資料:燃料代を計算してみよう [ 資源エネルギーを考える]
前回の記事では、原発停止に伴って、2011年の火力発電の燃料代UPはおよそ1兆円
というように計算した。かなりざっくりした計算だったので、もう少し詳しく計算してみよう。
先に結論だけ書くと、やっぱり燃料代増額は1兆円ほどだった。
また原発がすべて停止した場合、約3兆円必要であるようだ。
従って我々は早晩、次のいずれかを選ばねばならないだろう。
1)徹底的に省エネに努める
2)一世帯あたり年間数万円の電気料金値上げを受け入れる
3)一部の原発を再稼働させる
他にも
・イノベーションを加速し、輸出で儲けを出して、輸入エネルギー分を補う
・新しいエネルギー源で、不足分を賄う
という手もあるが、即効性には乏しい。いやはや、困った1年になりそうだ。
他にもアイデアがあったら、ぜひコメント欄にお書きいただければと思います。
…うむ、しかし、ちょっとまて。原発が止まっているのだから、原発の燃料代は
浮いているはずではないか?その分は上記の火力発電の燃料代増から
引かねばならないが、いくらだろうか? 続きます。
------------------------------------------------------------
(以下、より詳しい燃料費の計算方法)
計算には下記の図を使用した。
●『エネルギー白書2011』 第2部エネルギー動向【第200-1-3】(p.74)
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011/2-1.pdf
一見すると何が何やらであるが、よくよく見ると国内でのエネルギーの流れが実によく
描かれている(細部の数字がいろいろあわなかったりするが)。これに基づいて、
2011年の火力発電燃料費の増額分を計算してみよう。ちなみに同じ計算ができる
Excelファイルもおいておくので、興味のある方はお試しを(こちら)。
※なお四捨五入のため、下記数字とExcel内の数字が若干合わないがお許しを。
1)まず2011年の火力発電増に伴う石油・天然ガスの増量を求める。
2009年度は石油・天然ガス・石炭の消費量は熱量換算(単位:10^15J)でそれぞれ、
8797、3979、4388であった。このうち発電に要する分はそれぞれ782、2353、2497。
比率はおよそ1:3:3。前回の記事にあるように、原発停止による電力不足を年平均15%、
省エネ分を年平均5%とすると、約10%の電力不足である。しかも下記記事に従い、
大型の石炭火力発電所の停止のため、不足分を石油と天然ガスで補うものとする。
●震災後の輸出入動向(総合商社の眼、これから世界はこう動く/マネックス証券)
http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2011/09/22.html
発電用の石油と天然ガスの比率(1:3)を維持しつつ、発電不足を補うためには、
石油・天然ガスともそれぞれ、下記の増量が必要である。
(782+2353+2497)*0.1/0.6*(1/7+3/7*1/4) = 235(単位:10^15J)
(782+2353+2497)*0.1/0.6*(3/7+3/7*3/4) = 704(単位:10^15J)
2)次に経済活動低下分を差し引き、石油・天然ガスの総輸入量を算出
2011年は震災によって経済活動が低下していたはずである。前記事で紹介した
財務省資料の「主要商品別輸出」のうち、輸出額が最大である自動車の伸率である
マイナス約7%を経済活動の低下率としてみる。
そうすると発電以外で必要な石油や天然ガスの量はそれぞれ、
(8797-782)*0.93 = 7454(単位:10^15J)
(3979-2353)*0.93 = 1512(単位:10^15J)
従って2011年の石油、天然ガスの輸入量(推定)は
7454+782+235 = 8471(単位:10^15J)
1512+2353+704 = 4569 (単位:10^15J)
3)2009年に対する2011年の石油・天然ガスの輸入量増(%)を算出
上記より石油・天然ガスの輸入量増はそれぞれ
(8471-8797)/8797*100 = -3.7%
(4569-3979)/3979*100 = 14.8%
これは財務省資料の「主要商品別輸入」のうち、原油及び粗油、液化天然ガスの伸率
(それぞれ-2.7%および12.2%)に近い値である。なので2011年の原発稼働率や省エネ
の度合いの見積もりはまあまあ正しいと言えそうだ。
4)以上を元に石油・天然ガスの電力用燃料の増加費を計算する。
財務省資料の「主要商品別輸入」のうち、原油及び粗油と石油製品の合計金額は
136362.6 (単位:億円)、液化天然ガスの金額は47729.9(単位:億円)なので、
石油・天然ガスの電力用燃料の増加費はそれぞれ、
136362.6/8471*235 = 3783億円
47729.9/4569*704 = 7354億円
2つを合わせると電力用燃料の増加費合計は11137億円=約1兆円となる。
----
以上は、原発が一部稼動していた2011年の話であって、原発が全て停止したら
さらに燃料費は増額となる。上記の見積もりに基づいて、いくらになるかを計算して
みると、2.8兆円/年の増額となった。こちらもExcelファイルを置いておくので、
興味をお持ちの方はご自身でもいろいろお試しあれ(こちら)。同様の見積もりはすでに
専門家によっても実施されている。例えば下記では3.5兆円/年の増額だそうな。
上記のExcelファイルをいじってみて、比較してみるのも興味深いだろう。
●原子力発電の再稼動の有無に関する 2012 年度までの電力需給分析
(日本 エネルギー経済研究所)
http://eneken.ieej.or.jp/data/3880.pdf
ところで、この2.8兆円のシミュレーションには、石炭火力発電所の増加分を含んでいない。
仮に石炭火力も石油や天然ガスと同程度に増えたとすると、2.1兆円/年の増額で済む。
一方で、実はこの見積もりを見ていると、円高に相当助けられていることも分かってくる。
例えば2011年の火力発電の燃料費総額は約6.2兆円(!)と見積もられるが、
先の記事に書いたように例年は7兆円程度であり、それに比べて10%程度減である。
化石燃料の消費総量(熱量換算)は増加しているのに!である。
一方で円高を考える。2009年は平均で1ドルあたり約94円だが、2011年は約80円だった。
●税関長公示レートの月平均、年平均(税関)
http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/kawase/kawase2011/monthly-average.pdf
つまり15%程度「割引」だったわけだ。円高の終わりと、化石燃料の高騰が重なれば、
上記見積もりはさらに何割か増になると思った方がよいだろう。
というように計算した。かなりざっくりした計算だったので、もう少し詳しく計算してみよう。
先に結論だけ書くと、やっぱり燃料代増額は1兆円ほどだった。
また原発がすべて停止した場合、約3兆円必要であるようだ。
従って我々は早晩、次のいずれかを選ばねばならないだろう。
1)徹底的に省エネに努める
2)一世帯あたり年間数万円の電気料金値上げを受け入れる
3)一部の原発を再稼働させる
他にも
・イノベーションを加速し、輸出で儲けを出して、輸入エネルギー分を補う
・新しいエネルギー源で、不足分を賄う
という手もあるが、即効性には乏しい。いやはや、困った1年になりそうだ。
他にもアイデアがあったら、ぜひコメント欄にお書きいただければと思います。
…うむ、しかし、ちょっとまて。原発が止まっているのだから、原発の燃料代は
浮いているはずではないか?その分は上記の火力発電の燃料代増から
引かねばならないが、いくらだろうか? 続きます。
------------------------------------------------------------
(以下、より詳しい燃料費の計算方法)
計算には下記の図を使用した。
●『エネルギー白書2011』 第2部エネルギー動向【第200-1-3】(p.74)
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2011/2-1.pdf
一見すると何が何やらであるが、よくよく見ると国内でのエネルギーの流れが実によく
描かれている(細部の数字がいろいろあわなかったりするが)。これに基づいて、
2011年の火力発電燃料費の増額分を計算してみよう。ちなみに同じ計算ができる
Excelファイルもおいておくので、興味のある方はお試しを(こちら)。
※なお四捨五入のため、下記数字とExcel内の数字が若干合わないがお許しを。
1)まず2011年の火力発電増に伴う石油・天然ガスの増量を求める。
2009年度は石油・天然ガス・石炭の消費量は熱量換算(単位:10^15J)でそれぞれ、
8797、3979、4388であった。このうち発電に要する分はそれぞれ782、2353、2497。
比率はおよそ1:3:3。前回の記事にあるように、原発停止による電力不足を年平均15%、
省エネ分を年平均5%とすると、約10%の電力不足である。しかも下記記事に従い、
大型の石炭火力発電所の停止のため、不足分を石油と天然ガスで補うものとする。
●震災後の輸出入動向(総合商社の眼、これから世界はこう動く/マネックス証券)
http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2011/09/22.html
発電用の石油と天然ガスの比率(1:3)を維持しつつ、発電不足を補うためには、
石油・天然ガスともそれぞれ、下記の増量が必要である。
(782+2353+2497)*0.1/0.6*(1/7+3/7*1/4) = 235(単位:10^15J)
(782+2353+2497)*0.1/0.6*(3/7+3/7*3/4) = 704(単位:10^15J)
2)次に経済活動低下分を差し引き、石油・天然ガスの総輸入量を算出
2011年は震災によって経済活動が低下していたはずである。前記事で紹介した
財務省資料の「主要商品別輸出」のうち、輸出額が最大である自動車の伸率である
マイナス約7%を経済活動の低下率としてみる。
そうすると発電以外で必要な石油や天然ガスの量はそれぞれ、
(8797-782)*0.93 = 7454(単位:10^15J)
(3979-2353)*0.93 = 1512(単位:10^15J)
従って2011年の石油、天然ガスの輸入量(推定)は
7454+782+235 = 8471(単位:10^15J)
1512+2353+704 = 4569 (単位:10^15J)
3)2009年に対する2011年の石油・天然ガスの輸入量増(%)を算出
上記より石油・天然ガスの輸入量増はそれぞれ
(8471-8797)/8797*100 = -3.7%
(4569-3979)/3979*100 = 14.8%
これは財務省資料の「主要商品別輸入」のうち、原油及び粗油、液化天然ガスの伸率
(それぞれ-2.7%および12.2%)に近い値である。なので2011年の原発稼働率や省エネ
の度合いの見積もりはまあまあ正しいと言えそうだ。
4)以上を元に石油・天然ガスの電力用燃料の増加費を計算する。
財務省資料の「主要商品別輸入」のうち、原油及び粗油と石油製品の合計金額は
136362.6 (単位:億円)、液化天然ガスの金額は47729.9(単位:億円)なので、
石油・天然ガスの電力用燃料の増加費はそれぞれ、
136362.6/8471*235 = 3783億円
47729.9/4569*704 = 7354億円
2つを合わせると電力用燃料の増加費合計は11137億円=約1兆円となる。
----
以上は、原発が一部稼動していた2011年の話であって、原発が全て停止したら
さらに燃料費は増額となる。上記の見積もりに基づいて、いくらになるかを計算して
みると、2.8兆円/年の増額となった。こちらもExcelファイルを置いておくので、
興味をお持ちの方はご自身でもいろいろお試しあれ(こちら)。同様の見積もりはすでに
専門家によっても実施されている。例えば下記では3.5兆円/年の増額だそうな。
上記のExcelファイルをいじってみて、比較してみるのも興味深いだろう。
●原子力発電の再稼動の有無に関する 2012 年度までの電力需給分析
(日本 エネルギー経済研究所)
http://eneken.ieej.or.jp/data/3880.pdf
ところで、この2.8兆円のシミュレーションには、石炭火力発電所の増加分を含んでいない。
仮に石炭火力も石油や天然ガスと同程度に増えたとすると、2.1兆円/年の増額で済む。
一方で、実はこの見積もりを見ていると、円高に相当助けられていることも分かってくる。
例えば2011年の火力発電の燃料費総額は約6.2兆円(!)と見積もられるが、
先の記事に書いたように例年は7兆円程度であり、それに比べて10%程度減である。
化石燃料の消費総量(熱量換算)は増加しているのに!である。
一方で円高を考える。2009年は平均で1ドルあたり約94円だが、2011年は約80円だった。
●税関長公示レートの月平均、年平均(税関)
http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/kawase/kawase2011/monthly-average.pdf
つまり15%程度「割引」だったわけだ。円高の終わりと、化石燃料の高騰が重なれば、
上記見積もりはさらに何割か増になると思った方がよいだろう。
興味深く拝読しました。
なかなかこのような数字が出てこないのです。
東電は一方的な「値上げ」通告。
体制において透明性ある数字また、その根拠をしっかり示していただきたいものです。
そもそも電気代をどのように算出しているのか不明でしたね。
東電に関しては算出方法の開示を含め明らかにしていただきたい。公的資金注入されることですしね。
by yao (2012-03-05 21:18)
yaoさん、コメント有難うございます。
ちょっと趣味的に計算してみました。
東電は原発の民間事故調査委員会のインタビューも無視して、事故に
対してだんまりを決め込んでいますので、値上げなんて許すまじ!
という声は当然でしょう。
しかし一方、原発がすべて停止した場合、約3兆円必要。東電は国内の
電力需要の半分ほどを賄っているので、約1.5兆円が東電の赤字として
のしかかります。東電の2010年の売上が約5兆円、経常利益が0.3兆円
ですので、これを考えると値上げなしにすむとも思えません…
いずれにせよ、なし崩し的に震災後1年を迎えてしまいました。
この国のエネルギー政策はどうなるのだろうか?どうするのだろう?
by MANTA (2012-03-08 18:23)