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熊本地震で分かってきたこと(1) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

一昨日の「分からないことだらけの熊本地震」という記事に、つぎのような反響を頂きました。
(神奈川県にお住まいのFさんより:一部、編集させていただいております)

”ブログ拝見しました。タイトルに「分からないことだらけ」とありますが
一般市民からすると、、、なぜ分からないのでしょう、どうすれば分かるのでしょう?
分からないことがわかるようになると、どんないいことがあるのでしょうか?”


前回の記事タイトルが当ブログ読者の不安を煽ってしまったようでしたらすみません。
なぜそのようなタイトルを付けたかは、後日の記事で解説しますが、
今日は昨日の代わりに(?)、分かってきたことを書いてみましょう。
私なりの解釈ですので、違ったらごめんなさい。

◆熊本の活断層2つが動いた
今回はどうやら2つの活断層が、1日あけてずれ動いたようです。
最初の地震(4/14のM6.5地震)と、最大の地震(4/16のM7.3地震)の発震機構
を調べてみました。一昨日の記事にご質問いただいた際に調べました(立花さん、
ありがとうございます)。発震機構とは、地震発生時の断層の動きを地震の波の
データから解析したもので、ビーチボールを上から見たような図で表現されます。
(本当は下半球投影です)
fault1.jpg
 簡単に解説すれば上のようです。詳細は下記を御覧ください。
●発震機構解とは何か(気象庁)
 http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/mech/kaisetu/mechkaisetu.html
●発震機構解と断層面(気象庁)
 http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/mech/kaisetu/mechkaisetu2.html
●発震機構解決定 (防災科学技術研究所)
 http://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/sec3.2.html

4/14のM6.5地震と、4/16のM7.3地震の発震機構(メカニズム解)は下記で公開中です。
●防災科研F-net:地震のメカニズム情報 月別リスト
 http://www.fnet.bosai.go.jp/fnet/event/joho.php?LANG=ja
これを地図上に描いてみました。
fault2.jpg
 (産総研 活断層DBに加筆、なお赤色が活断層、緑色の四角や青線は防災科研
  「地震ハザードステーションJ-SHIS」による震源断層モデル、橙色は震源位置)
 
2つの地震のメカニズム解と活断層分布を対比すると、、、
・M6.5地震は北北東-南南西方向に伸びる活断層(日奈久断層帯)で起きたようです。
・M7.3地震は北東-南西方向に伸びる活断層(布田川断層帯)で起きたようです。
地震のメカニズム解だけでなく、震源分布・地殻変動・地表に現れた地震断層なども
2つの断層での地震発生を示唆しています。
●熊本地震、日奈久断層帯60センチずれて発生(2016.4.15 21:40時点)
 http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2751052.html
●M7.3、活断層が想定超え27キロ動く 東側は阿蘇山に到達していた
 …地震調査委が発表(2016.4.17 21:02時点)
 http://www.sankei.com/affairs/news/160417/afr1604170063-n1.html
布田川断層の一部は、存在が未確認であった南阿蘇村まで及んでいるようです。
(ただ、上図の"震源断層モデル(青色)"は、南阿蘇村まで伸びてますね)
このため、南阿蘇村では被害が甚大だったのでしょう。なお、気象庁によれば
M7.3の地震の時の南阿蘇村は震度6強だったようですが、映像を見る限り、
それを遥かに上回る揺れが現地を襲ったようです。自動車がひっくり返っていますが
普通の地震ではそのようなことは起きません。また京都大学火山研究センター(南阿蘇村)
も被害が大きいようですが、その周辺の丘(草地)が地すべりを起こしています。よくみると
草をのせたままの斜面(土)が周辺にバラバラに散らばっています。まるでパズルのピース
を崩したかのよう。これらから考えると、相当つよい上下振動に襲われたものと思われます。

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◆今回の地震は「本震」×2
はじめから指摘されていましたが、4/14のM6.5地震以降、余震が多発していました。
●熊本地震 大規模な余震多発 「横ずれ断層」型 地下構造が複雑
 http://mainichi.jp/articles/20160416/ddm/003/040/132000c
●熊本で震度7 気象庁が会見「陸域の浅い地震では余震が多い」
 https://thepage.jp/detail/20160415-00000004-wordleaf

昨日までの余震活動をグラフにしたものがこちら。

 「平成28年(2016年)熊本地震」について(第11報)より
 http://www.jma.go.jp/jma/press/1604/17a/kaisetsu201604171030.pdf

新潟県中越地震は余震が非常に多かったことで知られていますが、今回の地震でも
余震が多く発生しています。4/14のM6.5地震発生の1日後の時点で、中越地震や
岩手・宮城内陸地震に次ぐ余震数でした(第3位)。その後、4/16のM7.3地震により
余震数はさらに増加しています。

ただし、余震の増え方は明らかに2段階(4/14-15、4/16-)に分かれていますね。
試みに、4/14のM6.5地震と4/16のM7.3地震をどちらも「本震」と思って、余震数を
グラフ化してみると、、、上図にマウスを重ねて下さい(マウスオーバ)。

・4/14のM6.5地震は前述のとおり、(M6クラスの割に)異常に余震が多い。
・4/16のM7.3地震の余震の増え方は、他のM7クラスの地震と似たような傾向あり。

前述の「2つの活断層」の件とも合わせて考えると、M6.5地震もM7.3地震は異なる
2つの活断層で(1日の間をあけて発生した)「本震」が2つ発生したようにも思えます(※1)。
・4/14のM6.5地震は、当初より余震数が多く異常な地震。その後余震が順調に
 減っており、日奈久断層で発生した「本震」のようにみえる。余震の多い理由は
 日奈久断層の周囲に複数の活断層があり、地震活動がこれらに飛び火したためか。
 (中越地震もこのタイプだった)
・4/16のM7.3地震は、4/14の地震に隣接する別の断層(布田川断層)で発生した
 「誘発地震(M6.5により新たに誘発された地震)」の本震のようにみえる(※2)。

後者のM7.3地震の余震の減少傾向は、過去のM7クラスの地震と比較すると、
多めではありますが(今後の動向に注目です)異常に多いということはなさそうです。
ですので、私見ではありますがこの断層帯(熊本県内)での新たな地震活動はなく、
余震も徐々に減っていくでしょう。とはいえ、大きめ余震にはまだまだ注意が必要です。

今回はこの辺で。次回は、今後気になる余震が起きそうな場所と、他地域での地震発生
の可能性を考えてみましょう。

※注1:定義に従えば、「本震クラスの前震と、本震の2つが発生した」と言うべきでしょう。地震の前震・本震・余震の定義は以下のようです。(気象庁パンフレット「地震を知る」より:http://www.gensaitaisaku.jp/PDF/jishin-all.pdf
・前震=大きな地震に先駆けて起こる小さな地震群
・本震=大地震
・余震=本震に引き続いて多発する小地震群
いずれも「一連の地震活動」に対する区別かと思われます。定義から言えば、今回のM6.5地震は前震、M7.3地震は本震です。

※注2:私個人の見解ですが、前震には1) 本震と同じ活断層で起きるものと、2) 本震の活断層の近くにある別の活断層で起きるもの、の2種類があるように思います。後者が今回の地震のケースと思われ、またいわゆる誘発地震とも言えます(誘発地震の定義では、震源域から離れた場所で発生する地震ですが、別の断層で起きる=震源域から離れた場所とここでは考えています)。
 ただし、地震調査研究推進本部の諸資料では「布田川断層帯」「日奈久断層帯」となっていますが、産総研活断層DBでは「布田川・日奈久起震断層」というように1つの断層系として捉えられています。後者の場合は前震のタイプ1(ザ・前震)に当たります。また「1つの活断層がずれ動くとき、熊本地震はなぜ2つの大地震(M6.5の前震と、M7.3の本震)に別れたのか?」という疑問が残ります(なぜ同時に発生して、M7.3+αの巨大地震にならなかったのか?)
 ちなみに「なぜ余震が起きるか?」という疑問も、「なぜ本震で滑り残しができたのか?」という疑問と同じであり、上記の2つの大地震発生の疑問と同じです。前震・本震・余震・誘発地震の発生メカニズムは(定性的には分かっていても)定量的にははっきりしていません。今回の2つの地震の発生が同一断層で起きていても、異なる断層で起きていても、互いの関連性・関係性が分かれば、このあたりの謎が少し明らかになると思います。

※注3:「ではなぜ、M6.5地震後の余震の異常発生から、M7.3地震を予測できなかったのか?」という声もあるかと思います。確かに余震の数は多かったのですが、M6.8の中越地震よりは少なめでした。中越地震では、M6.5の大きめの余震が起きましたが、M7の余震が起きたわけではありません。「今回の地震は余震数こそ多いものの、中越地震よりも規模が小さいので、M6クラスの余震に気をつけよう」と考えるのが、妥当であったと思います。

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立花

前震-本震の話ですけど気象庁の定義に従えばそうなるわけですか。しかし気象庁が言うとすぐマスコミがおおきく取り上げますよねぇ。

ところで、Mj6.5の地震の最大震度が7で、Mj7.3の地震の最大震度は6強と、Mj7.3のほうがMj6.5の時よりも小さかった。おそらく多くの一般の方々もなんとなくうすうす疑問に感じたんじゃないでしょうか。
益城で観測された最大加速度もMj6.5の時はおよそ1580galで、Mj7.3の時はおよそ1362galでした。震央距離もMj7.3の時のほうが近いです。
これは、地震計の設置場所によるものなのでしょうか?
Mj7.3の時もじつは震度7になってた(最大加速度も1580galを越えていた)場所があったかもしれないと考えていいのでしょうか。
まあ観測されてないものを云々言うのはどうかと思いますが、マスコミはいちいちおおきく取り上げますので妙に誤解されてしまう部分もあるのではないかと考えたりします。

by 立花 (2016-04-19 00:46) 

MANTA

>Mj7.3の時もじつは震度7になってた(最大加速度も1580galを越えてい
>た)場所があったかもしれないと考えていいのでしょうか。
立花さん、コメントありがとうございます。
計測機器がないのに勝手なことは言えません。ただ映像で見た範囲では
ありますが、南阿蘇村では地震で横倒しになった自動車が多数あるそうです。
●【熊本地震】倒壊家屋や横転した自動車――南阿蘇村で
 http://www.bbc.com/japanese/36069565
地面の隆起などでひっくり返ったものもあると思いますが、地震の揺れで
飛ばされた自動車が多いように感じました。震度6強ではなかなかここまでは
至らない気がします。

前震-本震は、気象庁の定義通りかと思います。言い換えれば、地震の
「順番」だけで前震-本震-余震は決まっており、その個々のメカニズムや特性
は考慮されていないのです(まだ分かっていないから)。
by MANTA (2016-04-19 17:03) 

MANTA

追記:震度7になったようです。
「平成28年(2016年)熊本地震」について(第22報)http://www.jma.go.jp/jma/press/1604/20c/kaisetsu201604201800.html
(以下引用)” 平成28年4月16日01時25分に熊本県熊本地方で発生した地震(M7.3、最大震度6強)において、熊本県が設置した益城町および西原村の震度計のデータは送られてきませんでしたが、この2か所のデータを現地調査により収集し解析した結果、下記の震度が観測されていたことがわかりましたので、お知らせします。これにより、この地震の最大震度は7になります。”
by MANTA (2016-04-20 18:42) 

MANTA

追記:衛星からの観測によれば、布田川断層帯のうち益城町~南阿蘇村付近
と、日奈久断層帯のうち益城町~熊本市南区南端付近が、それぞれズレて
動いたようです。前者が4/16のM7.3、後者が4/14のM6.5地震に相当します。
●だいち2号干渉SARによる変動の検出について(国土地理院)
 http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-index.html#3
by MANTA (2016-04-21 07:46) 

MANTA

追記:
地震調査研究推進本部の資料によると、やはり2つの断層が動いているみたい。
●平成28年4月16 日熊本県熊本地方の地震の評価
http://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2016/2016_kumamoto_2.pdf

南阿蘇村付近では、断層が4mくらい、ずれ動いたみたい(P.10)。
すごい大きいずれ量だ。また余震活動をみると、4/14と4/16であきらかに
グループ化がされていますが、布田川断層帯・日奈久断層帯というような
単純な分類では済まないみたい。日奈久断層帯では、2列の地震活動が
認められるようだが気のせいか?
(P.6)
by MANTA (2016-04-22 06:14) 

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