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電磁気で地震予知 ~続・最新科学で地震予知は可能か? (10) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

さて前回の続きである(ちっとも早めの更新でないが)。

地震予知がちっとも現実化しないのはなぜだろうか?
たとえば、前回の記事に書いたが、国はスロースリップ(ゆっくりすべり)の調査に
重点的に取り組むし、掘削船「ちきゅう」が海底下のプレート境界断層のサンプルを
持ち帰るのもそう遠い話ではない。もうそろそろ地震予知ができてもよいのでは?

ここで改めて「科学」の骨組みを考えてみよう。
科学というと、「実験して→発見!」あるいは「調査して→発見!」という印象が
強いかもしれないがそう単純ではない。実は下図のようであろう。
graph1.jpg

ある現象(たとえば地震発生)に関しては、1)野外観測を行うだけでなく、
2)物理・化学的な理論や、3)室内実験・岩石実験(最近ではコンピュータを用いた
シミュレーション=数値実験も含まれる)などが互いに連携(オーバーラップ)
しなければ科学は進化できない。あたかも立法・行政・司法の三権分立のようであり、
どれか一つが単独で働いたり突出したりはしない。

ところで上図は「理想」である。地震予知科学についての「現状」はどうであろうか?
graph2.jpg
実はこんな感じである。
3つの柱(観測・理論・実験)がまだ個々に独立している。従ってたとえば観測で得られた
情報を理論で検証することはまだまだ難しいといえよう。あるいは地下深部から採取した
岩石を実験したとしても、野外観測の事実を説明するにはまだまだ不十分だ。
この図は少し極端かもしれないが、しかし遠からずだと私は思っている。

「おいおい、そんなことではいつになっても地震予知はできないじゃないか?」
そうかもしれない。しかしそれでもここ10年の進歩はめざましく、やっとこさ3つの柱が
互いに接する程度にはなってきたと私は思っている。今後も、少しずつでもこの柱を
太くしていくことが大事であり、前述の「スロースリップ」や「ちきゅうでの掘削」は
確実に柱を太くする方向へ進んでいる。むしろこれからが地震予知科学としてはもっとも
魅力的なステージ=3つの柱の統合へと向かうだろう。

「なにを言っているんだ、そんなことよりも少しでも可能性のあるもので地震予知を
すべきじゃないのか?」 そんな声も聞こえる(例:こちらのコメント)。
つい先日も、ある学者がラドンの測定に基づいて、イタリアでの地震発生の1週間前に
警報を出していたことがニュースになっていた。
●<イタリア地震>現地学者「来る」予知 市が自粛求める
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090407-00000039-mai-int
上記Yahoo!ニュースでは「科学的研究体制が整っていなければ、直前の地震予知は
難しい」と結んではいるが、一方でこのような科学的に未解明な現象(※)を用いた、
「未科学的地震予知」は人々(特に日本人)の大きな関心を呼ぶ。

専門家と一般市民の、地震予知におけるこの「温度差」はどこに起因するのか?
どうも「科学」と「未科学」の区別を多くの人が意識していないことに端を発する
ようだ。科学者はある発見(例:猫が変な鳴き声を出した翌日に地震が起きた)に
対して、その反例(例:猫が鳴いても地震が起きない)があるかどうかを調べて、
反する例が1つでもあればその科学的発見には誤りがあると考える。
ところが一般市民は、1つでも新発見があるだけで「科学的だ」と考えがちだ。
特に希望的観測に沿う結果に大きな期待をよせる傾向がある。

わかりやすい例はダイエットだ。バナナを食べ続けると痩せるといってもその効果は
人により異なる。しかし少しでも痩せられる可能性があるのならば、その発見を無視
してはならないといった意思が働くようである。実のところ、ダイエット食品のCM
では画面端に小さい文字で「ダイエットの効果は個人の感想です。効果を保証する
ものではありません」と書かれている。これが未科学の特徴である。
あたるもはっけ、あたらぬもはっけ、ということだ。

例えば、未科学的な地震予知を国が認めたとしよう。そしてある日、このような
表記の地震予知情報が来る。さて、あなたはそれを信じますか?
「予知の効果は個人の感想です。予知成功を保証するものではありません」
真に科学的な地震予知とは、反例に耐えうるものであり、厳しい条件下で検証がされる
べきだ。そして生き残った発見にこそ、我々が安全・安心に生活できる方策がある。
あなたは安易な未科学的地震予知を奨励しますか?それとも孫の世代になってもまだ
完成しないかもしれないが、着実に探究を進める科学的地震予知に一票を投じますか?

----
次回は上記に示した、イタリアでの地震予知に成功したらしい「ラドン測定」について
”未科学的”地震予知の例としてあらためて取り上げてみよう。

※一般には、「宏観異常現象」と呼ばれている。
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HMS

 理学的には同意できるのですが、工学ではそこまで問題とはしないです。「まずやってみよ、取説読むのは最後でよい」と。

>そんなことよりも少しでも可能性のあるもので地震予知をすべきじゃないのか? 

 
 現象の可視化からスタートして、分かる範囲の途中条件及び最終条件に基づくリバースエンジニアリング、現象の数値シミュレーションで言えば最初期のそれでは最終条件(長さ、容積、形状など)が合うように初期条件を変えることで、最終条件が合っていれば途中も概ね合っているんじゃ?という感じから、

 初期条件をもっと精密化(数値モデルと共通化した検証用実験モデル及びそれを用いた実験等の開発)→初期条件のパラメトリックスタディ(現象感度分析)→現実と合わない部分の定量化→初期条件の更なる精密化→(以下初期条件のパラメトリックスタディへループ)という感じで、少なくとも理詰めベースではぺんぺん草一本生やす余地のない大規模なマイニングを実施するのが普通で、だからこそ何かトラブルが起こったとしても実装と理論との違いを考えるだけで済み、非常に効率的、効果的に研究が進む。

 ・・・こんな感じで陸の研究は進んでいると考えてよろしいでしょうか? 


 これがお空やお船になると全く違います。エア&マリンシステムの数値シミュレーションというのは、紙面上(=仕様書)の設計値が正しい事を検証するためのものであり、究極的には設定された最大荷重に仕様書通りに耐えるかどうかを検証できればそれで万事OKな感じ。大規模なマイニングを行ってはないです(私の知る限りでは)。航空機や船舶全体となると部品点数も膨大だし、発生要素も膨大で、陸並みにマイニングするとコストと時間が掛かりまくるのでラフなマイニングしかできない、もしくはそんなことすらできない(予算的に)んだけれども、要素レベルなら別に高いソフト使わなくてもやれるでしょ?って気がするのだけれども、現実はといえばあまりやってません。問題が出てからシミュレーションして、実はこうでしたという報告書を出すことが普通。当然ながら「実験計画法って何さ?」という話になることもしばしばです。

 「メカニズムの解明」よりも「因果関係の立証」に重点が置かれていますから・・・
by HMS (2009-04-11 22:01) 

MANTA

>理学的には同意できるのですが、工学ではそこまで問題とはしないです。
HMSさん、個人でおやりになる分には私は止めません。ただし国として
それを推進することには私は反対です。

>初期条件をもっと精密化
これが実は一番難しい。どこを初期とするか?内陸地震の場合は再来
周期は1000年程度。とすれば1000年前の初期状態をどうやって知るか?
いや、もうひとつ前の地震の影響が残っているとすれば、2000年前を
初期状態とすべきか?それすらはっきりしていないと言えるでしょう。

>究極的には設定された最大荷重に仕様書通りに耐えるかどうかを検証
>できればそれで万事OKな感じ
多くの実験を比較的短時間でこなせるのであればそれでよいでしょう。
地震発生の場合は、1か所で数回の地震を待つのに数百年かかりますので
そのやり方では駄目でしょう。そういう意味では地震予知は工学足り得ない
のかもしれませんね。

by MANTA (2009-04-12 00:47) 

HMS

 研究機関が現業機関の領域も手がけるから、話がややこしくなるのだろうと思いますが・・・

>国としてそれを推進することには私は反対です。

 同じ無線屋としては早川先生のそれには期待を抱いていますので、「出来るんだったら成功して欲しい」とは正直思っています。ただ、これだけ余力のない状態で優先度の高い研究か?と問われると「・・・」にはなりますが。
 http://seismo.ee.uec.ac.jp/

 上記に関連して下記のFRA-JCOPEの方が私には疑問です。
 http://ben.nrifs.affrc.go.jp/

 私には研究機関のJAMと現業機関(研究もありますけど、任務としては現業要素が強いです)のFRAが組んでもデータに対する考え方の違いやタイムスケールの違い(JCOPEは50-100年単位でしょうが、FRAは上見て30年です。)で「成果」の中身というか評価基準が異なると思うのですが。
(元となる水産データはほとんど各県の水産試験場からの提供ですので)

>初期条件をもっと精密化

 仰るとおりですが、上記の水産にせよ、観測にせよ、程度の差こそあれ、同様の問題には行き当たっているはずで、どこかで折り合いつけて、世に問うて、評価を受けて、また精度向上に勤しんでいるのが現状ではないかと。


>多くの実験を比較的短時間でこなせるのであればそれでよいでしょう。

 いや。最近はコスト削減で「水槽使っての模型実験」もおいそれと出来なくなりつつあるので、「このあたりで・・・」と折り合いつけてしまってます。言うなれば「多くの実験を比較的短時間でこなさなくてはいけない」というところです。ここが現業機関の悲しいところで、ほぼ無敵の「客」なる存在が居ますので・・・

>そういう意味では地震予知は工学足り得ないのかもしれませんね。

 はい、そのように早川さんの手伝いをしていたときには思いました。
by HMS (2009-04-12 08:40) 

Hirosuke

うーむ、難しい。
理想と現実。
どこにもある問題ではあるけれど。
うーむ・・・。
by Hirosuke (2009-04-12 19:55) 

MANTA

>研究機関が現業機関の領域も手がけるから、話がややこしくなるのだろう
>と思いますが・・・
HMSさん、ご指摘の通りだと思います。科学的には不完全な地震予知手法
に基づいて、国家として東海地震の予知体制を法制化している姿は奇異です。
これも「ある地域を限定すると巨大地震は稀にしか起きない」からこそ維持
できているのでしょう。

>最近はコスト削減で「水槽使っての模型実験」もおいそれと出来なくなり
>つつあるので、「このあたりで・・・」と折り合いつけてしまってます。
それでも実験ができる世界(水産)と、1回の実験に研究者生涯をかける
世界(地震予知)の違いは大きいです(折り合いをつけられるだけマシ)
だからこそ、現象論的な地震予知にこだわりすぎることを私は危惧します。
by MANTA (2009-04-15 18:38) 

MANTA

>うーむ、難しい。
>理想と現実。
>どこにもある問題ではあるけれど。
Hirosukeさん、誤解を恐れずに言えば、そんな局面だからこそ科学的
アプローチが重要なのでは?と思います。
あたるもはっけ、を現実とは呼べないと私は思うのです。
by MANTA (2009-04-15 18:39) 

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