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ここがおかしい「日本沈没」2 (メガリス) [ 連載 Old..]

さてさて、前回のここがおかしい「日本沈没」の続きです。

今回の記事もネタバレありです

●そんなに早く日本は沈まない。
 じゃあ、日本はずっと沈まないのか?いやいやそうともいえません。映画の冒頭で説明がありますが、日本の下には「メガリス」と呼ばれる巨大な塊があります。これはマントル深くに沈み込んだ海洋プレートの成れの果て、というか墓場、ともかく「塊」です。最近は地球科学の世界ではメガリスと呼ぶより「スタグナントスラブ」(沈滞した海洋プレート)と呼ぶほうが一般的でしょう。このメガリスは地下660kmのマントル内部にたまっているのですが、あるとき一斉にマントルのもっと深いところ(深さ2900kmまで)へおちるのではないか、とも言われています。確かな証拠はまだありませんが、数値シミュレーションでは可能性はありそうです。このときにメガリスの真上にある日本はどうなるのでしょうか?メガリスは厚さが200kmくらい、幅が数千kmです。日本も多少沈むかもしれません。数kmくらい沈むかも? あ、日本、沈みましたね。


 マウスのカーソルを図にあててみてください。日本が沈みます…

映画の冒頭では米国の学者が「メガリス沈降によって、日本はあと40年で沈没する」といってます。その後、田所博士が独自の調査により「40年ではない、1年だ!」というのですけど、40年で沈没も十分恐ろしいですね。では40年で日本は沈んでしまうのでしょうか?

マントルってドロドロしたイメージがありますよね?でメガリスが沈んだら日本もあっというまに沈むと。たしかに地下は深くにいくほど高温になりますからドロドロしてそうですが、周りの圧力も高くなるのです。圧力が高いと、モノは硬くなりドロドロ状態ではなくネバネバ状態になります。ではマントルはどれくらいドロドロ?あるいはネバネバなのでしょうか?ここではガラスを例にとって考えましょう。ガラスは温度が高いとサラサラと流れますが、温度が低くなるにつれネバネバしてきます。どこかの温度で一気に硬いガラスになるわけではありません。そこで、ガラスが垂れる速度が1分間に1mm程度になったときに、「ガラスが硬くなった」と判断することになっています(粘度 Wiki)。結構遅いですよね。見てると眠くなる速度です。仮に、この硬くなりたてのガラスとマントルが同じくらいのドロドロ具合としましょう。またメガリスや日本列島の沈む速度が、マントルの垂れる速度と同じとしましょう。ちょっと速いかな?まあためしに。すると1分で1mm沈みますから、1日で約1.5m、1年で約500mです。40年で約20000mも沈みます。お、1年は無理ですけど、40年あれば日本沈没?

ところが実際のマントルはこの硬くなりたてのガラスよりなんと!10桁以上もネバネバなのです。10倍じゃないですよ、10「ケタ」以上です。もう「マントルは硬い」といったほうが良いですね。そう、マントルは硬くなりたてほやほやのガラスではなく、皆さんの部屋にもある普通の窓ガラスと同じくらいの「硬さ」なのです。「えーっ、じゃあマントル対流ってウソ?」 いえいえ、ガラスは固体ですが、実は液体の性質もあわせ持っていて、「常識を超えるくらいねばっこい液体」と考えることもできるのです(詳しくはガラス Wiki)。おそらく、硬い窓ガラスでも何百年もの長い時間がたつとゆーーーーーーーっくりと垂れ下がっていって、そのうち上のほうよりも下のほうがほんの少し厚くなってくるでしょう。実際には雨風やホコリ、日射の影響が大きいので、窓ガラスの垂れ下がりをちゃんと測った人はいないようですけどね。マントル対流もこれくらいゆっくりなのです。仮に今日、メガリスが落ち始めても私達が生きている間は日本はどれだけも沈みません。結局はプレート運動の速度である1年で数cm程度がマントル対流の速度でもあるのです。人の一生をかけてやっと2m程度沈みます。日本全部を沈めてしまうにはどんなに速くても数十万年は必要です。

まだつづく。

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艶☆2号

いつも楽しく拝見しております
日本沈没の判りやすい解説、嬉しいです
前作の日本沈没の頃、竹内さんの本を沢山読んだものでした
今回の日本沈没にも、キュートな本物が出て欲しかったです(笑)
あまりにも素晴らしい記事に感激、
私の日本沈没の記事で紹介させていただきました!
事後承諾で申し訳ありません、笑って許していただけたら嬉しいです
by 艶☆2号 (2006-07-24 17:01) 

Niceとコメントありがとうございます。
MANTAさんのブログを読ませていただきました。
映画を観ただけでは難しくて理解不能だったことや疑問がわかりやすく解説してあったので読みふけってしまいました。
解説の続き楽しみにしています。
by (2006-07-25 00:06) 

いとまっち

わかりやすいご教授ありがとうございます。
でも地殻は沈没あれば隆起有り、ですよね。日本の隆起山脈とかは今も育ってるし…。
それにモホ面の振動で周囲の国もきっと大変なことに。。。
「みんなで沈没♪」ならさみしくならないのでいいです(笑)
by いとまっち (2006-07-25 01:35) 

MANTA

- どしどしご紹介ください! > 艶☆2号さん
科学的根拠、というより妄想力をマンガと写真で補ってるサイトではありますが(苦)

わかりやすいといっていただけるのが一番うれしいです > いとまっちさん
これからもぱっとわかる記事を書きたいと思います。それがこのブログでの目的でもあります。

shigeさん、そうなんですよ、次の記事でかきますが隆起もするのです。
周りの国のことはあまり考えませんでしたが、韓国や沿海州は影響大でしょうねぇ。
「日本隆起」という小説もありかも?
by MANTA (2006-07-25 06:39) 

mame-daihuku

こんにちわ。
ここの解説で、ちょっと安心?しました^_^;
阪神体験者としては、恐怖の何者でもありませんでしたから。
今は違う県に住んでいますが、映画ではいち早く地図上で消えていたので、
また上乗せで、恐怖が増していました。
by mame-daihuku (2006-07-25 08:38) 

MANTA

- コメント&Nice、ありがとうございます。
被災された方だと、映画とはいえあの「ゴーッ」という音を聞くとハッとされるのではないでしょうか?私は当時京都で深度5でしたか?たいしたことなかったですけど、地震の映像をみると変な汗をかきます。
といいながら、どうやったら科学的に日本が沈むかを考えていたりします… 近日公開予定です。
by MANTA (2006-07-25 19:55) 

固体マントルの流動性の説明は鉄の説明が適当

固体マントルの流動性の説明は、強固な鉄に長い時間をかけて力を加えていくと、序々に曲っていく。この現象から固体であるマントルの流動性の説明が出来ることを、東大名誉教授の 故 竹内先生が1973年東宝公開「日本沈没」のなかで講義されている場面を思い出しました。
この旧作はなかなか良く出来ていて、私は旧作の方が好きです。
内容はオールスターに近い俳優構成で、丹波哲郎が現実にいそうな総理大臣役を演じています。この映画の社会人はみんな大人びていて、現実社会に本当にいそうな人たちをベテラン俳優陣が演じています。大企業の課長、部長クラスのオジサン達がそれぞれの役を存在感や風格に厚みをもって真実感をもって演じています。
普通の社会だったらこんな感じの年齢層で構成されているなって感じです。すごくリアリティーがあります。見ていない方は是非一度73年度版「日本沈没」をご覧ください。
by 固体マントルの流動性の説明は鉄の説明が適当 (2006-09-06 12:51) 

MANTA

- 昔の日本沈没、まだ見てないのです。みたいなぁ。
たしかに鉄は曲がりますが、これは金属結合の特性です。でもマントルの流動性の説明としてはわかりやすい…かな?
by MANTA (2006-09-07 06:57) 

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