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事業仕分けと科学コミュニケーション(2) [ 科学コミュニケーション]

時間が空いてしまった上に、総理大臣も変わってしまったが、
事業仕分けと科学コミュニケーション(1)の続きである。

前回の記事末尾では「事業仕分け人には、科学技術の専門家をもっと加えるべきだ」
と述べたが、書きながら本質はもっと別にある気がしてきた。

理系白書 この国を静かに支える人たち (講談社文庫)

理系白書 この国を静かに支える人たち (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/06/15
  • メディア: 文庫


例えばよく「文系の理系支配」などと言われているが(例:上記本。内容すべてに同意は
できないが参考にはなる一冊)、それでは理系学部出身の人間を政策決定の場に多く
登用すれば済むのだろうか?  それでは駄目である、という良い例(悪い例?)が
鳩山前総理と菅新総理である。彼ら”最高意思決定者”たちは理系学部出身であるので
(東京大学工学部応用物理・計数工学科卒、東京工業大学理学部応用物理学科卒)
政権交代時から政府の科学的理解どの上昇について少しだけ期待をしていたのだが、
事業仕分けは前述の程度である(彼らの直接的指導や責任ではないにせよ)。

このように科学技術に対する知識をすっとばして、政策や予算の議論がなされるのは
なぜか?この国では科学技術は不要なのか?と思ったが、そうではなさそうである。

●86.8%が「国際的競争力アップのために科学技術の発展は欠かせない」
 http://www.garbagenews.net/archives/1307600.html
上記には「昔よりも今の方が、科学技術に対する必要性が高まっていることが
はっかりと分かる。」とも書かれてある。 それもそうだろう。下図を見てほしい。
新規作成_2.jpg
これはOECD諸国の一人当たり国内総生産(名目GDP)上位20カ国の推移である。
※「内閣府 国民経済計算確報」に加筆
 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h20-kaku/percapita.pdf
※次のサイトを真似してみました:http://toguchiakira.ti-da.net/d2007-12.html

1980年には3位であった日本は2008年には19位。20位中で順位を下げた国は少なく、
(矢印をつけた国のみ。破線矢印は順位が1つだけ落ちた国)、その中でも日本は断トツの
落ち込みぶりだ。米・英も順位を落としてはいるが、GDPそのものの伸び率は大きく、
日本の伸び率の低さは群を抜いていると言える。
また上表にはOECD加盟国ではない、中国・ブラジル・インド・ロシア(BRICs)は含まれて
いない。仮に含んだとしても、現時点ではBRICsのどの国も20位以内にはランクされないが
(参考:http://www.stat.go.jp/data/sekai/03.htm#h3-04)、GDPの伸び率は
非常に高く、日本が抜かれるのも時間の問題だろう。国別のGDPでは日本はもうすぐ中国に
抜かれて世界第3位になるそうだが、この資料からは凋落はとっくに始まっていることが
読みとれる。しかも内閣府の上記資料によれば、世界同時不況で急に順位を落としたわけ
ではない。2000年頃から徐々に転落して行っているようだ。

これを見ると、日本の国際競争力は低下していると言わざるを得ない。昨朝のNHKニュース
でも、日本への留学生数が減っていると報じていた。資源のないこの国としては、科学技術
の知恵で国を支えていくしかないのだ。先のアンケート結果はその期待の表れだろう。

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しかし必要だと思われながら、政治家や役人の科学技術に対する理解は何故進まないか?
たしかに最新の科学技術は先端化を極めており、素人が理解するのは困難だ。しかし前述の
「運動エネルギー」くらいは中高の理科で習っているはずであり、高度な専門知識は不要だが
それすら理解できていないように思われる。
新規作成_1.jpg

これは私の予想であるが、科学技術に携わっていない人々(理系出身でも政治家・役人など
その現場からは縁遠くなった人を含む)は、科学技術(自動車、エアコン、パソコン etc.)を
自分たちを"自動的"に幸せにしてくれるブラックボックスとしてとらえ、その使い方・使い道
だけを議論すれば政策や予算の議論をするのに事足りると思ってるのではないだろうか?
ならば基礎的な科学技術の知識すら不要と感じるだろう。しかしそれでは前述の通り、
科学技術政策に対する正しい理解と、科学技術の発展は望めないだろう。

この問題はようするに政治家・役人と科学技術者の間の「科学コミュニケーション不足」
である。どうすればこの問題を解決できるだろうか? まずは科学になじみのない一般市民
から、科学技術の面白さを広めればよいのか?(ボトムアップ) もしくは政策担当者に
科学コミュニケーターによる科学技術のレクチャーを受けてもらうのか?(トップダウン) 
草の根活動か? 国家的キャンペーンが必要か?
いずれにせよ、科学技術的リテラシーの欠如と、それでも科学技術に頼って生きざるを
得ないこの国の状況が、国家の問題をより大きくしているように思えてならない。

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一方で下記の様な意見もある。参考までに列記する。科学離れの理由を考えるときに
下記の提言等を今一度考えてみる必要があるだろう(自戒の念も込めて)。
(" "内は文中よりの引用)

●科学はコミュニケーションの「敗北」に向き合えるか(Nikkei Net)
 http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT11000010122009
 ”社会とのコミュニケーションを重視しない研究者は論外だが、コミュニケーションの必要性を
 訴えている研究者も、実は「科学の重要性など言わずもがな」といった姿勢に立ち、それを
 広めるための手段として位置づけてはいないだろうか。”

●事業仕分けに必要だったのは科学コミュニケーションなんかじゃないよね
 (ブログ「B サイエンスコミュニケーション」さん)
 http://btobsc.blog25.fc2.com/blog-entry-351.html
 "ある場面においては科学技術のすばらしさを伝えるだけでは駄目なんだよね。"

●最先端研究予算の5億円は科学コミュニケーションに(サイエンスポータル)
 http://scienceportal.jp/news/daily/1004/1004022.html
 "内閣府の担当者は「30課題の中心研究者が一堂に会するシンポジウムなども
 考えている」と話している。"

●科学コミュニケーションは本来2系統に分かれる:そして今必要なのは第3の系統
 (ブログ「大「脳」洋航海記」さん)
 http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=3806
 "今現在あまり科学に興味のない人々にとっては「オタクの薀蓄」ぐらいにしか
 思われない危険性があります。"

●科学との正しい付き合い方(ブログ「瀬名秀明の時空の旅」さん)
 http://senahideaki.cocolog-nifty.com/book/2010/05/post-d4f8.html
 "私たちにとって何よりも重要なのは「スジのよい好奇心」である。"
 "狭義のサイエンスコミュニケーションに熱心な人たちは、(立証しろといわれると
 難しいが)ある種独特の雰囲気を持っており、仲間内での団結力が強いように思う。"
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viking

拙ブログの記事をご引用下さいましてありがとうございました。

>科学技術(自動車、エアコン、パソコン etc.)を自分たちを
>"自動的"に幸せにしてくれるブラックボックスとしてとらえ

とのことですが、実は拙ブログでもその問題を取り上げたことがあります。
http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=2906
http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=3612
何かのご参考にでもしていただければ幸いです。
by viking (2010-06-12 11:30) 

mushi

 コミュニケーション不足は本当に感じます・・・。

 根本原因として、そもそも理系と文系がやたらとはっきり分かれている状況が良くないのかな、などとも思っています。国際学会に参加したことすらない身でこんなことを言うのはおこがましい限りですが、英語にはそもそも「理系」「文系」に相当する単語がないと聞いたことがあります。実際、海外には「文学博士かつ理学博士」みたいな人はそれなりにいると聞いたことがありますが、日本ではそんな人はほとんど見ません。
 過剰なまでのセクショナリズムは良くも悪くも日本の特徴だと思いますが、「若い頃から理系と文系の厳格なまでに区分する」ことは、かなり問題ではないかと思っています。
 結果、いわゆる文系は「私は理系のことなんか分からないから」と開き直りますし、いわゆる理系は「私は政治や経済や歴史とかには興味ないから」となってしまうのかなあ、と。イコール、ブラックボックス化かもしれないですね。
 簡単に言うな、と学校の先生からは怒られそうですが、理系と文系の垣根を低くできないものかな、と思っています。そうすれば、文系は理系的な考え方を、理系は文系的な考え方を、理解しやすくなるのかではないか、と。そうすればコミュニケーション不足も改善するのではないか、と思います。 
 取り留めないコメントになってしまいました。
by mushi (2010-06-12 23:31) 

MANTA

vikingさん、記事ご紹介ありがとうございます。拝見いたしました。
http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=3612
に書かれておられる、”「そのサイエンスがいかに誰にとっても身近な存在で
あるか」をアピールしていく必要があるはず”に同意します。科学者自身、
「基礎科学」「応用科学」と分けて考えがちですが、聞く側にとってはそれは
実は大した差はなく、自分にとって重要か、興味の範疇か、だけなのでは
ないか?と思っています。

by MANTA (2010-06-13 16:52) 

MANTA

mushiさん、理系・文系の垣根は確かにありますね。大学ではいまも、文系
学部と理系学部に綺麗に分かれてますし(分かれていない学部は、学部
の「中」で分かれてる)。社会人の方でも「私は○十年前に、△△大学で
××先生に教えを乞うて」とその「血統」を自慢げに話される方が多い。

ただし私個人は、「理系だ!文系だ!」といっても、多くの方々の科学技術
への関心度の低さには実は大した差はない(=期待してるが、関心は薄い)
のではないか?と思っています。先日もある方が講演会で「大学で習った
ことは、卒業後20年間、1度も役に立たなかった」とおっしゃってました。
理系と言っても最先端の科学技術が常に必要と言うわけではないのです。
ブレークダウンされた最新科学情報を文系理系問わず学べる雰囲気が
今の日本社会には欠けているように思います。
by MANTA (2010-06-13 17:17) 

mushi

 記事にもされている(私も記事にしてみました)はやぶさのドラマは、本当にいい例でした。これほど「ブレークダウンされた最新科学情報を文系理系問わず学べる雰囲気」が醸成されたことは久しくなかったような気もします。

 確かに、理系と言われる人の中にも、自分の専門分野外のことには関心が薄い人はいますよね。私自身もそうかもしれませんが。その意味ではあまり理系と文系に差はないのかもしれませんね。
 理系といえど(専門外の)最新科学情報を学べる雰囲気に欠けている、という意見には全く同感です。が、「では君は、最新科学情報を提供するよう努力しているのか」と突っ込まれそうです(私が最新科学情報を提供できるような身か、というのもありますが)。
 まったく月並みな意見ですが、「発信するほうも受信するほうも、お互いがんばろうよ」ということになるのでしょうかね・・・。
 あいかわらずまとまりのないコメントでした。
by mushi (2010-06-15 23:04) 

MANTA

>確かに、理系と言われる人の中にも、自分の専門分野外のことには関心
>が薄い人はいますよね。私自身もそうかもしれませんが。その意味では
>あまり理系と文系に差はないのかもしれませんね。
mushiさん、そういう研究者はたくさんいますね。
科学コミュニケーションを受けなければいけないのは、実は理系の研究者
だったりして!?
by MANTA (2010-06-16 08:29) 

素風

拙宅ではばりばり理系で技術者の夫とどっぷり文学系の私の間に暗くて深い溝が…特にないかな。話題が科学であるなしにかかわらず、コミュニケーションが成立しない場面というのは前提条件が共有できていないケースが多いかなー、と思います。世の中の文系の皆さんがすべてそうではないのかもしれませんが、私は理系の皆さんの思考や知識に興味津々ですよー。

今回の事業仕分けは残念ながら政治ショーの色合いが濃く、とりあえず目に付くもの全部ばっさりぶったぎってやった、という感が無きにしも非ずですが、派手にやることではじめて危機感を共有できたところもあったのかもしれない、と思わないでもないです。
ただし科学技術関連事業の削減については疑問を持っています。長期的に国力を維持・増強することをシンプルに考えるならば、まず得意分野を伸ばすことが必要になります。日本が他国に比べて得意なこと、といえばぱっと思いつくのは科学技術分野ですものね。ここに力を入れずしてどこに、と思いました。
by 素風 (2010-06-18 12:41) 

おおくぼ

「事業仕分け」は経済を良くするのか、悪くするのでしょうか?

参考「蓮舫大臣は発言を修正」

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100617/plc1006172012013-n1.htm

1兆円と数十億円削減しても、プラスの効果よりもマイナスの効果の方が大きいのでは?

経済学の授業では、デフレの時はデフレギャップを埋める政策をすべきと習います。
ちなみに現在の日本のデフレギャップは最低でも40兆円以上です。
しかも乗数効果(経済的な波及効果)の高い投資をしなければ、焼け石に水になってしまいます。

http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-10395538182.html

デフレの時は、市場を活発にする政策をしなければいけないのです。
これはFRBのバーナンキ議長やノーベル賞経済学者のクルーグマンもいつも言っていることで、経済学の教科書の「基本の基本」です。
by おおくぼ (2010-06-18 19:30) 

MANTA

>話題が科学であるなしにかかわらず、コミュニケーションが成立しない場面
>というのは前提条件が共有できていないケースが多いかなー、と思います。
素風さん、まるでディフェンスの最終ラインとミッドフィルダーとの意思共有が
うまくいかずスペースが空きすぎると、オランダの攻撃を止められない、と
いうのと同じことですね!(すみません、オランダ戦の前のNHKの解説を
聞きながらお返事しております)

>今回の事業仕分けは残念ながら政治ショーの色合いが濃く、
----
>「事業仕分け」は経済を良くするのか、悪くするのでしょうか?
素風さん、おおくぼさん、コメントありがとうございます。
以前の記事に書いた通り、事業仕分けは財務省のシナリオ通りなので
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2009-11-19
良くも悪くもなりません。多少きられた予算はあるかもしれませんが(科学
予算とかね)、大局的には自民党時代と同じく「これまで通り」です。政治
主導で中身のあることをやれればよいのですがパフォーマンスに過ぎません
でした。今回の参院選も同じくパフォーマンス大会になるかもしれませんね。
by MANTA (2010-06-19 19:48) 

China Rose

美術館はおいしそうですね。
記事アップから二か月たっている、理系・文系の話ですが、学部によって学生の(関心事のみならず)性格に差があり、またさらに学部内でも違います。最大限「わかった」を増やそうと思うと、同一のテーマでも、別の切り口と方法が必要になる気がしますし、極端にいうと言い回しを変えるだけでわからないものがわかったりすることが普通にある気がします。たったそれだけの工夫がなぜできづらいか。
対象とする現象に対して、極めて狭い視点と語彙によるnarrativeを付加するだけが論文ではないはずなのですが、その分野内ではそのほうがわかりやすいことになっているので、研究者自身が、ほんのちょっとの工夫のしかたがわからないのではないかと。
専門家という素人、より近い専門分野を持つ専門家という素人、専門家よりわかっているところのある素人、すべてある意味では素人です。みんなのコミュニケーションをうまくとるための「学際コンシェルジュ」みたいのがいるといいような気がします。が、それさえ編集者だったり業者だったりするのが実情で、つまり必ずお金がからんでしまって、お金がからむのが逆に研究になってしまって、っていう現状、でもそこに「人にお金をかける」「見えない技術にお金をかける」って考えはないでしょ?そういうあり方しか学問はできないのか?っていうのが問題の核心なような気がしますけど。以上、とりとめなくてゴメンナサイ。
by China Rose (2011-08-18 10:13) 

MANTA

>対象とする現象に対して、極めて狭い視点と語彙によるnarrativeを付加する
>だけが論文ではないはずなのですが、その分野内ではそのほうがわかりや
>すいことになっている
China Roseさん、上記のお話、とてもよく分かります。実は関連してちょっとした
お話をUPしようとしています。またお読み頂ければ幸いです。

あ、ちなみにこの記事、1年と2ヶ月経ってます~ (^^)

by MANTA (2011-08-19 12:53) 

China Rose

二度コメすみません。
そうでした、この記事、昨年ですねえ。
また、ざるそばの件、ねこぢるをご存じなくても(つまり鋳型や下敷きがなくても)「ぢるそば」と読まれる方だったのですね、了解。

地震予知の、マヂ興味深いお話をアップされた本日に震度5弱があったので、おののいております。こちらは震度4。
よく釣りにゆく知人がいて、その知人の知り合いで3月11日、震源に近いところに漁に出ていた方々は、海の上に巨大な水柱があがったのを見たとおっしゃっていたそうです、で、戻ったら港が無かった、と…。
明日のアップを楽しみにしております。
by China Rose (2011-08-19 16:23) 

MANTA

>海の上に巨大な水柱があがったのを見たとおっしゃっていたそうです
え、これって地震の前じゃあないですよね??
まさか、巨大な魚が地震の前に暴れたとか? NA・MA・ZU…
by MANTA (2011-08-20 19:33) 

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