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スペースシャトルの落日 [▼科学ニュース New!]

忘れもしない、ある年の冬だった。スペースシャトル"チャレンジャー"が爆発した。すでに地球や宇宙のことを研究したいなぁと漠然と思っていた私には、大ショックだった。たぶんこの頃まで、科学は人類に夢をあたえる万能の玉手箱だ、とおもっていたのだろう。また、科学は万能ではない、と感じ始めたのもこの事故からだろう。それは私だけではなかったかもしれない。

時がたって2004年の"コロンビア"の空中分解事故のあと、違った意味でショックだったのは「2010年にはシャトルを引退させる」というアメリカの発表であった。なぜこれほどまで成功を収めた(と私は思っていた)宇宙船をやめてしまうのか、いまひとつ理解できなかった記憶がある。

そんなことが気にかかりつつ本書を読み、スペースシャトルのかかえる問題が少し理解できた。

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~

スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~

  • 作者: 松浦 晋也
  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2005/05/12
  • メディア: 単行本



大きな問題は「翼をつけたこと」だ。これはマスコミでも多少報道されているが、本書の説明は明快である。詳細は本書、あるいはブログ「Yanのプリ日記」さま(http://sopetioyan.exblog.jp/2645416)に詳しい。こちらのページにはWikiへのリンクもあり、そこにも情報がたくさんある(シャトルのうつくしい写真も)。さて本書では、「翼」の背景の一つとして「公共事業としての米国宇宙政策」を指摘している。「翼を持った新しい宇宙船」は納税者である米国国民に宇宙開発時代を身近に感じさせるための重要な要素だったわけだ。私も素直にそう思っていた。だが、ほとんどの時間帯では役に立たない翼は、重い分だけ宇宙に出るためには無駄なのである。「翼があると空を飛べる、軽い」というのは錯覚なのだ。錯覚は科学技術の世界でもしばしばおきる。「これはこのはず」と思い込んでいるときは、簡単なことも見えなくなっている。いやこれはいいわけだ。尊い人命を乗せるモノとしては企画や設計自体に無理があったといえる。

「重さ」も問題だ。再利用できるシャトルそのものこそ重い。シャトルに搭載できる貨物は10トン強、シャトル全体の重さは120トン。国際宇宙ステーション(ISS)は個々のモジュールをシャトルで何回も運んで宇宙で組み立てることにより完成にいたるが、地上で全部組み立ててシャトルなしで打ち上げたほうがいいかも?うーむ。再利用方式あるいはペイロード方式に問題があるのだな。

さらに本書にはあまりかかれていないが、シャトルの運用体制はいまも危うい。
●NASA Perplexed at Trail of Mishaps
 http://www.space.com/news/ap_060407_shuttle_mishaps.html
4月の記事で恐縮だが、シャトル整備中に多数の事故(死亡事故や火事も)があり、これがシャトルの打ち上げスケジュール遅延の一因である、と記事では述べられている。その原因は忙しさ。従来はシャトルを1機だけ準備していたのに、コロンビアの事故以降は軌道上でトラブルを起こした場合のバックアップ機とあわせて2機整備する必要がおきているのだ。加えて作業員はNASAの雇用ではなく民間企業の雇用のようだ。そういえば日本のロケット打ち上げも今は民営会社がやっていて、最近は連続して打ち上げていたっけ… 日本は大丈夫なのか?

当初は7/1に打ち上げ予定であったスペースシャトル「ディスカバリー」は、いろいろあったが今日未明に打ち上げ成功したようだ。よかった。無事帰ってこいよー。しかしこのペースではISSはいつ完成するか分からない、というか完成しないのでは? ISSはもう仕方ないかもしれないが、日本独自の宇宙プロジェクトを考えていく時期に来ているように思う。

…ところで今回は本書を図書館で借りたのだが、しおり代わりなのだろう、レシートが何枚かはさんだままだった。この本を借りた人たちは、市谷でアイスコーヒーを飲み、東小金井でラーメンを食べ、あるいは大学生協で食事しつつ、宇宙のことを考えていたのかもしれない。わたしもみんなも宇宙が好きなのだ。

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おまけ
NHK-BS海外ドキュメンタリー「検証・チャレンジャー事故」というのが先日放送された。ブログ「まんぷく::日記」さま(http://d.hatena.ne.jp/manpukuya/20060529/bsd)で知ることができ、録画成功(感謝です!)。みなきゃ。

おまけその2
NASAの次世代ロケット、羽はついてないね。
次世代ロケット名はアレス NASA、「火星」の意味
画像はこちら
http://www.nasa.gov/mission_pages/exploration/spacecraft/ares_naming.html
(Maguroさんのブログより情報頂きました!)
http://d.hatena.ne.jp/Maguro/20060517/1147866302


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コメント 7

ちゃめ

 チャレンジャー事故。
 高校生だったかな?
 『The Right Stuff』という映画に著しい影響を受け、当時、航空学科に行きたいと思っていた私にとっても、衝撃的な事故でした。
 宇宙開発はお金が掛かるから、国民向けの判りやすい成果がいるんだろうね。
 NASAはフライングボディを研究していたから、シャトルの形状はもっと違うものになってたのかもね(たとえば、ちょっと前に盛んに宣伝された日の丸シャトルみたいな感じ、ボディ形状で揚力を発生?)。
 リンク先を読みにいって知ったのだけど、液体燃料エンジンはリフトオフの際には非効率なんだね。
 だから最近の「未来の往還機」の予想図では、往還機はロケットの先端に乗っかってるのかな?
 効率を考えると、やっぱり、軌道エレベーターを建設するべきなのか?
by ちゃめ (2006-07-05 10:02) 

Yan

TB、どうもありがとうございました。^^
本日、いくつか断熱材がはがれてしまったようですが、無事打ちあがって取りあえずは一安心というところでしょうか?^^;
松浦さんの本の受け売りになるのですが・・・
コメントで液体燃料エンジンが非効率とありますが、液水液酸によるエンジンが、打ち上げ直後の状況にはあまり向いていないのです。しかしこのエンジン、宇宙空間では最高の性能を発揮します。アポロを打ち上げたサターンVロケット、そして、今も使用されてるデルタ、アトラス、そしてソユーズは第一段に液体酸素とケロシンを使用しています。液体水素・酸素の燃焼の結果噴射されるガスは水蒸気ですが、ケロシンと酸素の化合物は各種酸化炭素、窒素酸化物などになり、分子量が水蒸気より大きいため、ガスの噴射速度が低いにもかかわらず推力が出ます。しかし、宇宙空間の高速で移動する状態では液酸液水の高速噴射が有効になるのです。
松浦さんは別の本で、日本の実力の手に届く範囲で有人宇宙開発をすべきという趣旨の本も書かれています。これらの本にキーワードのように出てくる言葉。「自分の頭で考える」。先入観にとらわれず、何が最適で、何が問題なのかを自分自身で考えてみるというのは、日本に限らず、そして宇宙開発に限らず、当てはまるんじゃないかなと感じています。
by Yan (2006-07-05 12:53) 

Maguro

ブログを引用していただきありがとうございます。
僕は、スペースシャトルについての予備知識を大してもたずにこの本を読んだため、衝撃を受けました。
確かに、24年間は失われたのかもしれないが、NASAも方針を変えたことだし、生きている間には宇宙が身近なものになってほしいものです。
by Maguro (2006-07-06 17:29) 

MANTA

- 高校の頃でしたね > ちゃめさん
日の丸シャトルも技術的な面で相当むずかしいようですよ。大気圏突入中の超高速状態と、着陸前の低速状態の双方で機体を安定させることができないらしい…と本書にはかかれてました。ぜひご一読くださいな。

- Yanさま、ご覧いただきありがとうございます。なんかまた、軌道上でシャトルの点検をする、とかいってるようですね。なにしに宇宙にいっとるんだ?ISSはいつまでたっても完成しそうにないですねえ。

- Maguroさま、コメントありがとうございます。NASAの方針はそれはそれとして、日本は独自にプロジェクトを進めたほうがいいと思います。たとえば、ポッド型の離着陸可能シャトル開発はアメリカは失敗続きだそうですが、日本は試験機の開発に成功してるそうですよ。
by MANTA (2006-07-07 08:56) 

LH2

はじめまして。
海洋研究者の方がこんなに詳しくてためになるBlogを作っておられるとはすばらしいですね!

スペースシャトルの主翼についてですが、あれはクロスレンジ(滑空能力)を大きく取るためというのが根本的な理由です。
シャトルはNASAとアメリカ空軍の共同プロジェクトで、空軍はシャトルを極軌道に乗せ、地球を一周したところで帰還させる偵察ミッションを計画していました。(実際に軍事ミッションが多数行われました。)
しかし人工衛星の軌道面は宇宙空間に対して固定されているので、地球上の軌跡は地球一周にかかる時間の間に地球が回転した分だけずれてしまいます。そのため、ずれの分を滑空で取り戻すためにあのような大きな主翼が必要となったそうです。
by LH2 (2006-12-13 00:17) 

MANTA

- コメントありがとうございます。私のほうこそ、みなさんのコメントで楽しく勉強させていただいております。感謝感謝 > LH2さん
シャトルの軍事利用側面はあまりかたられませんが、そうらしいですね。シャトル計画は終わりますが、軍は独自にシャトル型の宇宙船を開発するとのこと。よほど翼が必要なようです。
根がSF少年なんで、宇宙ネタもちょいちょい取り上げてます。またお越しください。
by MANTA (2006-12-13 07:38) 

MANTA

- 追記です。これこれ。
「米空軍、NASAのX-37軌道実験宇宙船の開発計画を継承・軍専用のシャトルを開発へ」(Technobahn)
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200611210200
by MANTA (2006-12-13 07:58) 

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