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査読とは(3) ~査読者選定の難しさ~ [ 連載 Old..]

査読者を選ぶことは大変難しい。なぜならば多くの場合、学会は査読に対して無償、もしくは時給に見合わぬ安い謝金しか支払っていない。学会の財政状態は(おそらくどの分野でも)けっして裕福ではないのだ。ボランティア活動は就業時間内にはできない。企業の研究者は夜間や休日以外には査読の時間をとりにくいのだ(大学などの研究者もプロジェクト志向のため近年同様の状況になりつつある)。つまりは査読を引き受けていただけない場合が度々あるのが実情だ。私の場合は、査読をお引き受けいただけない場合は、別の方の推薦をお願いしている。専門家の数珠繋ぎでなんとかしようというのである。しかし何人かご紹介いただいているうちに、はじめに断られた専門家に戻ることもあり、しばしば苦笑する。結果、査読者選定に2週間もかかっていまうこともある。つまりは査読者選定は編集委員の重要な仕事の一つなのである。

査読の依頼をさらに難しくする要因は、論文の詳細や著者名を明かせないことである。論文の価値はスピードである。同じ内容の論文が2つあれば、先の論文が評価される。後の論文はともすれば二番煎じにつき掲載不可の憂き目に会う事もあるのである。こうなると査読を引き受けないかもしれない第3者に対して、うかつに論文の詳細を明かすわけには行かない。なぜなら査読の客観性を保つ為、査読者を論文の著者・共著者と同じ研究機関から選ぶことはできないからである。同じ分野の違う研究室の専門家、とはすなわち「ライバル」なのである。従って私の場合は、論文の概要、特徴(理論系か実験系か観測系かなど)、ページ数、図の数、編集委員の読後の感想のみを添えて査読の依頼を行っている。査読候補者にとっては、これだけの情報で膨大なボランティア的作業を引き受けることはためらいとなるだろう。また著者名を伏せているため、著者そのものを査読者として推薦いただくケースもあり、編集委員としても難儀する。学会によっては、査読者に判断材料を多く与えて査読者決定をスムーズにするために、投稿論文のまるごとコピーを査読候補者に送付するケースもあるという。一長一短である。

とはいえ私の分野では査読を快く引き受けていただけている。査読者には、学会の活性化と将来への発展性を理解いただき、ご協力いただいているのである。また逆に「○○社の調査のノウハウを論文のやり取りの中で聞きたい」という理由で、査読を引き受けてくださる専門家もいる。確かに査読結果をやりとりすれば、論文には書かれていない諸情報を知りうることになる。このあたりは非常に微妙な点ではあるが、論文査読という行為を逸脱しなければ許されることだと私は思っている。ともかく、編集委員としても査読者の努力を無にせず、会誌を有意義な場にしたいと常々考えている。

なお余談だが、「私は査読は引き受けない」旨をブログなどに堂々と書かれている研究者もいる。一編集者としては「ではいったいだれがあなたの論文を査読しているのか?」と問いたい。確かに「よい査読者を集めてよい学会誌を作りたければ査読に相当額の謝金を支払うのが当然」との意見もある。しかし学会とは企業ではなくコミュニティーである。会員一人一人の参加があってこそ、学会は盛り上がるのである。金銭のやりとりもある程度は必要であろうが「コミュニティーへの参加」の1つが論文投稿であり査読であると私は考えている。

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