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東北地方太平洋沖地震を予知できたか? [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

連載「電磁気で地震予知」の続き、今回はこの巨大地震発生の予知について考える。

※ネット検索をしてみると、どこのブログが予知に成功しただとか、霊能者やアイドルが
 予知に成功しただのあるけれど、それらについてはこちらを見てほしい。
 ・富山で地震は起きません:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2007-09-12
 ・続・最新科学で地震予知は可能か?:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2009-04-09
 ・未科学的地震予知:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2009-05-07
 ・宏観異常では地震予知はできない:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2009-09-08
ここでは至極、まじめに科学的に考える。

地震予知の科学

地震予知の科学

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本


巷ではこんな疑問があるようだ。”今回の地震は実は予知できていたのでは?”
前回、この地震に関わる科学的な謎について述べたので、私の答えは明白である。
    「予知はできなかった」
科学者にとって、今回の地震そのものが従来の仮説に大きな謎を問いかけてきて
いる。予知なんてできるはずがない。M9.0という超巨大地震に対してあまりにも
無力で、日本の地震予知科学は大きな敗北を喫したと言える。連戦連敗でもある。

こんな声もある。
「今回の超巨大地震には、前触れの地震があったんじゃあないの?」
http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/info/topics/20110311_news/
その通りだ。上記は東北大学のサイトである(彼らも被災したが、情報を更新し続けている!)。
ここの中段に「本震と2011年3月9日の地震の余震域との位置関係」とあり、2011年3月11日
15時01分までの東北地方の震源分布が示されている(ちなみに本震発生は14時46分頃。
きっとこの時刻までは電源が生きていたのだろう)。ここには次のように記されている。
”2011年3月11日の地震は,同年3月9日のM7.3の地震の余震域の南東から破壊が
 はじまったと考えられます。”

本震2日前に大きめの地震が起きていたのだから、なんか分かりそうなものだろう。
気象庁も本震発生後すぐに前震ではないか?と発表している。
●「9日の地震が前震?」 気象庁会見詳報
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110311-00000745-san-soci

これをもって「気象庁は前震を捉えておきながら、超巨大地震を見落としたのではないか」
とする意見もあるが、それは少々手厳しすぎるであろう。なぜなら上記の東北大学のサイトの
「2011年3月9日三陸沖の地震(M7.3)の震源断層と東北地方太平洋沖地震の震央の関係」
に示されているように、3月9日の前震とされる地震はあるアスペリティー1つがすべって発生
したに過ぎないからだ。一方、3月11日の超巨大地震の本震時には、3月9日とは別の
アスペリティーが複数個ほぼ同時にすべって被害を大きくした。つまり前震と本震が何がどう
違うかは、前回述べた「この地震の謎」と根が同じである。3/9の地震が、前震とは判断する
ことは「なかなか困難であったと思われる」というコメントは下記資料にも見受けられる。
●東北地方太平洋沖地震について(速報)(防災科技研)
 http://www.bosai.go.jp/news/oshirase/20110323_01.pdf

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それでは地震予知に関する希望の光はないのだろうか? あながちそうとも言えない。

1) 海底での地殻変動観測の結果に注目したい。
 
 海上保安庁より。詳細はこちら:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2009-06-12

 すでにこの連載で紹介した成果だが、海上保安庁は太平洋プレートの沈み込みに伴って、
 宮城沖の海底も毎年6.5cmずつ陸側へ押し込まれる様子を検知している。私自身、当時
 のブログ記事に「今後の動向に注意が必要です」と書いていた。その後の調査結果は
 どうだったのだろうか?例えば今回の地震発生の数カ月前には、陸側への押し込まれは
 止まっていたのだろうか? 海底地殻変動は近年始まったばかりだが、大きな成果を
 上げた可能性が高い。なお現段階では、調査船が現地に行かないと調査できないので、
 陸上からリアルタイムに日々の海底地殻変動を知る、というわけには行かない。
 今回の調査結果次第では、このあたりも大きく改善されるかもしれない。

2)巨大地震に先立つ微小な現象に注目したい(その1)
 西南日本においては、巨大地震とゆっくりすべりの関係に注目が集まっている。
 ・旅する「ゆっくり地震」:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-09
 ・巨大地震とゆっくり地震:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-11
 ・ゆっくりすべり:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2008-02-10
 
 これらは巨大地震の起きる場所(アスペリティー)の周辺の微弱な変化ではあるが、
 それを利用して巨大地震の発生を予測できないか、と期待されている。
 
 東北日本では、西南日本のようなゆっくりすべりはあまり見つかっていないが、そのかわり
 「相似地震」と呼ばれる特異な地震が見つかっている。
 ・相似地震によるプレート運動モニタリング(防災科技研)
  http://www.hinet.bosai.go.jp/research_result/souji_monitoring/
 ・地震予知は成功している
  http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2008-06-18-1
 「相似地震」は非常に規則正しく起きることが知られている。逆に、この規則正しさが
 変化することがあれば、それは地下の力のかかり方が変わったことを示すかもしれず、
 巨大地震発生の前触れとなるかもしれない。

3)巨大地震に先立つ微小な現象に注目したい(その2)
 2005年に、地震の発生と地球潮汐(潮の満ち引き、じゃなくて月や太陽の引力による
 地球の岩盤部分の周期的な変形)に関連性があることが指摘された。
 ・月や太陽の引力が作り出す地球潮汐と地震の発生との関連を調べ、
  将来的な地震予知を目指す(Natureダイジェスト)
  http://www.nature.com/ndigest/journal/v2/n4/pdf/ndigest.2005.050428.pdf
  tide.jpg
  図:地球潮汐による力が断層の滑りを助ける方向に最も強く働く時刻(▲)前後に
   地震は多発する傾向が見られる。上記Natureダイジェストより。

 これもある種の規則性で、本来は大した力のない地球潮汐だが、ある確率で地震が
 起きやすくなる。地下の力のかかり方が変化すれば、この発生確率も変化する可能性
 があり、そうすると微小な地震発生確率から、巨大地震の発生確率を予測できるように
 なるかもしれない。

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海底地殻変動や微弱な地震現象は観測も大変で、非常に間接的である。しかし巨大地震
発生域内部の力のかかり方を直接知る方法がない今、間接的な方法に活路を見出すべき
だろう。現在、今回の地震発生予測に資する科学成果があったかなかったか、関連する
科学者は検証の真っ最中であろう。

今回の超巨大地震は未曾有の被害を東日本へもたらした。しかしスマトラ地震やチリ地震
とは違って、世界一の地震・地殻変動観測網を持つ日本で発生した巨大地震である。
むしろこれを「チャンス」と捉えて、我が国の科学力が、超巨大地震発生の謎を解き明かす
日が近くなったと信じたい。

次回は、私見ではあるが「今回の地震がもたらす今後」について考えたい。
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コメント 6

竜

お久しぶりです。

「世界一の地震・地殻変動観測網を持つ日本で発生した巨大地震」

まったく同感です。津波教育が功を奏して小中学生のほとんどが助かった大船渡の記事や、陸前高田で医療支援を行った看護師さんのブログを読んで涙腺を熱くする一方で、膨大なデータを今後に役立てることは必須と私も考えます。

にしても、震源域からそこそこ距離のある私が住む街(茨城県東部)でも70cmにも及ぶ水平地殻変動(職場のGPSデータ解析による)があるなんて、どれだけ大きいのかと驚嘆しています。

そう言えば、地震当日私も東京に出張中で、発生時は霞ヶ関の合同庁舎の地下にいました。振幅の大きいS波を感じても壁にへばりついていただけ。警備員さんの声で我に返って急いで地上に上がり、とにかくガラスの落下だけは避けようとビルから離れて上の方ばかり見ていた状況。結局、翌日途中の駅まで復旧したJRで帰宅しましたが、常に持ち歩いている携帯ラジオと携帯電話の予備バッテリには大分助けられ、夜も何とかカプセルホテルを確保できたのも幸運でした。

by 竜 (2011-03-31 02:13) 

MANTA

お返事が遅くなりました > 竜さん

>私が住む街(茨城県東部)でも70cmにも及ぶ水平地殻変動(職場のGPS
>データ解析による)があるなんて、どれだけ大きいのかと驚嘆しています。
机一つ分くらい移動したわけですね。凄いですね。

>常に持ち歩いている携帯ラジオと携帯電話の予備バッテリには大分助け
>られ夜も何とかカプセルホテルを確保できたのも幸運でした。
ラジオは必携ですね。私もかつてラジオ付きの携帯を持っていましたが機種
変更してしまい、今回はワンセグ。でも都内とはいえビルの谷間だとワンセグ
は入りませんね。ホテルに泊まれたのはよかったですね。私も予約をしよう
としましたが、一緒にいた人数分を予約できず、断念。でも、それはそれで
皆んなで夜明かしできたのも安心でよかったように思います。
なんにせよ、安心って大事ですね。
by MANTA (2011-04-04 08:53) 

LH2

大変詳しく説明していただき、ありがとうございます。引っ越しでネットが繋がらず、携帯からなのでコメントが遅れました。
それこそ100年後位には、プレートを人工的にスロースリップさせられるようになればいいですね。
by LH2 (2011-04-07 07:07) 

MANTA

LH2さん、コメントありがとうございます。
>それこそ100年後位には、プレートを人工的にスロースリップさせられるよう
>になればいいですね。
井戸から高圧の水を注入して、人工的に断層をすべらせることはできるかも
しれません。下記が一例です。
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2007-07-25
現実に実験するのは難しいですが、数値シミュレーションで検討するくらい
はできるかも。どれくらいの間隔で、どれくらいの深さの井戸があればよいか
考えてみると面白いですね。
by MANTA (2011-04-07 07:59) 

そうとうさ!!

静岡富士宮の地震は東海地震ではない(わからない)とのことでしたが、地震が起こったときはぞっとしました。今回の地震は茨城沖のフィリピン海プレートで止まっているということですが、少なからず刺激は受けているはずなのでちょっと心配です。原発くんと東海地震に備えてさっさと西に逃げたほうがいいのかなとちょっと思ってきました。

太平洋プレートの海嶺の発生も含めた移動速度の変化とか、太平洋の海水温とかも関係あるんですかね?

by そうとうさ!! (2011-04-07 09:53) 

MANTA

富士山の地震は驚きましたね。富士山が噴火したら、首都圏にも大量の火山灰
が振りますから、これまた大変です。やっぱり首都機能移転?分散?

>太平洋プレートの海嶺の発生も含めた移動速度の変化とか、太平洋の
>海水温とかも関係あるんですかね?
海嶺については、そういう話はあります。地球スケールで海底の変形を調査で
きる日が来ればきっとそのような遠いけど密接な関係が明らかになるでしょう。
海水温はどうかなぁ? 水温が変わっても海水全体の重さは変わらないから、
地殻に掛かる力は変わらないとは思いますが、ほかの影響もあるかなぁ。
by MANTA (2011-04-10 08:23) 

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