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補足:出題ミスはなぜおきた? [▼科学ニュース New!]

前回の記事「わかりやすく解説:大阪大学の出題ミス」には多くのコメントや
ご質問を頂戴しました。ありがとうございます。コメント欄でも返答させて
頂きましたが、補足と共に下記にまとめました。前記事とあわせて御覧ください。

1)なぜ今回、出題ミスが発覚したのでしょう?

ご存じない方も多いようですが、各大学が独自に入学者に課している個別学力検査
(いわゆる入試問題)の解答例は、大学側からは公開されない場合が多いです。
大阪大学も解答例を示していませんでした。ではなぜミスが発覚したのでしょう?
今回問題となった「問4」という問題には、「問5」という続きがありました。
→ http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/06_01
問5では、問4で求めた式に具体的な数値を代入しつつ、ある値を答えるのですが、
その過程でありえないことがおきました。前回の記事に書きましたが、
問4で、一般的に正解と思われる数式は 2d=nλ or 2d=(n-1)λ(n=1,2,3…)です。
問5の値をこの式に代入したら、式の一部に含まれるnの値が1,2,3,…などから
大幅に異なってしまうのです。ということは、問4になにか間違いがあると推測が
可能ですね。これが事の発端です。

2)問5は全員正解となりましたが、これは問題では?
たしかに、不正解の受験生にも加点されるわけですから、正しく答えた受験生は
大損です。しかし、問5ではすでにありえない状況がおきています(n=1,2,3…に
ならない)。問題として成立していないため、問5はなかったことになり、
全員正解扱いとなったのでしょう。ちなみに問5は出題ミスですが、問4は採点ミス
だそうです(問4は成立しているが、答えが複数あった)。ややこしい。

3)京都大学の入試問題にも似た出題がありますが、これもミスでは?

 ※写真はこちら(http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2013-04-20
実は2017年の京大入試にも、類似の問題があったそうです。
→速報 大阪大学 2017 物理 入試ミスに関する提言
 http://p.booklog.jp/book/119494
京都大学 前期日程 物理 Ⅲ カッコ「せ」
予備校による模範解答は、予備校毎に異なっており、阪大の出題ミスのケースと
似ています。ではこれも出題ミスなのでしょうか?
私なりのお答えは「出題・採点ミスについては分からない」です。
・京都大学も入試問題の解答例を示してはいない。
・このカッコ「せ」の後には、続く問いはなく、他問への波及はないため、
 大阪大学のケースと異なり、検証は不可。
・大学関係者であっても、入試の解答例は入手できない
ただし、問題文では「壁では固定端反射」と明示されています。この点は大阪大学の
場合と異なります。高校物理の内容とも合致していおり、音波そのものも高校で習う
変位の波(前記事の図1)としていれば、出題ミスはないでしょう。
また採点ミスについては判断できません(やりようがない)。入試の成績については
受験生は情報開示請求ができるようですので、成績を取り寄せて自己採点結果と比較
すると分かるかもしれません。

4)大阪大学はなぜ出題ミスを見逃したのか?
下記記事によれば、入試問題をある一人の先生が作ったわけではないようです。
●阪大入試ミス 問題作成に過信はなかったか
 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180110-OYT1T50003.html
 (以下引用)
 "理学部の教授ら10人が入試問題を作成"
 "4月から、十数回の検討を重ねて問題を作り、数段階のチェックも経た”
問題作成後、複数の教授らが自ら解いて、問題の整合性のチェックもしたはずです。
なのに、なぜ誰もこんな簡単なミスに気づかなかったか? まじめにチェックして
いなかったか、チェックしたけれども誰かの思い込みで間違った問題のまま世に
出てしまったか。いずれにせよ、なんという失態でしょうか。
しかし関係者はけっして語ることはありません。入試問題作成者は秘密中の秘密
だからです。そしてこれは今後もずっとです。大学の隠匿体質? とんでもない、
これが入試なのです。ただし、解答例はもっと開示したほうが良いでしょう。
ちなみに大学院の入試では、情報開示請求に従って、解答用紙を受験生に開示する
大学院もあります。また院試の解答例が開示されるケースもみられつつあります。

5)大阪大学の「当初の解答例」はどのような状況であれば正解になるのか?
前記事に書きましたが、阪大が初めから正解としていた式「2d=(n-1/2)λ」
(n=1,2,3…)が成立する条件はなんだったのでしょう?
1)疎密で考える場合:音波は一般に壁で自由端反射するが、
 固定端反射すれば成立(壁での反射条件は設定されていない)→前記事で解説
2)変位で考える場合:音波は壁で固定端反射するが、
 自由端反射すれば成立(壁での反射条件は設定されていない)→これは解説省略
3)音叉での音の発生パターンが下図のようであれば成立(これは一般に
 音叉ではなく膜での音発生だが、詳細な条件は設定されていない…?)
図.jpg
設問に不備があれば、複数の解答のいずれもが正解になる例は、これまでにも
ありましたが、はっきりいって1~3のいずれの条件にも無理がありますね。

以上、コメント欄へのお返事と重なりますが、補足とさせて頂きます。
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Ryuji

阪大の解説では、音叉の振動モードを持ち出して、苦しい説明をしています。音叉の一番大きい振動は、基本波で、これは逆相振動です。同相振動は、高次のモードで、振幅はかなり小さくなります。この問題は、音が強くなる位置を問うているので、基本波で逆相振動以外には有り得ません。したがって阪大が当初想定していた答は間違いです。問5では、壁の音響インピーダンスが指定されていないので、反射の際に任意の位相シフトがあり得るので、3.3 x 10^2m/sと矛盾なく答えが出ます。また、問5から音叉の振動モードを推定することは出来ません。ただ、問4で完全固定端を想定しておきながら、問5で断りなく任意の壁にするのは、少々苦しいのですが、それでも阪大の解説にある正答を導く論理よりはぜんぜんマシです。
by Ryuji (2018-01-13 09:54) 

MANTA

Ryujiさん、解説ありがとうございます。

>阪大の解説では、音叉の振動モードを持ち出して、苦しい説明をして
>います。
これってどこに書かれてましたでしょうか?

by MANTA (2018-01-13 12:53) 

morikana@香菜子

一生懸命勉強してきた若者の努力を台無しにして、人生を狂わせた人たち。
それがたったこの程度の給料返上で済ませようだなんて。厚顔無恥の鉄面皮。
反省しているとはとても思えません。傍若無人な振る舞いには呆れるばかり。
by morikana@香菜子 (2018-01-14 08:31) 

Ryuji

リンクを見て下さい。3つ目のリンクが、解説です。

その中で、米音響学会の論文が参照されています。その論文では、振動モードの周波数やスペクトル強度の関係などが示されています。どうみても、基本波が一番つよくて、阪大の解説のいう逆相振動です。振動数500Hzと、周波数が一つしか記述されていない点でも、基本波しか想定されていないことがわかります。また、別のスレッドで他の方がいっていた、「点音源と見なせる」という点からも、阪大の解説がいう逆相振動が想定されていることがわかります。

どの角度からみても、阪大の当初の正解は誤りだと言えます。
by Ryuji (2018-01-14 09:41) 

MANTA

morikana@香菜子さん、私に言われても困りますが、、、
入試が適正であることはもちろん必要です。一方でこれが大学に与える
負担は実に大きい。まあ選ぶ側としては努力を怠らないのが当たり前
ではありますが、通常入試以外の多様な入試制度が当たり前となった
昨今、試験問題が互いに重複しないことが求められます。しかし早めに
実施される入試Aでの問題は、日程があとの入試Bでは分かりません。
もしも入試Aと入試Bと問題が重なったら? 入試B側では問題を変え
ないといけません。このため、予備問題も作成します。しかも過去の
問題と似た問題を出題すると、これも出題ミスと言われる場合があり
ます(→参考:大学入試での過去問題の利用)。
 http://www.keinet.ne.jp/gl/07/0405/kyoing0704.pdf

また現在のセンター試験が新たな形に変わるという話はご存知でしょう
か? あれ、大学への負担は減らず、増すと言われています。普通の
資格試験化して大学の手から離れるのかと思いきや、やっぱり大学で
実施するそうです。年間複数回?記述問題もある?
このような負担増と今回の出題ミスは無関係といえるでしょうか?

以上は大学側の言い訳です。
出題ミスがあり、それが約1年後に発表されるなどあってはなりません。
もっとも単純かつ効果的な対策は、入試終了後に解答例を提示する
などして、公平と情報公開を保つことでしょう。

by MANTA (2018-01-14 19:58) 

MANTA


Ryujiさん、ありがとうございます。資料が追加されたのですね。
●理科問題(物理) 〔3〕Aの解説(1月12日追記)
 http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/12_01

なるほど、そういうことですか。まあそうかもしれませんが、、、
腑に落ちませんね。追加資料のうち、「本来の正解」とされていたもの
が3番目に紹介されているあたりで「察せ」ということかしら、、、
っていうか、なぜ1/6から6日も遅れての追記なのか、、、
阪大、苦しいですね。
by MANTA (2018-01-14 21:23) 

ヤマピー

先日のセンター試験でも、大阪大の教授は試験監督中に居眠りとイビキで、72人の受験生に迷惑をかけたらしいですよ。

試験官のイビキで試験に集中できなかったとしても、再試験は行われないそうです。

せっかく出題ミスの検証ができる体制ができても・・・

出題ミスといえば、秋のケアマネ試験で同じような事が有りました。
明らかに答えが3つなんですけど、2つ選べで・・・。

問題を作成している試験センターに問い合わせると、「六法を勉強しましたか?六法をすべて勉強してから電話をかけて下さい。」と一蹴されました。

ケアマネ試験にも「検証できる体制を」改善を求めたいです。


by ヤマピー (2018-01-16 03:00) 

MANTA

ヤマピーさん、コメントありがとうございます。
いやー続々とでてきますね。
いずれも将来にかかわる重要な試験で、お金も払っていて、しかし不備
があると、(大げさに言えば)社会そのものを信じられなくなりますね。
全てを一度に改善するのは難しいとは思いますが、徐々に改善していく
べきでしょう。

そしてインターネットの片隅ではありますが、こうやっていろんな方の
御意見を聞ける・残せることは大事だと思っています。
by MANTA (2018-01-16 19:12) 

MANTA

おまけ:
●京大入試、物理に「解答不能」…予備校講師指摘
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180121-00050000-yom-soci
 (以下引用)
"音源と聞く人の位置関係、音波の性質など、解答を決めるための条件が不足している。受験生全員を正解にすべきだ"

。。。とのことですが、音源と聞く人の位置関係はおそらく自明。
(微妙に壁から離れた側にいるはず) また音波の性質は、設問中に
「固定端反射」と書かれている点で、音の変位を考えればよいはず。
はてさて、どちらが恥をかくことになるのかしら?

by MANTA (2018-01-22 00:34) 

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