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余震は予測できるか? [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]

これは趣味のブログです。だけれども、前回の連載「地震予知」から1ヶ月以上
あいてしまいました。実は今回の内容は1ヶ月前に下書きが終わっていました。しかし
端くれとはいえど専門家としてどう発言すればよいか、非常に悩みました。そんな折にも
余震はくる。中途半端な発言は慎むべきか、いっそブログもやめちまえ、とも思いましたが
でもまあ、所詮端くれですからね。自由に発言したいと思い直して、続きを書きます。

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さて地震から1ヶ月半以上が経ったが、4月は余震に悩まされた1ヶ月といえる。
M7余震.jpg
気象庁資料「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第41報)」より
http://www.jma.go.jp/jma/press/1104/28a/kaisetsu201104281700.pdf

ご存知のとおり、M7を越える余震が5つ。4月12日には首都圏に近い房総沖でもM6.4の
余震が起きている。M9.0のために感覚が少し麻痺しているとはいえ、どれ1つとっても
大地震であり、大事件だ。これらの余震をどの程度予測できたのだろうか?
まず気象庁の余震数の予測資料をみよう。
余震.jpg
「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第40報)」より
http://www.jma.go.jp/jma/press/1104/21b/kaisetsu201104211600.pdf
これを見ると、余震は徐々に減少している。また大きめ(M5.0)以上の余震の発生確率
予測を気象庁は今回(M7クラスの地震としては)初めて発表した。上図の「<」って感じの
ラインが発生数の予測である。やはり本震直後の余震の多さは半端ない。またなんとなく
4月以降に余震が凄く増えたように思っていたが、改めて見るとそうでもなく、実は気象庁の
予想の範囲内であることが分かる。

では余震の発生場所についてはどうだろう?
気象庁はこちらについては何も言っていないが、京都大学防災研究所の資料が興味深い。
●東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化(京大防災研)
 http://www.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/events/110311tohoku/toda/index.html
cff.jpg
図の1つ(第三報, 3/15)に加筆(主な余震を重ねてみた=白丸+説明用記号)

詳しくは上記ページを見て欲しいが、地図中で赤く塗られたところが「3月11日の本震(★)
のあとで、活断層がすべる方向に力(応力)が増加した」地域。青は逆に「力が減少した」
地域。赤い地域ほど余震が起きやすいわけだ。これは、どうやって予測したかというと…
1)本震時にプレート境界の断層のどの部分がどれくらい滑ったかを地震波記録から推定
2)本震で地殻に掛かっていた力や歪が解放されたということは、本震の周辺では力や歪は
  逆にたまったと考えられる。分かりやすいのが下の写真。
  タオルを押すとどこにシワはたまる?(マウスポインタを写真上に合わせてみてください)
  
 詳しくはこちら:http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2006-12-09
3)地殻の強度や各地域の断層分布などを単純に仮定して、本震周辺で増加または減少した
 力の大きさを計算(深さ12.5kmについて計算)。

さて上図では赤い地域と余震(白丸)が一致するところとしないところがある。
まず一致するところから見てみよう。
・地域2, a, d=ここでは本震の起きた同じ日に大きな余震が起きている
・地域e=ここでは4月12日に房総沖の余震が起きている
特に地域aやdは見事な一致で、本震後のプレート境界断層の割れ残り部分に力が集中し
余震が起きたと思われる。このように(比較的簡単な方法でも)余震が起きやすい場所は
予想できる。気象庁の余震発生確率と合わせたり、より高度なシミュレーションを本震後に
迅速に実施できるのであれば、余震発生場所や時期をある程度予測することができそうだ。

次に、余震と「赤い地域」が一致していない場所を見ていこう。
・地域i, iv=これらは余震の起きた地域a,dの陸側にあたる。地域a,dで余震が起きたので
 地域i, ivにはもう力はかかっておらず、現在は青色の地域になっていると思われる。
 (なぜって?上図そのものが物語っている。本震でプレート境界がすべった地域の陸側
  は全部青い。プレート境界がすべれば、日本列島にかかっていた力も解放されるのだ)
・地域b=ここは余震ではなくて、3月9日に前震が起きた場所である。この計算には本震
 による力のかかり方の「変化」しか表されていないので、以前にすでに地震が起きてしまって
 いるエリアでも「赤く」なっている場合があることに注意が必要だ。
・地域ii, iii=これらは赤いというか微妙に「黄色い」場所だ。ちょうどこの場所で起きたわけでは
 ないが、4月7日の宮城沖余震(本震の★のすぐ右の○:震源の深さは約40km)が近くで
 起きている。この不一致の原因は本震の時の断層のずれ分布が違ったためだろうか?
 ただし上記の赤青分布は深さ12.5kmで計算したものなので、実際の震源の深さ40km
 での計算結果はもっと合うのかもしれない。
・ところで地域iiiの南では、青い地域でM7の余震が起きている。ただし震源の深さは深さ6kmで、
 プレート境界ではなく、日本列島の地殻内で起きたいわゆる「内陸地震」である。上記の赤青
 分布では複雑な内陸の活断層の強度を捉えきれていないようだ。
 というかこれって、もはや余震ではなく「誘発地震」と考えたほうがよいのだろう。

そして問題の地域は下記だ。
・地域1, 3, c, f=これらの地域ではいまだ余震は起きていない。これらの地域は地域bと
 同様に本震の発生前にすでに力を解放していて、赤いからと言っても当分地震には至ら
 ないかもしれない。しかし私の調べた限りでは、ここ100年で大きな地震は起きていないと
 思われる。地震を起こさずにゆっくりと変形をしてくれていればよいのだが、そうでなければ
 今後これらの地域での余震が気がかりだ。

実際、このような赤青の分布などに基づいて次のような記事が4月中頃に出ている。
●津波伴うM8級、1か月内にも再来…専門家
 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110414-OYT1T00112.htm?from=tw
●アウターライズ地震:発生の懸念、小さな揺れで大津波も
 http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110418k0000m040067000c.html
2番目の記事が詳しいが、昭和三陸地震(1933年、M8.1)は地域3のような場所で起きている。
このとき発生した津波は、最大で約30mの高さまで駆け上がっている。

以上をまとめると、余震は概ね予想通りに減っており、起きる場所も(いまはまだ難しいが)
近い将来には予測ができそうだ。そして今後は余震というか本震地域周辺での「次の大地震」
への警戒が必要だ。上記の地域3はすでに述べたが、それ以外の地域は大丈夫だろうか?
次回以降へ続けよう。
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乾物屋

管理人さま

専門家でありながら個人ブログを継続され、なおかつ、積極的に
発言なさっている姿勢に深く感銘を受けます。自分も原発くんに
近い仕事をしている関係の中で、慎重に発言しながら、時には
ズバッと・・・誰かがワルモノにならねばならないといけないと
考えています。

何となく考えていた余震のメカニズムが見えて来たきがします。
完全予想を世間は求めがちですが、どうして地震が起きるかを
考える姿勢があるかたには、しっかり読んでほしいです。

原発も今後の予想を「大胆」にやりたいが、大きな余震があれば
計画(予想)が狂います。そして冷温状態になってから初めて
収束への道筋が示せると考えます。
by 乾物屋 (2011-05-03 03:03) 

MANTA

コメントありがとうございます。このブログ、長く続けてきただけに、これからも
どう続けるか、難しいところですが、ボチボチとやっていこうと思います。

>原発も今後の予想を「大胆」にやりたいが、大きな余震があれば
>計画(予想)が狂います。
その割には津波への対策がほとんどされていないのが気がかりです…

by MANTA (2011-05-03 08:10) 

春分

私も勉強させてもらっておりますので、止めないで頂きたく存じます。
ま、止めないのだと思いますが。
by 春分 (2011-05-05 07:26) 

MANTA

春分さん、コメントありがとうございます。
このブログを書くのは私自身の勉強にもなっています。未だ続けてみます。
by MANTA (2011-05-05 07:58) 

乾物屋

>その割には津波への対策がほとんどされていないのが気がかりです…
 ご指摘はもっともです。
 ただ、現場は真っ先に防潮堤を望みました!執行役員でもある所長が必死で懇願なさいました。現場に来ない本店の方々には、津波の恐ろしさは伝わらないのでしょうね。緊急停止は出来たし、津波対策さえ・・・タラレバはやめます。
 現在、溶けた燃料棒をザルと化した格納容器で「麺を水でさらすように」注水し続けているように感じます。「厨房の床には茹で汁が散っているし、1号店と3号店は圧力釜を使っていてガス漏れ引火で、屋根まで吹き飛んだって」状況でしょうか。
  やっぱりMANTA さんが危惧なさる地下水湧水への汚染は避けられないと思います。
by 乾物屋 (2011-05-14 03:45) 

MANTA

>ただ、現場は真っ先に防潮堤を望みました!
重機はまだ入れないのでしょうか? 戦車を入れるという話もありましたが…
防波堤はないと、津波はまっすぐに入ってきます。あれば、少しは時間を稼げ
ます(スーパー堤防は壊れてしまいましたが、津波襲来を少しの間防いだらしく
何人もの命が助かったと聞きます)

地下水汚染はやはり起きていますね。地震時の漏水対策はどうなっていた
のか? 原子力関係者はプラント設計時に外的環境(地面や大気・海洋)を
あまりにも考慮していないように思えてなりません。
by MANTA (2011-05-15 21:02) 

LH2

そういえば、本震と余効変動で3断層で地震確率高まる
という記事が出ていましたね。http://www.excite.co.jp/News/society_g/20110609/Jiji_20110609X944.html

これは政府の地震調査委員会の発表と言うことですが、
ココでの説明や東大地震研のサイトで紹介されていた論文の内容と同じような話かなあと思っていますが、
どの程度確立が上がるかについて分からないとあまり定量的に意味がない気がします…。

ふと思ったんですが、地震の発生確率はどうやって推定されているんでしょう。
普通の構造物の破壊だと、応力のばらつきと材料の耐力のばらつきなどを考えて確率を出しますが、地震だと地下にひずみゲージを埋めるわけにも行かないので応力もかなりばらつくと思いますし…。
by LH2 (2011-06-16 22:19) 

MANTA

>ふと思ったんですが、地震の発生確率はどうやって推定されているんでしょう。
LH2さん、基本的には活断層で何年間隔で地震が起きているかで決めています。
http://www.jishin.go.jp/main/choukihyoka/01a/chouki0103.pdf
(図1.1 長期確率評価の流れ)

今回の発表資料はこちらですね。
http://www.jishin.go.jp/main/choukihyoka/ichiran.pdf
赤字の部分が、発生確率が上がっているとされる3つの断層のようですが
発生確率の数値自体は変わっていないようです。ようするに計算ではなく
定性的に「確率は上がっているだろう」という話かと思います。
by MANTA (2011-06-17 07:45) 

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