電磁気で地震予知 ~ゆっくりすべり(5) [ 知識ゼロから学ぶ地底のふしぎ]
前回の記事にこのような質問を頂いた(SAKANAKANEさん、ありがとうございます)。
Q.”ピエゾ素子みたいなモノを埋め込んで、モニタリングとか出来ないのかな~?”
地下の圧力などを直接を測るのは残念ながら現時点では難しい。地震は地下10kmよりも
深いところで起きる場合が多い。その深さの圧力あるいは地盤の歪みを測るためには、地下の
5kmや10kmなどにセンサーを埋め込まないといけないだろう。数カ所程度は可能かもしれないが、
日本中に何十何百と設置、とはいかない。このあたりが簡単に測ることができる「大気圧」を使った
天気予報とは大きく異なるところだ。まずは地表や海底で観測できることでどこまで分かるか?
その上で深井戸を掘るということになろうか?このあたりは後日、もう一度触れることにしよう。
さて、連載「電磁気で地震予知」の続き、最近の地震予知科学の進歩を振り返ってみよう。
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進歩その4:GPSや地震観測網によって「ゆっくりすべり」が発見された。
おそらく近年の地震予知科学の最大の発見は「ゆっくりすべり」だろう。「ゆっくり地震」と
呼ばれることもある。「ゆっくりすべり」とはなにやらユーモラスな名称だが、断層が数日~
数ヶ月(あるいは数年?)かけて静かにゆっくりとずれる現象だ。ずれる量が大きい=
マグニチュードが大きくても地面が揺れないので、周辺に被害は発生しない。
ゆっくりすべりの他にも「低周波地震」「低周波微動」「超低周波地震」なども発見された。
これらはマグニチュードの大小や揺れの継続時間などに違いがあるものの、
同じ大きさの普通の地震と比べるとゆっくり長い時間揺れることが特徴だ。
これらの検出に大きな役割を果たした物は、ここ10年ほどで整備された「GPS地殻変動
観測網」や「地震観測網」だ。例えば高感度地震観測網「Hi-net」を紹介しよう。
●防災科学技術研究所 Hi-net 高感度地震観測網
http://www.hinet.bosai.go.jp/
Hi-netでは全国約800ヶ所に井戸を掘って、地盤が安定している地下深くに地震計を
埋めている。柔らかい堆積層の揺れ(ノイズ)を軽減できるので、微弱な地盤の揺らぎを
高感度で観測できる。さらに地震計を入れている井戸が地面と一緒に「じわー」と傾く様子も
観測している。その結果、例えば2006年1月には、東海地域の広い範囲で「ゆっくりすべり」
と「低周波微動」が同時に観測できた。
※詳細はこちら
→ 旅する「ゆっくり地震」 http://blog.so-net.ne.jp/goto33/2006-12-09
※元ネタはこちら
2006年1月の東海地域における移動性スロースリップ 及び深部低周波微動
http://www.hinet.bosai.go.jp/research_result/tokai2006/tokai2006.pdf
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さて被害も起こさないし、人が感じることができないような「ゆっくりすべり」が、地震予知に
とって重要なのだろうか?
どうやら重要らしい。
というのも、前回紹介した「地震の際に大きくすべる断層の箇所=アスペリティー」と
「ゆっくりすべりが起きている場所」は、互い重ならないことが分かってきたからだ。
「ゆっくりすべり域」と「アスペリティー」は棲み分けている
この発見によってアスペリティー以外の断層面の状態が分かってきた。すなわち、
○ ゆっくりすべり域=普段から断層面はチョイチョイゆっくりとすべっている
=歪みがたまらない=大きな地震がおきない
○ アスペリティー=断層面がくっついている=地震の時にバリっと割れる!
しかも、ゆっくりすべりによって、地面はゆっくりと、しかし大きく変形していく。アスペリティーの
部分は断層面がくっついたままなので、その周りには変形のしわ寄せ=歪みがどんどんたまって
いく。つまり、ゆっくりすべりは次の地震発生に大きな影響を与えると考えられている。
それが「ゆっくりすべり」に多くの研究者が注目する理由なのだ。
詳しくはこちらの記事をお読みいただきたい。
→「巨大地震とゆっくり地震」 http://blog.so-net.ne.jp/goto33/2006-12-11
つづく。次回は「地下構造の複雑さと地震」です。
記事を読んでおりますと…だんだん賢くなってくる気がします。多分。
by yann (2008-02-10 23:32)
素人考えで質問して、お恥ずかしい限りです。
「ゆっくりすべり域」と「アスペリティー」の境界域が危ないんですね。
知らなかった事を色々と教えて頂いて、とても為になります。
by SAKANAKANE (2008-02-11 09:07)
- yannさん、ありがとうございます。できるだけ簡単に書くよう心がけ
ております。そのぶん、厳しいツッコミもくるかもなぁ…覚悟の上です(笑)
>素人考えで質問して、お恥ずかしい限りです。
SAKANAKANEさん、そんなことありません。
素朴な質問が、科学者を一番ドキッとさせるもんです(^^)。
地震は台風や雷と同じように、地表で感じられる気象現象としてとらえられて
いますが、実際には地下深くで起きていること、そこへ直接アプローチする
のが難しいこと、これが地震予知を難しくする一因なんです。
>「ゆっくりすべり域」と「アスペリティー」の境界域が危ないんですね。
おっしゃるとおり、そこがキーだと思います。境界はどこか?そこにどの程度
歪みがたまっているか?を知ることが次へのステップです。
ただ境界付近から断層面がずれ始めると、アスペリティー全体は一気に
すべって地震になりますので、「アスペリティーの周りは全部危ない」です。
by MANTA (2008-02-11 09:38)
こんにちは
最近ホットなこの地震については、科学雑誌でもよく取り上げられています
Natureにもたびたび解説記事が出ています
by Murano-Brain (2008-02-11 11:52)
私も「センサーを埋め込んで圧力を測るといいのかしら」などとうっすら考えていたので興味深く拝読しました。次の記事も楽しみにしています。
by (2008-02-11 16:04)
旅する「ゆっくり地震」おもしろいですね。こっちには来て欲しくないけど。
by すうちい (2008-02-11 18:28)
>Natureにもたびたび解説記事が出ています
上記の「ゆっくりすべりや低周波地震の法則性」もNature論文ですね。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info/press/press-2007-03.html
これからさらに注目されると思います。
素風さん、地面が単純な岩石の固まりであれば地表付近で圧力を測る
だけでよいのです。ところが地下は複雑ですし、地震がおきる断層は
複雑さの最たるものです。なので地下深くで測らないと、地震が起きる
その場所の圧力(応力)を知ることは難しそうです。
>旅する「ゆっくり地震」おもしろいですね。こっちには来て欲しくないけど。
ゆっくりすべりがおきるところは、巨大地震はこないかもしれません。
むしろ大歓迎かも??
by MANTA (2008-02-12 12:12)