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地震の始まりの始まり -房総沖調査(5) [▼シリーズ実況【地震のはじまり調査】]

先月の調査航海のレポート、続きです。

2011年3月の東日本大震災。そのきっかけとなったのは3月11日の東北地方
太平洋沖地震です。ところで地震ってどうして起きるのでしょうか?
よく耳にするのは、海の岩盤(海洋プレート)が日本列島の岩盤
(大陸プレート)の下に潜り込む際に、岩盤と岩盤の接合部分(プレート
境界)で岩盤同士がこすれあうために地震が発生するのだ、という説明です。
しかしこの説明は単純すぎるのです。


 写真1:OBEM
 もうこのブログではおなじみになっていますが、海泥で電気や磁気を測定する
 装置です。この装置を数週間〜1年間ほど海底に置けば、海底下の岩盤内の
 水分量が分かります。詳しい解説は拙著「地底の科学」をみてね。


・海洋プレートにはもともと大量の海水が染み込んでいるだろう。
 (なにせ海底で生まれた海洋プレートは、長い年月(東北沖の太平洋
  プレートは約2億年の間)海の底に居続けるのだから)
・海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む(沈み込む)と、
 海洋プレートに染み込んでいた水は(温められたり、圧力がかかったり
 して)岩盤から吐き出されるだろう。
・吐き出された水はどこにいくのか? 水は岩石より軽いので、
 海底を目指して上昇を始めるだろう。
・プレート境界は岩盤と岩盤の繋ぎ目(断層)なので、ここを通って
 吐き出された水は海へと戻っていくかもしれない。
・だとすればプレート境界は水の通り道になっている。
・誰にでも経験があるように「水びたしの廊下を走れば転ぶ」
 では水びたしの断層もすべりやすく、地震を起こしやすいのだろうか?
・そのとき、巨大地震が起きるのか? あるいは小さな地震が頻発するのか?

つまりプレート境界(断層)の強さを決めているのは、断層やその周辺に含まれ
る水分なのです。この水の含まれ方が場所場所で違うために、同じ断層沿いでも
地震の大小に違いができるのか? しかし、断層の水と地震の相互関係はまだほ
とんど分かっていないのです。

房総半島の沖合は、2つの異なる地震が起きています。
1つは江戸時代(元禄)に巨大地震が発生しています。この時の震源域(断層)
は房総沖〜千葉県南部〜神奈川県に及びました(ちなみにこの震源域のうち、
神奈川県部分がずれ動いて1923年の関東大震災が発生しました)。
もう1つはゆっくり地震。房総沖ではマグニチュード6.5に相当する地震が
数年ごとに起きていますが、人間が感じる揺れは発生していません。
大きな地震なのですが、岩盤は長い期間(数ヶ月)かけてゆっくりとずれ
動いたため、揺れは発生しなかったのです。
これら2種類の地震は、経度140.5度線付近で隣り合っているようにみえます。
同じプレート境界でおきる地震なのに、なぜこのような違いが生まれるのか?
もしかしたらプレート境界に原因があるのではないか?

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はぁ、前置きが長くなりました。これだから「科学は難しい」などと言われる
のですが、まあ仕方ありません。そんなわけで今回は、房総沖のプレート境界
とその周辺は水分を多く含むのか、それとも少ないのか? を調べるために
写真のような装置を合計3台用意しました。

ちなみに昨年にも「地震の始まりの始まり」と称しまして、乗船レポートを
行っておりましたが、その際は沈み込む前の海洋プレートを調査してました。
海洋プレートにはどれくらいの水が染み込んでいるかを知ることは、沈み込み
のあとで海洋プレートからどれくらいの水が出てくるかを考えるときに
重要なのです。

前回の航海では、海中に人工電流を流して、海底下の水分量の推定を行っており
ました。そして今回の航海では自然に流れている電流を用いて、地下深くの
プレート境界の状態を推定しようとしています。
このように、複数の航海で総合的に海底調査を進めつつあります。

おまけ

写真2:今回お世話になった「新青丸」は最新の調査船です。
運動性能はもちろんのこと、諸機能アレコレが素晴らしい!
写真はブリッジ(操舵室)での1枚。タッチパネルで情報を切り替えています。


写真3:恒例の「船ごはん」。今回は夏らしく「素麺」を御紹介。
ほんと、いろいろなご馳走を頂いております。感謝。

つづく。次回で本シリーズは一度中締めです。
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