ち度はあります。まず本件について、同大学はこれから調査委員会を設置して事実関係を調べるようです(毎日新聞)。なぜ調査も終わっていないのに、工学部長は「遺憾だ」とコメントするのでしょうか?特許にお詳しい多くの方がブログなどで指摘するような「特許の性格」を加味して、穏便なコメントを出すほうが大学として適性であったのではないでしょうか?工学部長のコメントは早急すぎると思います。またそもそも、論文捏造も特許捏造も、どう処分されるかは就業規定には明記されてません。罰則規定がないのです。どのような罰則が適正だ、とはどう判断するのでしょうか?このケースが大学法人としては始めての"判例"になることを同大学はしっかり認識してるのでしょうか?さらに起きてしまった事はしかたないとしても、同様の問題が過去の特許について起きてないかを同大学は調査するのかどうか?また今後どういった対策を同大学は考えているのかは、新聞ではまったく語られていません。同大学のホームページにもない(予定すら)。その結果、いらぬ邪推を生み、大学への不信感が増える羽目になっていると思います。

私個人は、今回の問題に対して神戸大学にはぜひ客観的で適正な処置をお願いしたいです。また他の大学・研究所も今回の問題を胸に刻んで、今後の大学・企業の共同研究開発に差しさわりがないレベルでの特許申請のルール作りを進めてほしいというのが私のもう一つの主張です。これって重要と思うのですが、大学や研究所はしっかり考えてるのかなあ…?

おまけ:
神戸大学の職員就業規定はみあたりませんが、特命職員の就業規定はあります(http://www.kobe-u.ac.jp/info/disclosure/law22.htmからたどれます)。第10章に賞罰の記述あり。

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f16fightingfalcon

TBありがとうございました。コメントを書いていたら長くなりましたので、新たにエントリしてTBさせていただきました。
やはり、私は論文と特許は別物として、ルールを作ることが重要なのではないかと思う次第です。また、論文にしろ、特許にしろ「捏造」するような研究者が本当にいれば、本来科学者の世界から抹殺されるのが健全な学会ではないかと思うのですが。
by f16fightingfalcon (2006-05-06 23:44) 

MANTA

- TBありがとうございます。こちらも長々と書きまして恐縮です。
論文・特許などそれぞれ個別のルール作り、大賛成です。
あと捏造を消すのは難しいでしょうね。専門家がつく極めて精巧な嘘=捏造です。ルール作りと共に、不正を未然に防ぐ方法や罰則の整備もお願いしたいです。
by MANTA (2006-05-07 09:03) 

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