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失敗と復旧、カミオカンデの場合 [▼科学ニュース New!]

宇宙から飛来する素粒子ニュートリノを観測する巨大施設「スーパーカミオカンデ」の復旧がほぼ終了したらしい。
「スーパーカミオカンデ 復旧工事完了 報道関係者に公開」
スーパーカミオカンデは50000トンの純水と約11200本の直径20インチの光電子増倍管で構成される実験施設であり、ニュートリノに質量があることを世界で初めて発見した実験施設として有名だ。またその前身の「カミオカンデ」は小柴昌俊氏がノーベル賞を受賞したことでもっと有名だ。あの事故は2001年、かれこれ5年も前のことだったか。センサーである光電子倍増管約が約7000個も割れてしまったのだ。

多数の光電子倍増管が破裂してしまった原因は”爆縮”と考えられている。スーパーカミオカンデの巨大水槽の底でガラス製の倍増管が壊れると、そこへ高圧の水が一気に流れ込む。このとき壊れた倍増管の周りには、強烈な吸い込み流が発生する。これを爆縮と呼ぶ。爆発の逆である。スーパーカミオカンデの完全再建の事故原因究明等委員会の報告によれば、爆縮地点から50cm離れた場所では130気圧の衝撃波が発生したらしい(!)。この衝撃波のためにとなりの倍増管が割れてしまう。あとはドミノ倒しの要領で、破裂の連鎖反応は止まらない。結果として多くの倍増管が割れてしまったのだ。例えるなら、事故前のスーパーカミオカンデの壁にはちょっとした爆薬が無数についていて、一つ火がつけば連鎖爆発してしまう状態だったといえる。

同様の爆縮は海底でもおきる。たとえば潜水船「しんかい6500」では基本的にはガラス製耐圧容器をつかんだり持ち運ぶ事はできない。耐圧ガラス球の爆縮がしんかい6500に影響をあたえる可能性があるためだ。またガラス製耐圧容器を多数使用する観測機器の場合(たとえば係留系:伊豆小笠原海溝を流れる深層海流の観測)、一つのガラス容器が割れてしまうと、周りのガラス容器も連鎖的に割れることがある。

では、スーパーカミオカンデではどうやって爆縮を防ぐことにしたのか? スーパーカミオカンデの完全再建によれば、光電子倍増管にアクリル製などの透明のカバーをつけたのだ。爆縮時にはこのカバーも破れてしまうが、高圧の水が流れ込む速度を遅くすることができる(カバーはガラスよりやわらかいので、バーンとは壊れずに伸びながら壊れるかんじ)。そのため爆縮時に発生する衝撃波を数気圧程度に抑えることができたのだ。このカバーのおかげで、仮に倍増管が1つ割れてしまっても連鎖的に割れる事は防げる見通しがついたようだ。この工夫は海底での連鎖爆縮防止にも役立つ技術かもしれない。

科学計測にはやはり失敗はつきものである。大きい場合は「事故」と呼ばれてしまう。その原因調査と改良ははかりしれない苦労を伴う割には、なかなか報われない地味な作業である。そもそも簡単に改良できるようであれば、はじめからやってるのであって、できあがってしまった装置を想定外のトラブルに対応できるようにする事は容易ではない。スーパーカミオカンデの事故から5年間、対策を練るための実験が無数に繰り返されたことは容易に想像がつく。関係者に拍手を送りたい。

とはいえ、光電子倍増管のカバーは完全には透明ではないので、倍増管で受けることができる光の量はおそらく減ってしまうことだろう。今後、光電子倍増管そのものの改良も必要だとは思われる。あちらがたてばこちらが立たず。科学技術最前線の戦いは尽きない。がんばれ!カミオカンデ。

おまけ
スーパーカミオカンデのホームページ。カミオカンデのSK検出器写真集(左側)に美しい写真がいっぱい。本物を見たくなるね。
・カミオカンデは神岡町にあるけど「ンデ」ってなんだろう?と思った人。カミオカンデは、Kamioka Nucleon Decay Experiment(神岡核子崩壊実験)の略なんだって。くわしくはスーパーカミオカンデ - Wikipedia


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ちゃめ

 そうそう、失敗から学ぶ事はめちゃくちゃ大きいんだけど、原因が判ってから考えると、すごく単純な事である事が多いよね。
「おまえ、これ考えつくやろ」というレヴェルのことだったりする。

 スーパーカミオカンデのincidentでも、incidentが起きてから考えたら「当たり前」なんだけど、incidentが起きる前は、優秀な頭脳が結集しているはずなのに、気付かなかったわけだ。
 気付いていた人がいるのかもしれないけど、多分一蹴されていたんだろう。
「そんな事、起きるの?」とか言われて。

 科学者にしろ技術者にしろ、一回痛い目に会わないと、それを学習する事はなかなか難しいだろうね。
 一回痛い目に会うと、次からは用心するもんね。
 それで学ばない人は、何度でもエライ目に会うみたいだけど。
 失敗に懲りずに前進することも、大事な要素だよね。
by ちゃめ (2006-04-11 21:14) 

MANTA

- 「懲りずに前進」、いい言葉です。>ちゃめさん
あきらめない限りは「失敗」ではないし、最後まで努力すればそれは単なる失敗ではなく、大いなる「経験」になるんですよね。失敗があったとして、どこまで粘るか、それからなにを学ぶか、次のステップはどうするか、このバランスが次の成功への秘訣と思います。
そんな「失敗」をふかーく考えさせてくれる本を、次の記事で紹介しますー
by MANTA (2006-04-12 08:59) 

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