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NHK「巨大災害」 第3集 巨大地震(感想) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

2011年以前から、NHKは毎年9月頃に「災害」の特別番組を放送してきた。
(と思う、放送してない年もあるだろう)
今年は「巨大災害 MEGA DISASTER」と銘打ち、4回シリーズで自然災害研究
の最前線に迫っている。今日はその第3回目、巨大地震の回であった。
先程放送があったので、その感想を書いてみよう。

総合的には非常にわかりやすく最新の地震科学に迫っており、
「災害はこわいぞ~!」と脅す番組でもなく、よいNHKスペシャルだった。
※去年は脅しにかかってましたね。詳しくは下記を参照ください。
”NHK「MEGAQUAKE III」に物申す”

巨大災害・リスクと経済 (シリーズ現代経済研究)

巨大災害・リスクと経済 (シリーズ現代経済研究)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2014/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

1) 地震防災に対する「新たな目線」
地震防災を科学的に捉える番組では、目に見えるものに注目しがちである。例えば
「地震の揺れ」「地殻の変形」「活断層」など。これに加えて、地震発生前の特異な現象
(いわゆる前兆現象)の有無や、地震予知の可能性(オカルト地震予知を含む)に話題が
集中しがちだ。これは民放のみならず、NHKでも同じである。

しかし今回は、地震が発生する場所の地下構造にフォーカスされていた。
例えば地震波トモグラフィ。例えば人工地震探査。これらのデータの大部分は目に見えず
手に取ることもできない(デジタル化された地震データ)。ましてコンピュータを用いた解析
を通じて得られる地下構造に現実感は乏しい。従って、1時間のテレビ番組のメインテーマ
にはなりにくかった。

肉眼で見えるだけではなく、見えないものにも注目する。科学の王道であるが、ここに焦点が
あてられたことは意外と画期的だ。地下の可視化技術が向上したことがその一因であろう。
地震探査.jpg
人工地震探査(反射法地震探査、ベレ出版「地底の科学」より。次図も同。)

キャプチャ.JPG
人工地震探査の一例。この頃(いまから10数年前)には沈み込む海洋プレート上面は
海底下10km程度までしか追うことができなかったが、最近は20km程度まで追跡可能。

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2) しかしよくよくみると、結果の羅列である
例えば人工地震探査の結果から、東北地方太平洋沖地震の震源近くでは、沈み込む
海洋プレート上に海山と思しき凸部があることが明らかとなった。また地震波トモグラフィ
でも、同震源域周辺の岩石が硬めの傾向を示すことが分かった。番組ではこの2つを
「巨大地震の震源域の特徴」として紹介し、地下探査を行えば将来発生する巨大地震の
震源を特定できる可能性まで言及している。 しかし人工地震探査と地震波トモグラフィでは
探査している深さや解像度、明らかになった物性値などが全く違う。

2つの異なる種類の探査が、共に震源域で異常を検出したのはナゼか?
より本質的な巨大地震像がそこに眠っているはずだ。その答えは私達研究者たちにも
まだ分からない。研究者が挑戦中の課題を掘り下げろというのは酷かもしれないが
番組内では個々の探査結果を紹介するにとどまった印象だ。
image210.jpg
 地震波トモグラフィの一例(ベレ出版「地底の科学」より)。
 前図(人工地震探査)とのスケールの違いに注目。

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3) 紹介された科学的仮説は、最新のものではない
番組内では次のような地震発生仮説が紹介された。
・海溝から沈み込んだ海山が、巨大地震発生の引き金となった
・震源域の岩石が硬めの傾向を示す
・海洋プレートの沈み込み角度が、巨大地震の大きさや頻度を決める
これらは最新の成果のように紹介されていたが、いずれも2011年以前から述べられていた。
例えば海山の話や岩石の硬め・柔らかめの話は、ここ10年間繰り返し提案されてきた。
これらは震源域(岩盤の割れ始め)を説明する仮説だが、岩盤が何百kmにも渡って一気に
ずれ動く現象(すなわち巨大地震の全体像)については説明できていない。また必要十分な
仮説でもない(地下探査で異常構造が見つかったからといって、そこで巨大地震が起きる
とは限らない)。プレートの沈み込み角度うんぬんの話に至っては1970年代に提案された
仮説である。そしてこれらの仮説は東北地方太平洋沖地震の予測には役立たなかった。

ちなみに、1970年代の地震発生モデルと2011年の超巨大地震はどう違うのか?
2011年時点ではなにが足りなかったのか? なぜ予測できなかったのか? などは
下記の「科学バー」というWebサイトに少々書かせて頂いた。ご興味のおありの方は
お読み頂き、当ブログの下記コメント欄などに感想をお書き頂ければ幸い(宣伝)。
 (※第7話~第10話、第10話は先週公開されたばかり)
http://kagakubar.com/earth/10.html

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さて番組では「マントルから供給される水」が地震にもたらす影響も述べられていた。
実はこれがもっとも新しく、もっともインパクトのある科学成果である。
こういった複数の科学的成果を有機的に繋いでいくにはどうすればよいだろうか?
感想2とつながるが、既存の成果や新たな成果から推測される地震発生メカニズムは
千差万別である(であった)。いま、地震学者達が考えねばならない(考え始めている)
ことは、これらを統合して地震発生の本質に迫ることである。この点が番組では取り上げ
られなかったのは残念だった。だが、それでいいのかもしれない。
個々の地震科学の成果が有機的に連結できていないのは、事実なのである。
多くの視聴者がみて「なるほど」と納得できるレベルにまで、地震科学が成長していく
ことがまずは大事だろう。

・・・長々書いたけど、「地下探査が地震発生予測に役立つ」っていう話の流れと、地形が
大好きなタモリさん(司会)の「鹿島海山」への食いつき方が面白かった。

※参考資料

地底の科学 地面の下はどうなっているのか (BERET SCIENCE)

地底の科学 地面の下はどうなっているのか (BERET SCIENCE)

  • 作者: 後藤 忠徳
  • 出版社/メーカー: ベレ出版
  • 発売日: 2013/10/22
  • メディア: 単行本


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