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査読とは(7) ~著者~ [ 連載 Old..]

さてここまで査読者・編集者の立場で査読を述べてきたが、ここで著者のことを振り返ろう。著者は、査読者の心得(第4回第5回)のところで述べた査読の軸となる5つのポイントを意識して論文作成をするべきだ。中でも「論旨の一貫性」と「完成度」を達成できていない原稿が見受けられる。ある程度の完成度でとりあえず投稿してみて査読者の判断をあおごうという著者もおられるようだが、査読者が原稿内容を一度誤解してしまうと話がこじれてしまう。やはり著者自身が納得いくまで推敲していただいてから、論文投稿いただきたい。

投稿後、査読結果は学会誌によるが大体2~3ヶ月もあれば帰ってくる。査読後の評価がよくないと、たいていの著者は憤慨する。論文として投稿するからには、著者なりに内容には自信があったのに、なにやら自身の「作品」にケチをつけられている気がするものだ。しかし思い出してほしい。査読者は第3回で書いたように、たいてい無給や薄給で査読を引き受けている。査読は研究業績にもならない(匿名査読者ならば査読したことすら他人に明かせない)。査読者は、著者が新しい研究成果を世に出す手助けをしたい、著者とともによりよい学会誌を作りたいというボランティアであり、協力者なのだ(のはずですが時たまそれを忘れているように思える査読者もいたりして…)。けっしてケチをつけているわけではない。

著者は査読結果に対して感情的にならず、まず冷静に査読結果に対処すべきである。学会誌によっては再々査読(3度目の査読)を行わないことがある。著者が詭弁を繰り返し、査読者の意見と相容れない場合は「受理」か「掲載不可」の二者択一まで縺れ込む。ちょっとした意見の食い違いが原因とはいえ、結果として掲載不可の判定をうけた原稿は、内容を相当修正しないと同じ学会誌に投稿しても編集委員会が受け付けないだろう。また査読過程を最初から受けなおすことになり、余計時間がかかる。査読者の指摘への対応には(特に再査読後には)十分注意を払うべきである。だからといって、著者は査読者の主張をすべて受け入れる必要はない。査読者や編集者が著者の主張を誤解をしている場合もあるのだ。修正要請のどれを受け入れてどれを受け入れないかを冷静に考えることが必要だ。また査読者の査読結果があまりにも理不尽であれば、編集委員会に相談することをお奨めする。著者なりのきちんとした根拠が添えられてあれば、編集委員会は聞き入れてくれるはずである。

原稿の修正が終わったら、著者はどこをどう修正したか、その概略を別紙にまとめて修正原稿に付け加えるべきである。学会誌によってはそういう規定がないかもしれないが、そのような「修正リスト」は査読者に嫌がられるはずはない。むしろ好印象を与える上に、査読のスピードも速くなる。なお査読者が2名いれば、査読者ごとに修正リストを作ったほうがよい。査読者Aの指摘に対する修正点を査読者Bに明示すると、査読者Bはその修正に対する疑問や新たな修正を言い出すかもしれない。修正原稿を読めば分かることなので、査読者へ言わずもがなの返答をすることはない。

論文が掲載されて初めて一人前の研究者と言われるが、実は査読者とのやり取り(主義主張での戦い合い)こそが研究者への道なのである。けしてケンカ腰でのぞまず、どういった論理で相手を納得させるか、冷静に戦略戦術を練ってみると案外おもしろいものだ。といいつつ私自身も著者のときは、査読者には「あまりかみつかないで下さい…」と祈ること毎回である。なお論文投稿から学会誌掲載までは一般には約1~2年かかる。ただしこのうちの査読期間は数ヶ月程度、原稿受理から会誌印刷までは数ヶ月、一番長くかかるのは著者の修正期間である。原稿修正は大変なのである。

つづく。次回で最終回。

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おさけ

こんにちは、久しぶりにお邪魔させて頂きました。

修正点や追加点を別紙にまとめた方が見る側も分かりやすくて良いですね。博士論文の本審査が、予備審査からの変更点・追加点を中心に話すことから考えても、納得がいきます。

査読に自分の論文を引用するように押し込んでる人も居たりしますけど(苦笑)
ボスが時々ぼやいたりするのを見るとReviewerの仕事は大変なんだろうなぁと思ってしまいます。

そろそろ私も論文を書き出さないと・・・・。
by おさけ (2006-02-08 00:48) 

MANTA

こんばんわ、お久しぶりです > wht-flagさん
自分の論文を引用するようにいう査読者、いますよー(笑)
あと、著者達自身の論文をやたら引用する研究グループもいます。
最近は研究評価時に、論文数だけでなく論文の引用数(Citation Index)にも重きをおく傾向がありますが、単純なCitation Index崇拝は「お手盛りReference」が増えるのではないかと危惧してます。

ほら、いまWEBサイトのインパクトは、アクセス数というよりアクセス解析で評価するじゃないですか。あれとおなじで、どう引用されているかがいずれ重要なファクターになると思っています。きっとGoogleが行っている「ランキング」みたいなアルゴリズムが必要なのでしょう。

というわけで、論文作成、がんばってください(どういう締め方だ)。私もがんばらなきゃ。っていうか、論文作成は最近では一番楽しい仕事になってます(雑用が余りにも多い反動です)。
by MANTA (2006-02-08 05:53) 

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