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なぜ石油は「なくならない」のか? [ 資源エネルギーを考える]

前回・前々回に、石油の価格が長期的に上昇傾向なこと、その主な要因は
石油の生産量が頭落ちになっていることを書きました。
・石油価格はだんだん上昇(http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2011-08-27
・原油価格はなぜ上昇するか?(http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2011-09-04

では石油は将来なくなってしまうのでしょうか?

前回の記事で「ピーク・オイル」の話をしました。
いまが石油生産量のピークで、今後は毎年の石油生産量は徐々に減っていく、と。
ところが次のグラフを見て下さい。これも石油生産量の実績と今後の予測です。
fig3.jpg
(国際エネルギー機関(IEA)による報告書「世界エネルギーアウトルック2010」より)
http://www.iea.org/weo/docs/weo2010/key_graphs.pdf

・・・ピークなんてないですね。石油、なくならへんやん(笑)
前回のグラフ(Campbellによる)と今回のグラフは何が違うのでしょうか?
2つの違いは、上のグラフの灰色と水色の部分です。
・灰色部分=いままでに見つかっているけれどまだ開発されてない油田の分
・水色部分=今後見つかるだろう油田の分
前回のグラフにはこれらが小さめに評価されているのです。
将来予測にもいろいろあると言うことでしょうか?

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「なーんだ、まだ石油あるんじゃん、安心~」って安易に思ってはダメ。
問題は量ではなく質、すなわち石油の採掘コストなのです。

まず上のオレンジの部分=非在来型石油ですが、、、
●非在来型石油(石油学会)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpi/jp/dictionary/petdicnewenergy.html
例えばオイルサンドは粘り気の高い鉱物油分を含む砂岩です。そこから石油を回収する
には、水蒸気を地層に押し込んで、粘り気を小さくする必要があります(JOGMEC 石油・
天然ガス資源情報 用語辞典
)。 なのでこれもやはり回収コストが高くなります。
このあたりの話はまたあとで詳しくすることにしましょう。

次に灰色部分。もう見つかっているのにまだ開発されていない油田とは、いろんな
理由で石油を掘るのにコストがかかる油田でしょう。あなたにも経験有りませんか?
宿題とか仕事、後回しにしちゃうときっていろいろ理由がありますよね?
例えば小規模な油田や、水深の深いところに広がる海底油田。これらの採掘コストは
割高です。だから開発していなかったのです。中国など新興国などのニーズによって
石油価格が高くなったときに、後回しにしていた高コストの油田を開発できるわけです。

水色部分の今後の発見量についても、地下調査・開発技術の進歩次第です。私はその
「技術開発屋」ですからできるだけ安く石油を見つける方法を模索してますし、ご期待
頂きたいところ。とはいえ、いくら技術が進んでも、今後は大規模な油田は見つからない
ように思います(その理由もまた今度お話ししましょう)。むしろ、いままで見つけるのが
難しかった小規模な油田の発見率があがったり、深海や極地など困難な地域での発見例
が増えるでしょう。見つかることは良いことですが、どれも採掘コストが高そうです。

というわけで、石油はまだまだ「なくならない」のですが、安い石油が「なくなる」のです。
(実は前回の記事の先頭には、そう書いていたのでした)。
最後に「安い石油」と「高い石油」をイラストで解説して締めましょう。
fig.jpg
リンゴの中には果汁がたっぷりですが、蛇口をつけるだけでは飲めません。
もう一手間かけないと飲めないのです。そのひと手間にエネルギーが必要なのです。
もしもリンゴを絞るのに必要なエネルギーと、リンゴから得られるエネルギーが
等しければ、プラマイゼロなので、全く意味がありません。
これがいままで飲んでいた”紙パックのジュース”との違いです。
この喩えは俗に「ラビット・リミット」として知られています。
(今回はあえてリンゴでやってみました) 一度検索してみてください。

さてこのような石油価格高騰の折、日本は原子力発電の割合を下げて、火力発電で
電力をまかなっています。発電にかかるコストはどれほど上がっているのでしょうか?
続きます。
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田中

原油価格は原価、実需、投機資金、ドルの価値など複数の要因で決まるのですから、原価の上昇だけを根拠に今後の上昇を決めつけるのは少し乱暴ではないでしょうか?
by 田中 (2011-09-09 11:50) 

MANTA

>原油価格は原価、実需、投機資金、ドルの価値など複数の要因で決まるの
>ですから、原価の上昇だけを根拠に今後の上昇を決めつけるのは少し乱暴
>ではないでしょうか?
田中さん、コメントありがとうございます。確かに乱暴な議論ですが、石油が
なくならないにもかかわらず原価が上がるセンスであることはご理解いただけた
かと思います。実需は、中国やインドなど新興国が石油以外のエネルギー
に転換するかどうかにかかっていますが、今のところその兆しはなさそうです。
by MANTA (2011-09-09 18:55) 

MANTA

本文への追記です。石油が「なくならない」となると、「ピークオイル」はやって
こないのでしょうか?一方で、米国の原油生産量はなぜ「ピークオイル」を
示したのでしょうか?
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2011-09-04

米国の場合、自国以外から石油を買うということが安価な選択肢だったので
自国の石油を搾り出す努力は不要だったように思います。これを地球規模
にあてはめてみましょう。例えば、石油以外からエネルギーが安く手に入る
のであれば、米国と同じような「ピークオイル」を地球規模でも示すように思い
ます。逆に石油に変わるエネルギーがなければ、原油生産量は横ばいか
少しずつ増加してピークは示さないかもしれません。そう考えるとCampbell
の予測(前回記事)は前者のシナリオに基づいていて、IEAの予測(本記事)
は後者のシナリオに基づいているようにも思えてきます。現状では石油に
変わるエネルギー源はなかなか無いので、IEAの予測が妥当かなぁ?
(そしてエネルギーの価格はどんどん上がっていく)
by MANTA (2011-09-18 09:38) 

yao

お久しぶりです。

石油はいずれなくなる。これは動かしようのない事実ですよね。
なくなるその過程の中で、今まで採算の合わなかった油田の開発が進み、「石油の埋蔵量」が増えていく。
とてもよくわかります。 勿論そこに資金を増やそうとする輩が話をややこしくさせていますね。
本来先物取引は、価格を均一にする働きがあるはずですがねぇ。
ご存知と思いますが、先物取引は日本人が発明した取引ですね。よくいわれる、「青田刈り」がそれに当たりますね。
確か7ー8年前、1バレル120ドル超えたとき、本当の価格は半分以下と感じていました。
個人的な事をいえば、その当時化学品扱っていたので、原料価格の高騰の価格転換(つまり値上げです)でお客様に対する値上げ四苦八苦していました。

いずれにせよ、今後1バレル=50ドル以下になる見込みはありませんし、石油の無駄使いは極力抑えねばばりません。
石油は様々な原料に転化できますが、残念ながらLNGからは色々なものを合成するにはコストがかかりすぎます。
エネルギーとしての石油ではなく、原料としての石油として考えて頂きたい。

エネルギーは是非、LNG等の他の物を使って頂きたいと切に思います。




by yao (2011-09-21 19:26) 

MANTA

>個人的な事をいえば、その当時化学品扱っていたので、原料価格の高騰の
>価格転換(つまり値上げです)でお客様に対する値上げ四苦八苦していました。
yaoさん、そういう現場の声をお待ちいたしておりました。
おっしゃるとおりで石油は万能プレイヤー。化学品もそうですし、船も飛行機も
、電気では動きません。(ホント?たぶんね) 電気を作るのに石油を使うのは
もったいないのに、「火力発電所があるから大丈夫」という人も多いのに驚き
です。
by MANTA (2011-09-22 01:39) 

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