CO2増加は人為的か自然変動か? [ 地球温暖化を学ぼう]
久々の温暖化記事である。このブログでの連載「地球温暖化を学ぼう」のキッカケは
地球温暖化論がホントかウソかを(感情論ではなく)、科学面からきちんと理解して
みましょう、であった。連載を通じて、私自身はある程度の知識が身についたし、
ここ数年は一般市民にも地球温暖化に関する認識が広がったので連載もお休み状態
であった。しかし去年くらいから再び「地球温暖化など無かった、まやかし」なんていう
人達が増えてきた。ならば温暖化連載も1年半以上ぶりに復活させねばなるまい。
手始めに「二酸化炭素(CO2)の増加が人間活動のせいか、自然の変動か?」について
改めて考えてみよう。これは以前の本連載で人間活動が原因である可能性が高い
ことを述べているが、疑い深い方がおられるようなのであらためて説明しよう。
まず人間活動によって放出されたCO2の量については次のような見積もりがある。
Peters et al., Rapid growth in CO2 emissions after the 2008–2009
global financial crisis, Nature Climate Change, 2, 2-4 (2012)
http://www.nature.com/nclimate/journal/v2/n1/abs/nclimate1332.html
※黒線が年毎のCO2排出量。原図に対して当方が数字(年)を加筆。
原文によれば人為的なCO2排出量は、化石燃料の燃焼量とセメント生産量から求められた
ようである。ご覧のように、人為的なCO2排出量には経済活動と間に密接な関係があり
例えば2008-2009年の世界金融危機の際にはCO2の年間の排出量が減っている。
同様に1974-75年、1980-83年、1992-93年、1998-99年にも減少が認められる。
(なお化石燃料消費量も上記の年には減少傾向である。参考:BP統計2012など)
この人為的なCO2排出量は、大気中のCO2濃度に影響を与えているのだろうか?
そこで次の図を見ていただきたい。
「Annual Mean Growth Rate for Mauna Loa, Hawaii」より
http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/#mlo_full
※丸印と年については当方が加筆
この図は「大気中のCO2濃度が前の年よりどれだけ増えたか」というグラフである。
前の年よりもCO2濃度が減った年(グラフの値がマイナスになる年)はなく、
CO2は増えっぱなしである。ただし、人為的なCO2排出量が少なめの年、
すなわち1974-75年、1980-83年、1992-93年、1998-99年、そして2009年には、
大気中のCO2増加分も少なめであることが見て取れる。
つまり「大気中のCO2の増加は、人為的なCO2排出と密接な関係がある」といえる。
----
ただし人為的なCO2排出と大気中のCO2増加の関係は単純ではない。例えば上記で
指摘した年以外にもCO2増加量が減っている年が見られる。また前述の人為的なCO2
排出量の減少はたかだが10%以下(前年比)であるが、大気中のCO2濃度の増加量変化
は数十%にも及んでいる。なぜか? ここで気象庁の資料にある言葉を借りよう。
●大気・海洋環境観測報告 第7号 2005年観測成果
http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report2005k.html
2.温室効果ガス > 2.1 二酸化炭素
(図 2.1.4 の解説文より引用)
”二酸化炭素を主体とする炭素循環は定量的に全て把握されているわけではない。
(中略)人間活動により排出された二酸化炭素が、そのまま大気中の濃度増加には
反映されていないことがわかる。(中略)排出された二酸化炭素が海洋や森林・土壌に
吸収・蓄積され続けているとともに、その吸収・蓄積量が年によって変わることを意味
している”
この複雑さをもってして、鬼の首を取ったかのように「人為的なCO2排出だけでは大気中の
CO2変動を説明できないではないか!? だからCO2増加は自然現象であり、人為的影響
など無関係なのだ」と主張する人達がいるようである。しかしそれは間違いだ。
上記の2つのグラフで、CO2増加が減っている時期がいくつか一致しているのは
偶然の産物とはいえまい。すなわち、大気中のCO2濃度は人為的なCO2排出量の
影響を色濃くうけるが、その影響が複雑で、簡単に記述できないだけである。
(複雑=無関係とはいえない)。むしろ、どのような関係にあるかを別の手立てで
考えなおすことが重要であり、無関係と決めつけるのは理が通らない。
そこで次回は別の方法で(もっと定量的に)、大気中のCO2増加における人為的影響
の割合を算出してみよう。つづきます。
-----------------------
ちなみに、これまでに17回の連載記事を書いていたよ!
(以下に目次としてまとめます)
Earth Egg by azrainman (protected by CC Licence)
・頭を冷やすのは誰か?
※地球温暖化問題での論点の整理
・地球は温暖化している
・二酸化炭素には温室効果がある
・地球には温室効果が不可欠だ
・資料:地球の放射平衡の計算式
※目には見えないが地球上には温室効果が働いている。
でなければ地球は凍えるほど寒い星になっているはず。
・南極も温暖化とのニュース
・気温が上がって二酸化炭素が増えたのではない
・この論文はリジェクトだ
・温暖化連載へのご質問
※「南極は温暖化していない」「気温が変化するので、CO2濃度が変化する」
「過去の大気候変動に比べれば温暖化なんて騒ぐことではない」
「シミュレーション結果なんてアテにならない」などの誤解への私なりのお返事
・太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
・再・太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
・宇宙線では寒冷化しない
※誤解が多いので何度も同じ事を書いています。短期でも長期でも、太陽活動では
温暖化は説明できませんし、いわゆるスベンスマルク効果(宇宙線による雲生成)
でも温暖化は説明できません。
・地球温暖化は自然現象なのか?
・1940~70年頃のプチ寒冷化の原因は?
※だんだん議論が細かくなりますが、温暖化が起きていること、それが
人為的要因である可能性があることをすこしずつ指摘。
・温暖化の原因はCO2ではない、その証拠?
※地球温暖化はCO2が原因なのか、それ以外の要因か?について
少し突っ込んで考えた(まだ途中。でも宇宙線が原因じゃあないよ)
・温暖化データにトリック?
・予測誤ったIPCC
※IPCCの信頼性に対する私なりの見解
地球温暖化論がホントかウソかを(感情論ではなく)、科学面からきちんと理解して
みましょう、であった。連載を通じて、私自身はある程度の知識が身についたし、
ここ数年は一般市民にも地球温暖化に関する認識が広がったので連載もお休み状態
であった。しかし去年くらいから再び「地球温暖化など無かった、まやかし」なんていう
人達が増えてきた。ならば温暖化連載も1年半以上ぶりに復活させねばなるまい。
手始めに「二酸化炭素(CO2)の増加が人間活動のせいか、自然の変動か?」について
改めて考えてみよう。これは以前の本連載で人間活動が原因である可能性が高い
ことを述べているが、疑い深い方がおられるようなのであらためて説明しよう。
まず人間活動によって放出されたCO2の量については次のような見積もりがある。
Peters et al., Rapid growth in CO2 emissions after the 2008–2009
global financial crisis, Nature Climate Change, 2, 2-4 (2012)
http://www.nature.com/nclimate/journal/v2/n1/abs/nclimate1332.html
※黒線が年毎のCO2排出量。原図に対して当方が数字(年)を加筆。
原文によれば人為的なCO2排出量は、化石燃料の燃焼量とセメント生産量から求められた
ようである。ご覧のように、人為的なCO2排出量には経済活動と間に密接な関係があり
例えば2008-2009年の世界金融危機の際にはCO2の年間の排出量が減っている。
同様に1974-75年、1980-83年、1992-93年、1998-99年にも減少が認められる。
(なお化石燃料消費量も上記の年には減少傾向である。参考:BP統計2012など)
この人為的なCO2排出量は、大気中のCO2濃度に影響を与えているのだろうか?
そこで次の図を見ていただきたい。
「Annual Mean Growth Rate for Mauna Loa, Hawaii」より
http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/#mlo_full
※丸印と年については当方が加筆
この図は「大気中のCO2濃度が前の年よりどれだけ増えたか」というグラフである。
前の年よりもCO2濃度が減った年(グラフの値がマイナスになる年)はなく、
CO2は増えっぱなしである。ただし、人為的なCO2排出量が少なめの年、
すなわち1974-75年、1980-83年、1992-93年、1998-99年、そして2009年には、
大気中のCO2増加分も少なめであることが見て取れる。
つまり「大気中のCO2の増加は、人為的なCO2排出と密接な関係がある」といえる。
----
ただし人為的なCO2排出と大気中のCO2増加の関係は単純ではない。例えば上記で
指摘した年以外にもCO2増加量が減っている年が見られる。また前述の人為的なCO2
排出量の減少はたかだが10%以下(前年比)であるが、大気中のCO2濃度の増加量変化
は数十%にも及んでいる。なぜか? ここで気象庁の資料にある言葉を借りよう。
●大気・海洋環境観測報告 第7号 2005年観測成果
http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report2005k.html
2.温室効果ガス > 2.1 二酸化炭素
(図 2.1.4 の解説文より引用)
”二酸化炭素を主体とする炭素循環は定量的に全て把握されているわけではない。
(中略)人間活動により排出された二酸化炭素が、そのまま大気中の濃度増加には
反映されていないことがわかる。(中略)排出された二酸化炭素が海洋や森林・土壌に
吸収・蓄積され続けているとともに、その吸収・蓄積量が年によって変わることを意味
している”
この複雑さをもってして、鬼の首を取ったかのように「人為的なCO2排出だけでは大気中の
CO2変動を説明できないではないか!? だからCO2増加は自然現象であり、人為的影響
など無関係なのだ」と主張する人達がいるようである。しかしそれは間違いだ。
上記の2つのグラフで、CO2増加が減っている時期がいくつか一致しているのは
偶然の産物とはいえまい。すなわち、大気中のCO2濃度は人為的なCO2排出量の
影響を色濃くうけるが、その影響が複雑で、簡単に記述できないだけである。
(複雑=無関係とはいえない)。むしろ、どのような関係にあるかを別の手立てで
考えなおすことが重要であり、無関係と決めつけるのは理が通らない。
そこで次回は別の方法で(もっと定量的に)、大気中のCO2増加における人為的影響
の割合を算出してみよう。つづきます。
-----------------------
ちなみに、これまでに17回の連載記事を書いていたよ!
(以下に目次としてまとめます)
Earth Egg by azrainman (protected by CC Licence)
・頭を冷やすのは誰か?
※地球温暖化問題での論点の整理
・地球は温暖化している
・二酸化炭素には温室効果がある
・地球には温室効果が不可欠だ
・資料:地球の放射平衡の計算式
※目には見えないが地球上には温室効果が働いている。
でなければ地球は凍えるほど寒い星になっているはず。
・南極も温暖化とのニュース
・気温が上がって二酸化炭素が増えたのではない
・この論文はリジェクトだ
・温暖化連載へのご質問
※「南極は温暖化していない」「気温が変化するので、CO2濃度が変化する」
「過去の大気候変動に比べれば温暖化なんて騒ぐことではない」
「シミュレーション結果なんてアテにならない」などの誤解への私なりのお返事
・太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
・再・太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない
・宇宙線では寒冷化しない
※誤解が多いので何度も同じ事を書いています。短期でも長期でも、太陽活動では
温暖化は説明できませんし、いわゆるスベンスマルク効果(宇宙線による雲生成)
でも温暖化は説明できません。
・地球温暖化は自然現象なのか?
・1940~70年頃のプチ寒冷化の原因は?
※だんだん議論が細かくなりますが、温暖化が起きていること、それが
人為的要因である可能性があることをすこしずつ指摘。
・温暖化の原因はCO2ではない、その証拠?
※地球温暖化はCO2が原因なのか、それ以外の要因か?について
少し突っ込んで考えた(まだ途中。でも宇宙線が原因じゃあないよ)
・温暖化データにトリック?
・予測誤ったIPCC
※IPCCの信頼性に対する私なりの見解
本記事を批判するトラックバックをichijinさんから頂きました。
ichijin.seesaa.net/article/391167724.html
以下のようにお返事いたします(『』は上記ページより引用)。
・「大気中のCO2の増加は、人為的なCO2排出と密接な関係がある」とは
言えないとのご批判ですが、上記記事では「その影響が複雑で、簡単に
記述できない」とすでに記述済みです。では具体的な様相はどうか?
については下記にまとめました。
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2014-03-13
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2014-05-23
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2014-05-24
・『実際の濃度増加は、排出量による濃度増加より少なくなっている上に、
人為起源による二酸化炭素排出量は年によってそれほど大きな変動はない』
とのご指摘ですが、それこそが自然のなせる技です。その具体的記述は
上記の拙ブログの通りであり、「複雑だから分からない」と批判するならば
それは稚拙と言えるでしょう。
・貴ブログでは『人為CO2排出量と自然のCO2排出・吸収量との規模感の
大きな違い』を示す図として、棒グラフを紹介されていますが、引用元
ではその大部分は、i)海洋との交換(Exchange from or to ocean)
及び、ii)全球の正味の基礎生産と呼吸(Global net primary production
and respiration)と記載されており、これらはCO2濃度上昇には直接は
寄与しません。貴殿の引用サイトでも次のように書かれています。
http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report2005/html/2_1_0_1.htm
"現在は、人為起源を含めた放出量のわずかな超過分が毎年大気中に
蓄積されて濃度を増加させ続けている"
・明確に書かれた内容を伏せつつ、自身の主張に都合よい部分のみを引用
する行為は科学の世界で嫌われる行為であることを知っておきましょう。
by MANTA (2014-06-29 09:08)
温暖化問題は深刻で待ったなしの状況という人もいれば、温暖化問題は単なる利権でカルト的妄想という人もいる。正解は未来にある?人間の独善的で傲慢な態度が環境問題、地球温暖化問題を引き起こしているのか。
by 正解は未来にある? (2017-06-05 12:47)
コメント、ありがとうございます。
>温暖化問題は深刻で待ったなしの状況という人もいれば…
そうですね、深刻ではないという意見も多いと思います。
現状の理解と未来予測は別の話ですから、まずは現状理解が重要です。
でも理解に時間がかかりすぎて手遅れになったら?
そこが難しいところなのです。
>正解は未来にある?
未来にあるのは、いまの私達の行動の結果だけでしょう。
私達の行動に正解はあるのか? どうすれば正解にたどり着けるのか?
あるいは正解など、時代時代で変わるのだから、考えるだけ無駄なのか?
科学と、科学をベースにした未来予測の「融合」が必要なのだと
思いますが、こりゃ、むずかしいわー
by MANTA (2017-06-08 19:53)