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査読とは(5) ~査読者の心得その2~ [ 連載 Old..]

査読者のお話の第5回目だ。
査読者が査読時に心がける点のうち、3つ目は有効性だ。論文は読者によまれて価値があるものでないといけない。新しい内容であっても、その学会誌の読者=学会員にとって興味ある内容である必要があるのだ。すなわち、いくらすばらしい論文であっても、著者が投稿する学会誌を誤ってしまっては掲載には至らないのである。逆の例もある。学会誌ではしばしば特定のテーマに絞って特集や小特集を組んで普段は扱わないようなテーマを掲載することがある。著者はタイミングを合わせて投稿すればよい。特集や小特集の原稿募集は、学会のホームページなどで行われていることもあるので、チェックしてみる価値はある。ちなみに特集号は「ミニガイドブック」な要素を会誌に色付けしてくれるので、普段様々な分野の論文がばらばらと掲載されている学会誌にとって、マンネリ感を打破することができるし、また新規会員の開拓を行うチャンスでもある。

4つ目に必要なこと、それは論理の一貫性である。原稿の中で述べられた研究目的(明らかにしようとする謎)に対して、得られた結果を議論・解釈した上で、きちんと解答できているか?途中で使用した仮定は妥当か?といったことである。あらためていうこともない気がするが、査読を行っていると論理が一貫していない原稿もしばしば見受けられる。おそらく著者が自分の研究成果を大事に思うばかりに、「自分の結果やアイデアは正しいんだ」という思い込みの強さが論理的思考をくらましているのだろうと私は思う。冷静に、順序だてて論理を積み上げ、わかる部分とわからない部分を分けて考えないと、査読者にはすべてが嘘のように読める場合があるのだ。また途中の仮定も大事だ。仮定がいい加減だとそのあとの議論を積み上げることができない(査読者としてはその先を読むのが辛くなる)。「仮定」とは所詮、著者の言い訳である(仮定なしですべて議論できればよいのだが、有限の時間と能力の中では難しい場合が多い)。著者はぜひ上手な「言い訳」をするべきである。

これらに加えて完成度も重要な要素だ。いかにすぐれた論旨でも、図が汚れていたり、文章が難解であったりすると掲載には耐えない。どの学会誌でも「投稿規定」や「投稿細則」があり、論文の書式や書き方はきちっと決められている。これを守らないと、査読者が誤読する場合があるので、編集者の判断によってはそもそも査読プロセスにすら回らないことがある。

以上、査読者の心得を書いたつもりが、ところどころで「著者の心得」になっている部分もある。前述したように査読者はボランティアもしくはそれに近い形で査読に伴う多くの作業を引き受けるのである。スムーズでスピーディーな論文掲載を望むのであれば、著者は原稿投稿前にこれらの要点を自分なりに見直していただきたい、という私個人の思いが文面をゆがめてしまっているようだ。お許しいただきたい。いずれにせよ、査読者・著者の両名で、査読という学術的コミュニケーションを通じてあらたな科学的結果(=論文)を作り上げるのだから、ここに書いた5つの要点は互いに意識すべきであろう。

次回は、掲載の可否判断プロセスを含む編集者の仕事を述べよう。

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ちゃめ

地磁気に関するニュースを投稿したのでTBしたよ。
by ちゃめ (2005-12-16 21:51) 

おさけ

私の方のBlogにお越し頂きありがとうございます。
この記事が参考になったんでniceを付けたのですが、
コメントをまったく残さず、申し訳ありません。

海に出る研究ってどんなものか興味深いので、
またこちらの方にもお邪魔させて頂きます(^^)
by おさけ (2006-01-11 02:58) 

MANTA

コメントありがとうございます >  wht-flagさん
"連載"といいつつ、のんびり(ダラダラ)続けております。
「査読とは」シリーズはあと2回です。近日中にUPしますので、
またお越しください。
by MANTA (2006-01-11 07:57) 

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